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10月10日と11日に開催されたAmazonプライム・ビッグディールデーにおいて、主要パブリッシャー各社は収益・売上・トラフィック共に満足いく結果となった。

CNNは昨年比で総収益が60%増。WSJは発注数が309%増となった。7月のプライムデーを上回ったパブリッシャーも。

イスラエルとガザの紛争報道の影響で一部プロモーションを削減したパブリッシャーもいるが、各社はニュースレターやインスタグラムを活用し、eコマースコンテンツのトラフィック獲得に成功した。


今年もパブリッシャー各社は、Amazonプライムショッピングのうまみを享受できた。10月10日と11日に開催されたAmazonプライム・ビッグディールデー(Amazon Prime Big Deal Days:日本国内では『プライム感謝祭』の名称で10/14〜15に開催。以下、PBDD)の収益とトラフィックを見れば、それがわかる。

米DIGIDAYにPBDDの結果を示したパブリッシャー5社の場合、今年2023年10月のセールでは、昨年同時期のプライムアーリーアクセスセール(Prime Early Access Sale)よりもアフィリエイト収益が増加している。なかには、業績が今年7月のAmazonプライムデーを超えたパブリッシャーも1社あった。これは、コンバージョン率が向上したうえに、ホリデーシーズンのキックオフとして、顧客が高額なアイテムを購入したことによる。

しかしながら、10月第2週は、イスラエル・ガザ紛争関連ニュースが報道を席巻するなか、オーディエンスエンゲージメント戦略やeコマースコンテンツのプロモーションに使用されるチャネルがどうあるべきなのか、そのあり方に再考が求められた。ニュースサイトのホームページをはじめとするチャネルでは、PBDD専用スペースが削減されたため、eコマースチームのなかには、ニュースレターやSNSにシフトして、ショッピングイベントのeコマースコンテンツを宣伝しているチームも見られた。

デジタルウェルネスサイトのウェル+グッド(Well + Good)では、「プライムデー月間は、ブラックフライデーとサイバーマンデーを除くと、メール活用で売上が最も伸びる時期だ」とグッド・ブランズ(Good Brands)の戦略担当シニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーのドリア・バーンズ氏は話す。

盛り上がりを見せるPBDD



ニューヨーク・タイムズ紙(The New York Times)では、eコマースパートナーシップ担当ディレクターのサラ・ウィルソン氏によると、ショッピングサイトのワイヤーカッター(Wirecutter)の収益・売上・トラフィックは、2022年10月のショッピングイベントと比較して、前年比が「大幅」に増加しているという(なお、この情報を裏付ける具体的な数字は明らかにされていない)。とはいえ、7月に開催されるAmazonプライムデーのほうが、依然として「規模の大きなイベント」であり、収益・売上・トラフィックの数字で見ると、PBDDを上回っているとウィルソン氏は話す。

CNNのショッピングバーティカル、CNNアンダースコアード(CNN Underscored)でeコマース担当バイスプレジデントを務めるマイク・ブルーノ氏も、ウィルソン氏と同じ意見だ。CNNアンダーススコアードの収益とトラフィックは、昨年2022年10月のPBDDと比較すると今年は「大幅に増加」しているという。この2日間のイベントでは、コミッション総収益が前年比60%増、CNNアンダースコアードへのトラフィックも前年比52%増だとブルーノ氏は話す。さらに7月のプライムデーも2022年と2023年を比較すると、CNNアンダースコアードの収益は98%増加したと同氏。なお、具体的な数字は提示されていない。

一方、ブルームバーグ(Bloomberg)の報道によると、AmazonはPDBBの顧客1人あたり平均支出額を推定144.53ドル(約2万1700円)、昨年2022年のPDBBから2%増としている。

ウォールストリート・ジャーナル(Wall Street Journal、以下WSJ)のeコマースブランド、バイ・サイド(Buy Side)はAmazonの2022年10月のイベント直前にローンチしたため、発表された前年比を鵜呑みにするのは難しいが、バイ・サイドのゼネラルマネージャーのエミリー・ウェルシュ氏によれば、2023年10月と2022年10月の数字を比較すると、発注数と収益はそれぞれ309%増、212%増と増加が見られるという。クリックスルー率も前年比281%増で、2023年7月のプライムデーとその3カ月後のPBDDを比較した場合、26%増となる。

ピュアワウ(PureWow)やワン・サーティセブン・ピーエム(One37pm)を発行するギャリー・メディア(Gallery Media)の場合、チーフレベニューオフィサーのクリス・アンソニー氏によると、10月に開催されたPBDDのアフィリエイト収益は前年比20%増だという。さらに今回のPBDDは、コンバージョンが今年7月のプライムデーも超えて、17%増だった。

「今回の10月のプライムデーは、価格帯の観点でいうと、ハイテク関連はかなりハイエンドで、ビューティ関連もハイエンドだ。一方、7月は家庭で使用するCPG製品がかなり多かった」とアンソニー氏。ただし、具体的な数字は提示されていない。

ギャリー・メディアのeコマース収益全体にとって2022年が当たり年だとしたら(2022年の収益は、最終的に前年比40%増を計上)、2023年も同じか上向きかといったところだとアンソニー氏は話す。Amazonのセールイベントが前年比で増加しているため、ほかが悪くても、全般的に見て同等の結果になると見ている。

世界情勢がeコマースの取り組みに与える影響



イスラエルとガザ地区の紛争を伝える速報が絶えず流れるため、ニュースパブリッシャーのなかには、eコマースチームがAmazonのショッピングイベントを宣伝する機会が、本来の計画よりも減少したというパブリッシャーもいる。

CNNアンダースコアードのチームは、自社のホームページやSNSなどほかのプラットホームで「計画していたプロモーションを一部割愛」し、その分をニュースチームに回したとブルーノ氏は説明した。さらに、トラフィックや売上に関していえば、この変化で同チームは「最低限の影響」しか受けなかったという。

ワイヤーカッターでは通常、ニューヨーク・タイムズ紙ホームページの右枠や同紙ニュースルームのSNSやニュースレターで、大型ショッピングイベントを宣伝するのが一般的だ。また、同紙のホームページにはワイヤーカッター専用モジュールもある。今回はこうしたチャネルで宣伝を続けつつ、ニュースレターでは「それを上回る成功」を実現したとウィルソン氏は話す。なお、どの測定指標が「成功」したのかは言及していない。

WSJは本来の計画を変えずに、ホームページの3つのプレースメント広告のモジュールを使用してバイ・サイドのプライムイベントを紹介している。ウェルシュ氏は具体的な数字を明らかにしなかったものの、こうしたプレースメント広告は、今年のeコマースコンテンツにトラフィックをもたらす最高の手段として役立ったと話した。

ニュースレターに投資



CNNアンダースコアードは今回のPBDDの2日目に、取引中心の新しいニュースレターを配信した。このニュースレターは今後も週2回のペースで配信する予定だ。

この新しい取引ニュースレターは、CNNアンダースコアードの主力ニュースレターで紹介されて、読者は新規登録するように勧められた。なお、ブルーノ氏は取引ニュースレターの購読者数を明かしていない。

ブルーノ氏によると、今回の取引ニュースレターはアフィリエイトの売上で、2022年のプライムアーリーアクセスセール2日目に配信したCNNアンダースコアード主力ニュースレターの「10倍」の収益を叩き出したという。同氏は、新ニュースレターのコンバージョン率を明らかにしなかったが、CNNアンダースコアードのニュースレターはどれも、クリック率ならメディア業界平均4.62%の「7倍」、オープン率なら業界平均22.15%の「4倍」を出していると話した(業界平均の数値は、メールマーケティング会社メールチンプ[MailChimp]による平均eメールマーケティングキャンペーンの統計に基づく)。

ワイヤーカッターには、毎日配信の主力ニュースレターと毎週配信のニュースレター「クリーン・エブリシング(Clean Everything)」がある。ウィルソン氏は具体的な数字は示さなかったものの、どちらのニュースレターも、今年の2日間のPBDDを昨年の2回目のAmazonセールイベントと比較すると、クリックスルー率と開封率に加えて購読者も伸びており、「記録的なエンゲージメント」を生み出したと述べた。ワイヤーカッターは、2日にわたるPBDDの間も、主力ニュースレターの配信のペースを1日1回にとどめたという。「読者にスパムメールを送りつけるつもりは一切ないので」とウィルソン氏。

「7月のプライムデーでもニュースレターを活用したが、実に記録的な高い成長を見せた。それでPBDDも引き続きこのチャネルでいくことにした」とウィルソン氏は説明する。ワイヤーカッターではニュースレターに有料広告はなく、ニュースレターの収益化はアフィリエイトリンクで行っているという。

ギャリー・メディアはニュースレターをいつもより少し朝早く配信することにした。アンソニー氏の話では、そうすると、このチャネルではコンバージョン率の向上につながる。ただし、2023年7月や2022年のイベントと比較して、今回のPBDDのコンバージョン率がどのくらい向上したのかは明らかにしていない。

インスタグラムで売上増



ウェル+グッドとCNNアンダースコアードでは、売上とエンゲージメントが最も伸びたSNSプラットホームはインスタグラムだった。

ウェル+グッドのバーンズ氏のチームはSNS限定のランディングページを作り、セール期間中は随時更新して、編集者が精選したコンテンツを提供する。一方、CNNアンダースコアードでは、Amazonのストアフロント、リンクツリー(Linktree)で作成したランディングページとストーリーズ(Stories)のリンクを活用し、売上を伸ばしていくとブルーノ氏は話す。CNNアンダースコアードは、インスタグラムのストーリーズを見たインスタグラムユーザーから寄せられた150件のリクエストに応え、カスタムメイドで製品を紹介している。

CNNアンダースコアードでは、2022年のプライムアーリーアクセスセールから2023年のPBDDまでの期間で、SNSのアフィリエイトの注文が70%増加した。同期間に、収益は17%増、利益は23%増だったとブルーノ氏。同時に、インスタグラムのリーチは47%、オーガニックリンクのクリックも16%の上昇を見せている。

しかしながら、すべてのパブリッシャーがSNSからのコンバージョンを期待しているわけではない。ギャリー・メディアのアンソニー氏によると、同社ではSNSは、これからの取引につなげるため、さらには、PBDDというセールイベントをまずは知ってもらう認知構築のためのマーケティングツールとして捉えており、TikTokやインスタグラムからのコンバージョン率は、オンサイトやニュースレターのオーディエンスと比較すると、低いものだと考えている。

[原文:Media Briefing: How publishers approached the Amazon sales event amid a breaking news cycle]

Kayleigh Barber and Sara Guaglione(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)