記事のポイント

クリプトの冬とも称される現在、ブロックチェーン技術やクリプトへの懐疑論が高まっている。NFTの95%以上は現在、実質的な価値を持たないとされる。

一部のブランドはWeb3技術を取り入れ続け、新しい価値の創造を試みている。ナイキはカスタムデザインのスニーカーを作成できるWeb3マーケットプレイスを導入し、スターバックスやルフトハンザも独自のWeb3取り組みを展開。

ロイヤルティプログラムや資産の分割所有(土地や飛行機の座席、芸術品など)を提供するスマートコントラクトなど、ブロックチェーンにおける新しいキラービジネスモデルの模索が進んでいる。


クリプトの冬? マーケターには関係ない。

ブロックチェーンテクノロジーへの懐疑論は高まっているし、クリプトの冬将軍が到来してもなお、ブランド勢のWeb3マーケティング予算は凍っていない模様だ。

Web3から手を引くどころか、一部のマーケターはクリプトの定義を拡大し、2022年のNFTドロップの多くに著しく欠けていた実用性の創造に目を向けている。

大半のブランドは見限っているが



少し言い換えておこう。マーケター勢がクリプトを見限っていないわけではない。むしろ、大半は見限っておりおり、なかでもブランデッドNFTコレクションを短期的収益のチャンスと捉えていたところはそうだ。

Web3コミュニティのダップギャンブル(dappGambl)による最近の調査によれば、NFTの95%以上はもはや無価値であり、したがって、同テクノロジーにいまだ信頼を寄せるブランド幹部らは、2023年、顧客に購入を促すために、いまよりもはるかにクリエイティブになることを強いられている。

「2022年末にはたしかに、少しばかり落ち込みはあった。多くがブランデッドメタバース的なことを試みたわけで、ブランド勢への売り込みの根拠が多少枯れたのは事実だ」と、Web3ビルディングベンチャー企業、ザ・ビルディング・ブロックス(The Building Blocks)の創業パートナー、グレイシー・ペイジ=フォッザティ氏は話す。「派手な宣伝文句だけで終わらず、深い価値を顧客に届けるのが依然よりもかなり困難になっているのは明白だ。だからこそ、私が思うに、CMOの多くはCPOやCIOと協力して新たな価値を創造する必要性に気づいている――これはたんなるマーケティングよりも大きなものになると」。

事実、Web3をマーケティングもしくはコミュニティの構築スキームではなく、ダイレクトコマース機会として捉えるブランドも出てきている――つまり、そうした機会がなければ、アクセス手段も予算的余裕もない顧客に対し、自社製品の所有権を提供する術として。たとえばプーマ(Puma)とドゥカティ(Ducati)はいずれも、Web3の現状はオンラインeコマースの初期状況に近いものがあると、最近米DIGIDAYの取材に語っている。

「キラービジネスモデル」が誕生するのか



「ブランドとして、我々はECとソーシャルの過去をいわばふり返り、こう考えている――『いいか、この機会は絶対に逃せない』」と、プーマのエマージングマーケティングテック&Web3部門トップ、アイヴァン・ダシュコフ氏は話す。「こうした新テクノロジーの一部には、投資し、テスト&ラーンをくり返したい。おそらく、この先数年、使用法については変えていくかもしれないが、いずれにせよ、積極的に採り入れていくつもりだ」。

実際、大渦を巻くクリプト懐疑論に放り込まれたことで、マーケター勢は2023年、暗号資産やNFTに留まらず、それを支えるテクノロジーのより有意義な活用を強いられている。たとえばナイキ(Nike)は自社Web3マーケットプレイス、.Swoosh(ドット・スウォッシュ)を立ち上げ、ファンが各々、スニーカーをカスタムデザインできるようにしている。

「スターバックス・オデッセイ(Starbucks Odyssey)が登場し、ルフトハンザ(Lufthansa)がアップトリップ(Uptrip)――同社のNFTロイヤルティプログラムだ――を発表するなか、人々は文字どおり一歩引いて見つめ直し、Web3は暗号資産やNFTよりもはるかに幅広く活用できることに気づきはじめている。実際のところ、エンゲージメントを促すのはそうした隠れた実用性にほかならない」と、Web3企業スマートメディア・テクノロジーズ(SmartMedia Technologies)のCEOタイラー・モービウス氏は指摘する。

ロイヤルティプログラムは、企業勢がWeb3テクノロジーをレベニュードライバーに変えるの一手段だが、観測筋の一部いわく、ブランドらは依然、同テクノロジーの多岐にわたる活用法の表面を撫でているに過ぎず、たとえばブロックチェーンにおけるスマートコントラクトによる高級品の一部所有も大きな可能性を秘めているという。

「それはまさしくキラービジネスモデルになると、私は考えている――今後、誰も彼もが何もかもを分割するようになると。たとえば、ザ・ビルディング・ブロックの私の共同創業者は、ここ英国の[政府機関である]土地登記所と協力し、土地所有権のブロックチェーン上での移行を史上初めて実現している。つまり、そうしたことに人々はすでになじみ始めている、ということだ」とペイジ=フォッザティ氏は話す。「さらに、飛行機の座席の分割化や芸術作品の分割化も行なわれており、これはいま注目のWeb3ビジネスモデルになっている。今後、高級ブランド勢が自身の名声を損なうことのない分割化モデルを考案できれば、このセクターの巨大成長が一気に起きることも考えられる」。

未来の顧客がいる場所は



2023年、一部ブランドの役員室は依然、良きにつけ悪しきにつけ、クリプトの冬の寒さから隔絶されている。だが、クリプト懐疑論の圧力が強まるなか、たんにブランデッドNFTをドロップして最善の結果を祈るのではなく、コアオファリングと顧客ベースを支えるためにブロックチェーンテクノロジーを活用する術を見つけ出すことは、企業にとって喫緊の課題になりつつある。

「私の娘たち、そう、彼女たち若者はすでにこの世界にいる。この新テクノロジーと共に成長してきたのであり、彼女たちにしてみれば、そうしたテクノロジーはごく当たり前のものだ」と、ドゥカティのマーケティングマネージャー、アレッサンドロ・チコニャーニ氏は話す。「彼女たちは未来の顧客だ――そして、我々は未来の顧客がいるところにいたい」。

[原文:As crypto winter ramps up, why some marketers aren’t feeling the cold]

Alexander Lee(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)