掲載:THE FIRST TIMES

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■「僕は君たちのことは全然好きじゃないけど、愛してるよ」(甲本ヒロト)

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2010年代のザ・クロマニヨンズと言えば、秋にアルバムがリリースされ、その後からリリースツアーで少なくとも50公演以上のリリースツアーを年またぎで行うというサイクルが長らく恒例となっていた。だが2020年のコロナ禍によりそれが崩れ、配信ライブや6ヵ月連続シングルリリースなどこれまでにない趣向の活動を重ねてきた。
そして2022年1月からは2年ぶりの全国ツアー『SIX KICKS ROCK&ROLL』を全国26ヵ所で、2023年1月からは16作目のアルバム『MOUNTAIN BANANA』を引っ提げたリリースツアーを全国24ヵ所で開催するなど、主に全国のホールを回り続けてきた。

そんな彼らがこの秋のツアー『月へひととび』で回ったのは、全国13ヵ所のライブハウス。キャパシティ500人前後の会場が大多数を占めるツアーは約3年半ぶりであり、リリースツアーではないライブツアーは2008年の『ピッチピッチ チャップチャップ ランランラン』ツアー以来約15年ぶりだ。元来ザ・クロマニヨンズが持つ瑞々しさと純度を、より味わえる環境と言ってもいいだろう。

ツアー11公演目のLIQUIDROOMも、バンドの鮮度がダイレクトに飛び込んできた。

開演時刻にスタッフがステージに現れ、5つの最低限のマナーを呼び掛けると、「狂喜乱舞の名のもとに、今夜は爆音響かせる。月へ向かって爆ぜろぶっ飛べぶちかませ!」という口上から、スペースシャトルの打ち上げのカウントダウン音声と、SEのThe Tornados「Telstar」が流れだす。観客の高らかなクラップに乗って真島昌利(Gu)、小林勝(Ba)、桐田勝治(Dr)の3人が登場し、後から現れた甲本ヒロト(Vo)は会場の奥まで覗き込む仕草を見せて何度も頭を下げる。彼の「オーライ! ロッケンロール!」の掛け声とともに3人が一斉に爆音を鳴らし、「キラービー」でこの日の幕を開けた。

集中力により研ぎ澄まされた密度の高い演奏とボーカルには、一切の妥協や余計なものが一切ない。甲本がステージ上で見せる個性的かつ華やかなモーションは、その一挙手一投足はメンバー3人が奏でる音のリズムやラインをしっかりとおさえていた。彼の挙動のすべては、音楽による反射なのだろう。3人の出す音が、観客の喜びに満ちた歌声や声援が彼にとって心地よいからこそ、それが立ち回りとなって表れる。

そして真島、小林、桐田の3人もただただ楽曲に向かって、自身の美学を剛速球で投げつけるようだ。ただただ音楽に向き合うことに全神経を注いでいるからこそ、あのしなやかなパフォーマンスは実現する。全身でロックンロールを体現する姿は、どうしたって目が離せない。

「アホみたいに騒いで帰ってくれ。今日は宇宙で一番スゲエ夜だから」と甲本が告げると、「キスまでいける」へ。甲本が間奏明けの歌い出しのタイミングを先走ると照れくさそうにはにかみ、思いがけない展開に観客からは歓声が起きる。「犬の夢」はロマンチックなコードワークとコーラスが会場を彩った。リリースツアーではないため、新旧様々なシングル曲とアルバム曲が次々と畳みかけられる。バンドの歩んできた歴史をタイムマシンで旅するようなセットリストは、まさに『月へひととび』のツアータイトルに相応しい。そんなことを考えているとなだれ込んだのは「ムーンベイビー」。観客とのコール&レスポンス、真島のギターと甲本のブルースハープのソロプレイと、ライブならではの迫力に満ちた音像が晴れ晴れとしていた。

メンバーに絶えず声を贈る観客たちに向かって、甲本は「ありがとう。僕は君たちのことは全然好きじゃないけど、愛してるよ」と笑う。「雷雨決行」「エイトビート」など高揚感のある情熱的なナンバーを畳み掛けると、真島のギターがなめらかに響く「グリセリン・クイーン」の後、桐田の火力の高いドラムソロに乗せて甲本の目の前にマイクスタンドが置かれる。

「ここから最後まで勝治叩きっぱなしです! 叩け叩け!」と甲本が叫び、青い照明に包まれて「底なしブルー」へ。4人の鳴らす音も観客のシンガロングも豪快なムードに拍車をかける。ドラムに乗せて甲本がハープを吹くと、そこにギターとベースが重なりなだれ込んだ「暴動チャイル(BO CHILE)」さらにスリリングな音像が巻き起こった。

ロックに突き動かされるメンバー4人と、そんな4人が鳴らす音と言葉に突き動かされる観客たち。真島と小林がステージ前方に揃って前に出ると、「エルビス(仮)」でさらに熱量を上げていく。「GIGS(宇宙で一番スゲエ夜)」は今この会場のことがそのまま曲になっていると感じるくらいに、出来立てのようなフレッシュさに息を呑んだ。これだけのキャリアがあるバンドが、ここまでいつも新しい気持ちで音楽を楽しめることは、受け手からすると奇跡的だ。だが本人たちにとってはごく当たり前のことなのかもしれない。飽きもせず、慣れもせず、舐めもせず、音楽に胸を高鳴らせ続ける4人の姿はとてもナチュラルで美しい。

本編を1stシングル曲「タリホー」で締めくくると、再びステージに登場した4人はツアーグッズのマフラータオルを掲げ、甲本が「名残惜しい、もうちょっとやらせてくれ!」と告げる。そこから「イノチノマーチ」、「ギリギリガガンガン」と生命力に溢れた演奏を繰り広げると、ラストは「ナンバーワン野郎!」。フロアとのコール&レスポンス、ハープとギターのソロ回し、ドラマチックなリズムセクションと、最後の一音まで花火のようにスケール大きく輝いていた。

ザ・クロマニヨンズのライブからただひたすら滲むのは、骨の髄までロックンロールに魅せられた人間の生き様であった。彼らのステージ上で巻き起こるものはどこを切り取っても音楽そのもので、彼らが音楽に没頭すればするほど連鎖反応で観ている者もその音の威力に突き動かされてゆく。冒頭で今ツアーについて「ザ・クロマニヨンズが持つ瑞々しさと純度を、より味わえる環境」と書いたが、今回に限らず彼らはいつなんどきもそういうライブを積み重ねてきたのだろう。それだけの説得力が演奏とボーカルの一つひとつから、さらには彼らへの信頼がほとばしる観客の歓声からも感じられた。10月18日にリリースされるライブ盤『ザ・クロマニヨンズツアー MOUNTAIN BANANA2023』でもその感触を味わうことができるだろう。

彼らは今も、ロックンロールに心を燃え上がらされている。ひとつのことを極める人間にしかたどり着けない境地であると唸ったが、1曲1曲にあれだけのエネルギーを注ぎ込む彼らにとって、ここは終着点ではないのだろう。今もなお、眼光を鋭く己のロックンロールを研ぎ澄まし続ける――そんな彼らの姿に心の奥底まで奮わせられた。

TEXT BY 沖さやこ
PHOTO BY 柴田恵理

リリース情報
2023.10.18 ON SALE
ALBUM『ザ・クロマニヨンズ ツアー MOUNTAIN BANANA2023』

2023.12.13 ON SALE
SINGLE「あいのロックンロール」

2023.12.13 ON SALE
ANALOG「あいのロックンロール」

ザ・クロマニヨンズ OFFICIAL SITE
https://www.cro-magnons.net/