この記事は、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。

ネスプレッソ(Nespresso)とブルーボトル(Blue Bottle)は、初の試みとなるシングルサーブカプセルを共同開発した。ブルーボトルにとってマスマーケットへの足がかりであり、親会社のネスレ(Nestle)とっては米国の若い消費者を取り込もうとするパワープレーでもある。

両ブランドは10月5日、エチオピアとウガンダのコーヒー豆をミックスしたマイルドブレンド「ブレンドNo.1(Blend No. 1)」の限定販売を開始した。ネスプレッソのバーチュオ(Vertuo)コーヒーメーカーに収まるようデザインされたこのカプセルには、ブルーボトルのシグネチャーカラーが使用されている。10月6日から米国の一部ネスプレッソブティックで試飲できるようになり、10月18日に本格的に発売が開始される。

ネスプレッソのCEOを務めるアルフォンソ・ゴンザレス・ロスチェン氏は、ブレンドNo.1の目標は、単にブルーボトルのコーヒーをネスプレッソの形式で販売することではないと、米モダンリテールに語った。双方のブランドのコーヒーマスターは、3年以上にわたってブレンド作りに取り組み、最終的なブレンドを決定するまでに6回以上もブレンドの試作品を作った。名前が示すように、今後新たなブレンドが発売される可能性もある。

「2つのブランドのあいだには、さまざまなやり取りがあった。両ブランドには共通の哲学が存在していた。それは、なによりもまず品質、つまり妥協のない品質、信用できる調達、そして細部への十分な注意と情熱だ」と同氏は述べている。

若い顧客層の獲得



ネスプレッソは、手頃な価格でカラフルなバーチュオポップ(Vertuo Pop)の発売に続き、今回の発売で、若い顧客層の獲得をめざしている。また同社は、さらに多くのアイスコーヒーブレンドを発売し、今年前半にはスターバックス(Starbucks)と提携して限定版ブレンドを発売した。直近の決算発表によると、今年上半期の売上は、全体では1ケタ成長だったが、北米では市場シェアが引き続き拡大し、2ケタ成長を達成した。

そして、ネスレが2017年に過半数株式を取得して買収したブルーボトルにとって、このコラボレーションはより幅広いアピールをめざすものだ。創設から20年のブルーボトルは、最初のカフェを開く前に、トレンディなベイエリアのコーヒーカートとして、コーヒーのサードウェーブの時代に登場した。カフェの店舗数は2016年の29店舗から、現在は全世界で100店舗以上となり、ミニマルでクリーンなスタイルの店舗を特徴としている。オンラインでは豆やインスタントコーヒーを販売しており、サブスクリプションモデルもある。

どちらのブランドも、インスタグラムを中心としたソーシャルメディアでこのブレンドを宣伝する。10月18日に公開される動画もそのひとつだ。

コロナ禍に生まれたコラボレーション



ブルーボトルのCEOを務めるカール・ストロビンク氏は、ネスプレッソとのコラボレーションを開始したのはパンデミックのときで、当時はカフェが閉店しており、双方とも対面でのコーヒー販売の将来を考えていたという。

「強制された仕事ではなかった。両ブランドが余分な時間を割いたからこそ、このブレンドが生まれたのだ。ブルーボトルの一部の人々にとってはある意味で命綱となった」と同氏は述べている。

フォレスター(Forrester)のバイスプレジデントでプリンシパルアナリストを務めるブレンデン・ウィッチャー氏は、ネスプレッソは、顧客の要求を満たすための高品質ブランドとして位置づけることに集中してきたと語る。新商品の発売は、革新的で新鮮な製品を提供し続けるための方法だと、同氏は述べる。ネスプレッソのような家庭向けコーヒーブランドは、スターバックスのような外出先でさっと買えるようなコーヒー店の利便性と競争する必要があるため、特にこの方法が重要だ。

「利便性を追求しないのであれば、顧客を引きつけるほかの何かが必要だ。それはネスプレッソにとって素晴らしいニッチであり、それによって、独自のカテゴリーで堂々と勝負できる」と同氏は述べている。

互いを高め合う関係



コンサルタンシーのランデルミルズ(Landell Mills)でチームリーダーとしてコーヒーに特化しているアンドリュー・ヘッツェル氏は、双方のブランドの所有権や、ブルーボトルが家庭向け市場に食い込むための新たな方法を模索し続けていることを考えれば、今回の発売は理にかなっていると語る。

「ブルーボトルがさらにネスレファミリーと統合されることで、これは自然な流れになる」と、同氏は述べている。

ブルーボトルは、スペシャルティコーヒーをフェアトレード価格か、それより高い価格で購入し、一般に高品質ブランドとして認知されているが、通常、世界でもっとも高価なコーヒーを調達しているわけではないと、ヘッツェル氏は述べる。ネスプレッソとは、規模の拡大が可能という点で、相性がいいという。しかし全体としては、どちらのブランドもコラボレーションの恩恵を受けられる立場にある。ネスプレッソにとって、カタログにブルーボトルの名前があることで、このブランドになじみがある消費者を勝ち取ることができるからだと、同氏は述べている。

「ブルーボトルは、ショップがおしゃれでかっこいいものになるよう、デザインを注意深く厳選するとともに、飲み物も見た目も味も良くなるよう作り上げている。このような取り組みは、自社を常に高いレベルのソリューションというスタイルをとってきたネスプレッソとよく適合している」と、同氏は述べている。

シングルサーブを試すコーヒーブランド各社



商品の観点からみると、ブレンドNo.1のカプセルは、ブルーボトルが手がけた初のシングルサーブカプセルだ。カフェからシングルサーブでの販売に転向したブランドはほかにもある。キューリグドクターペッパー(Keurig Dr. Pepper)ブランドのインテリジェンシア(Intelligentsia)は昨年、この転向を行った。また、ピーツ(Peet’s)や、スターバックス、ダンキン(Dunkin)の商品はケーカップ(K-Cups)として広く販売されている。

しかし、ゴンザレス・ロスチェン氏やストロビンク氏にとって、ブレンドNo.1は、自宅で高品質のコーヒーを飲みたい消費者へのアピールをめざしたものだ。バーチュオのシステムでは、カプセルの中身に関係なく提供する単一の方法とは対照的に、カプセルを読み取って温度や抽出時間の長さを決定する仕組みになっている。

「どのようなコーヒーブランドでも、ポッドは作れる。ここで売りになるのは、スペシャルティコーヒーをほかの形式でも提供できるようにすることだ」と、ストロビンク氏は述べている。

[原文:Why Blue Bottle is rolling out its first capsule collaboration with Nespresso]

Melissa Daniels(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Nespresso