仕事ができる人とできない人はどこが違うのか。作業療法士の菅原洋平さんは「仕事を要領よくこなすには『1作業・1スペースの法則』を守ることが大切だ。時間を惜しんで、自分のデスクで昼食をとるのはやめたほうがいい」という――。

※本稿は、菅原洋平『「仕事が終わらない人生」が180度変わる 努力に頼らず「要領がいい人」になる40のコツ』(アスコム)の一部を再編集したものです。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SeventyFour

■要領よく仕事をこなすためのシンプルな方法

作業療法士とは、身体や精神に障害のある方の動作能力を回復する手助けをするリハビリテーションの専門職です。

たとえば、食べたり、おふろに入ったり、着替えたり、出かけたり、仕事をしたり。病気やけがで、こういった日常的な動作ができなくなってしまった人に、もう一度やりたいことができるようになるための「作業療法」をほどこすのが仕事です。

作業療法を行うためには、「脳のはたらき」についても熟知していなくてはなりません。なぜなら、日常的な動作には、すべてに脳がかかわっているからです。

私は以前、国立病院機構で多くの患者さんの脳のリハビリテーションに従事してきました。その中で、自らの脳や体の仕組みに関心を持ち、その力を上手に引き出すことに面白さを感じるようになっていきました。

人間の脳に優劣はなく、その仕組みを知り、活かすことで行動変容を促し、パフォーマンスを上げることができる。この医学的な知見は、ビジネスで活かせるのではないかと考えました。そして病院から独立し、1000件以上の企業研修を通じて、働く人たちの悩みの解決や、パフォーマンスを最大化するためのアドバイスを続けています。

■ランチを自分の仕事机で食べてはいけない

そんな私ですが、以前は短時間で多くの患者さんを診たり、受診したメールに即レスしたりすることが「デキる人」だと思い込んで、一生懸命に頑張っていた時期がありました。

同時並行でタスクをこなさなければと焦り、つねに「自分はまだまだだ」と自己肯定感が低い状態でした。そしてがむしゃらに働き続けた結果、40歳すぎにして、はたと「あれ? なにが残ったんだろう……?」と困惑してしまったのです。

そこではじめて「効率化=要領がいい」ではないことに気がつきました。私が思っていた「仕事がデキる像」とは、ただの幻想だったのです。

どうすれば仕事の効率は上がるのか。ビジネスパーソンにとって永遠のテーマですよね。もっとたくさんの仕事をこなしたいと思ったとき、いろいろな作業を同時進行したり、少しのすき間時間も惜しんで作業をしたり。

たとえばあなたは、「デスクで書類やパソコンにまみれながら食事をしている」ということが多いのではないでしょうか。日中の用事がデスクの上ですべて完結できれば、動かなくていいし効率的に思えるかもしれませんが、実はこれ、脳によくない行動です。

目に見える誘惑が多いほど、脳には自動的に余計な情報が入ってきます。それに対応して血圧や心拍数が高まり、その影響で1つのことに集中できなくなり、結果的に効率が悪くなってしまうのです。

では、どうすればいいのでしょうか。

■「1作業・1スペースの法則」が脳の集中力を高める

それがわかったのは、脳の特性を発揮できる条件というのは、人それぞれ違うというのに気づいたからです。

脳には、空間と行動をセットで記憶するという特性があります。そして、記憶はその人固有のものです。その人の経験上で「この場所ではこういう作業をする」ことが記憶されていき、その場所にいるだけで脳があらかじめ作業の準備をするようにカスタマイズされていくのです。

ところが、1つひとつの作業をおろそかにして、冒頭で例に挙げたように仕事用のデスクで食事もとるなど同じ場所で違う複数の作業を行うと、脳の準備が追いつかず、混乱してしまいます。作業を変えるたびに慌てて代謝が高められるため、脳の負担が大きくなってしまうのです。

さらに、予定なく高まった代謝は、作業が終わったあとすぐには落ち着きません。この影響で、席についてもなかなか作業に集中できなかったり、作業を終えても不必要な情報をだらだら見てしまったりしてしまうのです。

■作業と場所が「要領のいい仕事」を導く

そこで、まずは1つの作業を選び、その作業だけを行う場所を設定してみましょう。

たとえば、仕事用の席を決めたら、その場所では、スマホを見たり、飲み食いをしたりすることは避けます。席を立ってスマホを見て、なにも持たずに席に戻る。こうすることで、あっさりと作業に集中することができます。

1つの作業は、1つの場所で行う。

これだけで余計な情報に振り回されず、高い集中力を維持できるはずです。

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他人と比べたり、一度にたくさんの仕事をしようとしたりするのではなく、自分なりの作業と場所の設定ができていることが、真の「仕事ができる」「要領がいい」ということ。

その人が培った経験にもとづいて、その人らしい行動をすることが、本当の要領のよさなのです。「会社のデスクについた瞬間に仕事モードに切り替わる」という人は、まさにこれをうまく活用できていると言えます。

■「わかっているのにやめられない」を防ぐには

先日、時間にルーズなことで深刻に悩んでいる方が相談に来られました。

「いつも睡眠不足でボーッとしています。原因ははっきりしていて、自分の趣味(アニメの動画を見ること)に熱中しているから。ここまでやったら終わりにしよう、と思っているのに、何度も繰り返しているうちに時間が経っていて、結局深夜まで見てしまうんです。そのせいで遅刻も多く、わかってはいるんですけど……」(30代男性)

わかっているのにやめられない――。

そんなときには、脳の神経伝達物質である「ドーパミン」の特性を活用して、衝動的な欲望を抑える方法が有効です。

そのために、カギとなるのが「身体感覚」。ドーパミンには行動を制御する「コントロール回路」があります。これは、記憶されている身体感覚を振り返ったときに発動します。

それを活用して、リアルで具体的な身体感覚としてイヤな行動をイメージすると、脳が勝手にそれを避けるようになるのです。

たとえば前述の男性の場合、欲望に負けて「アニメを見続けた結果、どうなったか」を次のように振り返ってもらいました。

・睡眠時間が削られ、寝不足になる。そのあと3日くらい生活リズムが乱れる
・一時的にはストレスが解消するけど、結局後悔するし、見てしまったこと自体もストレスになる

■過去に味わった不快な感覚が有効

ここでさらに、「ストレスとは具体的にどんな状態か」を言語化してもらいます。

・息が詰まるような、肩に重くのしかかるような感じ

このように分析してもらった結果、2週間後に男性は自然と深夜のアニメをやめられるようになり、睡眠不足も解消できたようです。あれほど深刻に悩んでいたのに、「そんなことありましたっけ」というくらい、淡々としていたのをよく覚えています。

目の前の欲求にふりまわされて「また同じ過ちを犯しそうだな」と思ったら、「過去に味わった不快な身体感覚」をできるだけ細かく思い出してみてください。

・誰かに迷惑をかけて、胸がキュッと締め付けられるような思いをした。
・先延ばしをしてしまい、急いで作業した結果、頭痛と肩こりがひどく悪化した。
・寝不足で仕事をしたらあり得ないミスをしてしまい、ショックで食べ物がのどを通らなくなった。

そうした不快な身体感覚を振り返ることで、自然に欲求と距離を置くことができます。さらに、ドーパミンは増えたきっかけとなった行動を強化するため、上手くいった行動をまた繰り返すようになります。

まるで以前からそうしていたかのように、その行動は自動化されていくのです。

このように、脳の特性をいかせれば、頑張らなくても脳が適切な選択をしてくれるので、自然と要領よく仕事をこなせるようになります。

■ポジティブな感情、ネガティブな感情は仕事の邪魔になる

さらに、脳の特性を自然と発揮しやすくするコツがあります。

それは、「リラックスすること」。

イメージ的には、強い思いや気合いがあったほうが、脳が目覚めて活発に動く感じがするかもしれません。ですが、実はこれ、脳にストレスがかかっている状態です。

脳の活性度合いを「覚醒水準」と呼ぶのですが、アーチェリーや射撃、ゴルフなどの研究結果から、覚醒水準が適度に低いほどリラックスして、よいパフォーマンスが発揮できることが、明らかになっています。

さらに、期待や気合いというポジティブな思いも、不安や焦りというネガティブな思いも、心電図や心拍数、自律神経などのデータでは同じようにストレスがかかっていることがわかりました。つまり、ポジティブでもネガティブでも、思いが強いとパフォーマンスは低下してしまうのです。

そこでおすすめしたいのは、「脳の暴走を10秒で止める『すき間』づくり」です。

「やばい! あれこれ気になって、やるべきことに集中できてない!」

そう思ったら、いったん作業や思考をストップ。作業と思考の間にすき間をつくりましょう。たとえば、席を立って10秒歩き、また元の作業に戻ってみる。これだけで、欲求の暴走はスーッと消えていきます。

■脳の特性をいかせば「要領のいい人」になれる

「そんな簡単なことで?」と思うかもしれませんが、実は、このときの脳内では「デフォルトモードネットワーク」というものが働いています。

これは、安静にしているときに脳の複数の領域が働いてつくられるネットワークのことで、それまでに得た情報を脳の中でまとめ、スッキリと整理する役割を担っています。

菅原洋平『「仕事が終わらない人生」が180度変わる 努力に頼らず「要領がいい人」になる40のコツ』(アスコム)

まるで自動車のアイドリングのように、次に動き出すための準備をしている状態です。

逆に、「デフォルトモードネットワーク」の機能が弱まっていると、脳内で情報がぐちゃぐちゃに散らかったような状態になってしまいます。冒頭でお話ししたデスクの話をイメージしてもらえれば、わかりやすいかもしれません。

このように、脳に気持ちよく働いてもらえる仕組みを理解すれば、努力に頼らず仕事が進むようになります。

脳の仕組みをいかすコツは、この他にもたくさんあります。ぜひ、自分なりの脳の特性の活かしかたを見つけて、仕事の効率をアップさせてください。

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菅原 洋平(すがわら・ようへい)
作業療法士
ユークロニア代表。アクティブスリープ指導士養成講座主宰。1978年、青森県生まれ。国際医療福祉大学卒業後、国立病院機構にて脳のリハビリテーションに従事。2012年にユークロニアを設立。東京都千代田区のベスリクリニックで外来を担当しながら、ビジネスパーソンのメンタルケアを専門に、生体リズムや脳の仕組みを活用した企業研修を全国で行う。著書に『あなたの人生を変える睡眠の法則』(自由国民社)、『すぐやる!』(文響社)などがある。
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(作業療法士 菅原 洋平)