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現在放送中のTVアニメ『ヴィンランド・サガ』SEASON2第2クール、そのEDテーマ「Ember」を歌唱するのが、実力派バーチャルシンガー(Vシンガー)として注目を集めるhaju:harmonicsだ。2022年8月に最初のオリジナル楽曲「≒」を公開して以降、カバー動画を含め立て続けに楽曲を発表して、繊細かつ感情に訴えかける音世界を広げてきた彼女だが、その実像に関しては未だ謎の部分が多い。「白く輝く少女」「ひとつの体にふたつの声が紡ぐ歌」「世界のエンドロール」――これらのキーワードは何を意味し、彼女はどこに向かおうとしているのか。デビューEP「Ember」をリリースするこのタイミングで、haju:harmonicsを運営するhaju:unionに話を聞くことができた。

INTERVIEW & TEXT BY 北野 創(リスアニ!)

「エンドロールの世界」で歌う白い少女の物語



――まずは「haju:harmonicsとは何なのか?」ということをお伺いしたいです。いわゆるバーチャルシンガー(Vシンガー)だとは思うのですが、「二つの声が紡ぐ歌」とはどういうことなのでしょうか?

haju:union haju:harmonicsは“命の二面性”というテーマを持っていて、一貫して「命の美しさと醜さ」について歌ってくれています。そして、命がもつ表裏一体の二面性を表現するうえで生まれたのが「ひとつの体にふたつの声があるVシンガー」です。眼にみえる存在としてはhajuという1人の女の子なのですが、その中に「希望(haju_h)」と「絶望(haju_d)」という2つの面があり、あまり伝えられていないことですが、それぞれを象徴する2人の歌い手が存在しています。よく動画のコメントで「この歌い分けはすごい!」といった評価をいただくことも多いのですが、嬉しい反面、上手くお伝えできておらず、心苦しいです。

――見た目的には1人なので、その先入観が大きいんだと思います。でも、確かに「1つの体に2つの声がある」というのはバーチャル体だからこそできるアイデアですね。

haju:union VTuberの大きな可能性とは、例えば絵が上手な人、声が良くて歌が上手い人、お話しするのが上手い人、その他にも色んな人の才能を集めて、それらの才能が新しい一つの人格を生むことだと思っています。新しい人格が生まれれば、そこに新しい物語が生まれます。hajuには「エンドロールの世界で歌っている女の子」という物語があります。作家さんに楽曲をお願いする際は、そういったバックグラウンドを説明したうえで、その世界観に合う楽曲を制作してもらっています。

――「エンドロールの世界」というのは?

haju:union 詳しいことはまだ公にしていないのですが……簡単に説明すると、こことは違う、ある彼岸の世界で、様々な出来事とともに楽曲が生まれていく、というストーリーになっています。「エンドロールの世界」に関しては、グラフィックデザイナーのパンチさんが、美しい世界観イラストを起こしてくださいました。



――haju:harmonicsのオリジナル楽曲に関しては、その「エンドロールの世界」の世界観に沿って制作が進められているわけですか?

haju:union はい。“命の二面性”がテーマに、曲想の幅は広く作っていきたいと思っています。例えば「老い」や「食べる」といったことも命に関わることですし。あとは作家さん自身がそのときに興味があることを尋ねて、それを取り入れていただいたりもしています。「≒」を書いていただいた澤田(空海理)さんからは、キュートアグレッション(※かわいいものを見ると攻撃的な衝動に駆られること)みたいなものを入れ込んでみたいというお話があったりもしました。作家さんと「そのテーマだとhajuのこういう部分が合うかもしれないです」といったお話をしながら楽曲の輪郭を作っています。



――その意味では、楽曲を制作するクリエイターの皆さんを含めて、haju:unionと言えるのかもしれませんね。

haju:union それは本当におっしゃる通りで、今回のEPで協力してくださった方々も含め、これまで関わっていただいた方全員がhaju:unionという気持ちでいます。「haju:harmonics」は、hajuを取り巻くすべてが集まった体験であるというのは、裏側のコンセプトとして持っています。

『ヴィンランド・サガ』と“命の二面性”で共鳴する歌声



――今回、TVアニメ『ヴィンランド・サガ』SEASON2第2クールEDテーマ「Ember」で初のアニメタイアップを担当したわけですが、この楽曲はどのような流れで制作したのでしょうか。

haju:union まずスタッフ一同『ヴィンランド・サガ』のファンだったこともあり、コンペのお声がけは本当に嬉しいものでした。今回のアニメで描かれるトルフィンとクヌートの物語は、ある種、haju:harmonicsが表現している“命の二面性”にも通じる部分があると感じたので、そのことを(作詞を担当した)THE CHARM PARKさんに説明したうえで書いていただきました。トルフィンは争いではなく平和を求めていますが、命を救うことは誰かを殺すことにも繋がります。ときには逃げ出して生き延びることが大切かもしれません。それはどちらが良くてどちらが悪いというのではなくて、きれいさの中に醜さがあり、醜さの中にきれいさがあるというような二面性に繋がるのではないか?といったことを話していました。結果、素敵な歌詞にしてくださいました。

――楽曲タイトルの「Ember」は「残り火」という意味です。

haju:union トルフィンもクヌートも1回燃え尽きて今に至っていると思うので、その意味でもキャッチーだし秀逸なタイトルになったと感じます。

――アニメ制作サイドから特別な指定やオーダーはありましたか?

haju:union コンペということで、どういう楽曲にするかは委ねられていました。ただ、アニメスタッフの方々とも相談したこととして、歌に関しては、深みというか強さが感じられる「希望(haju_h)」をメインに、透明感のある声質の「絶望(haju_d)」がサビの高揚感を強調するような構成にしていただきました。haju_dはたくさんの英語詞を歌ってくれましたが……英語詞の歌唱に慣れていなくて本当に大変そうでした(笑)。お疲れ様でした。

――『ヴィンランド・サガ』は生と死が表裏一体にある時代や文化の物語なので、その意味でも、haju:harmonicsの楽曲はしっかりと作品に寄り添うものになりましたね。

haju:union これは原作の幸村(誠)先生が作品の後書きでおっしゃっていたことなのですが、『ヴィンランド・サガ』という作品は、先生の中で「本当のヒーローとは何か」ということを考えて生まれた作品だ、と。肉体的ではなく精神的に強い者こそがヒーローであり、トルフィンがその精神性を獲得するまでとその先の物語を描かれているそうです。今回のアニメではまさにトルフィンが英雄になる過程が描かれているので、観ていて心の強さとは、勇気とは何かを真剣に問いかけられるような気がするんです。その意味で「Ember」も、「本当の勇気」が表現できていたらと思います。

様々なクリエイターが織り成す、haju:harmonicsの音世界



――今回の1st EPには、そのほかにもこれまでYouTubeなどを通じて発表してきた5曲のオリジナル曲が収録されています。先ほど第1弾楽曲「≒」のお話は聞いたので、残りの楽曲についてもお伺いさせてください。第2弾楽曲「神様へ」はボカロPのbuzzGさんが提供しています。

haju:union 「≒」は、本当に良い楽曲に仕上げていただきました。2曲目としては、別のテイスト、例えばライブでも楽しんでいただけるようなhaju:harmonicsとしてのロックを作りたいという話になりまして、buzzGさんにご相談したところ、快く引き受けてくださって制作した楽曲になります。ポエトリーリーディングのパートも挿し込んでくださったので、様々な表現をレコーディングで試すことができて楽しい収録でした。



――第3弾楽曲「ビスポーク」は、「≒」と同じくシンガーソングライター活動も行っている澤田空海理が書き下ろした、3拍子の優雅かつ繊細なミディアムナンバー。

haju:union これは「神様へ」とほぼ並行で制作していたのですが、「≒」で名刺代わりの楽曲ができて、「神様へ」でライブ向けのロック曲を作っていたので、今度は澤田さんに少し変奏的な楽曲をご相談したところ、ワルツ調の楽曲をご提案いただいたんです。なおかつ「命」に触れるような過剰摂取をテーマに、強さと醜さを上手く表現することを目指して作ってくださったのが「ビスポーク」になります。



――砂守岳央さんと松岡美弥子さんが楽曲提供した第4弾楽曲「つみのうぶごえ」は、それまでの楽曲とは趣きを変えた幻想的なナンバーです。

haju:union スタッフに未来古代楽団(※砂原と松岡による音楽ユニット)の「忘れじの言の葉」が好きな人間がいまして…せっかくだからカバーするのではなく、お二人に「hajuのための『忘れじの言の葉」を作ってもらおう」ということでお願いしました。お二人らしさが全開の曲調になりましたし、“命の二面性”というテーマにもど真ん中の歌詞を書いてくださいました。



――そして第5弾楽曲「月蝕」は、劇伴作家としても幅広く活躍されている出羽良彰さんが作編曲、ヒットメイカーの岡嶋かな多さんが作詞を担当されています。

haju:union 出羽さんの楽曲が先に出来上がっていたので、岡嶋さんには曲先で詞を書いていただいた曲です。メロディとオーケストラを聴いた時点で、これは名刺代わりの1曲になると感じたので、歌詞はhaju:harmonicsを象徴するような内容にしていただきたくて、天体をテーマにしていただくようお願いしたんです。

――なぜ天体系だったんですか?

haju:union 「haju」という名前は“蝕ゆ”や、フィンランド語で“匂い”や“きっかけ”といったニュアンスを持つ言葉を語源にしていて、元々“月蝕”を意識していました。ご相談の結果、岡嶋さんがずばり「月蝕」という言葉を使ってくださいましたね。王道をゆくそのクリエイティブには、スタッフの方が少し浮き足立ちました(笑)。



――なるほど。様々なクリエイターの方たちがそれぞれの解釈とテーマでhaju:harmonicsを表現されていて、1つ1つの楽曲はそれ単体で完結していますが、EPで全曲通して聴くことによって、haju:harmonicsの全体像が浮かび上がってくるような内容になっていますね。

haju:union そう思っていただけると嬉しいです。

haju:harmonicsというキャラクターが結ぶ、新しい可能性



――ちなみに「月蝕」や「Ember」のMVでは3Dモデルのhajuが登場していますが、3Dモデルを活用した展開や、音楽や歌以外の活動なども考えているのでしょうか。

haju:union なるべくメディアを跨いだ展開にしたいと考えています。「VRChat」内に「haju:prologue」という公式VRワールドがすでにあったりするのですが、今はバーチャルライブ系のイベントにも出演させていただきつつ、アニメ化企画やボードゲーム的な展開、いわゆるTRPGだったりも作りたいねとスタッフの間では話しています。先ほども少しお話した通り、hajuにはストーリーが存在しているのですが、今の時代、それをただテキストで発表してもなかなか興味を持ってもらえないと思ってまして、TRPGのような形であれば、皆さんも楽しみながらストーリーに触れてもらえるかもと考えています。

――その意味では、バーチャルシンガーやアーティストといった括りに捉われない展開を考えてらっしゃるんですね。今後もhaju:harmonicsを軸にして様々な新しいクリエイティブが生まれそうな予感がします。

haju:union 新しい楽しみを提供できればと、常に考えています。先日も、AI生成技術を用いたVRライブシステム「LAIV(ライヴ)」の試験運用第1弾として、hajuを提供させていただきました。AIによって自動生成されたりユーザーの二次創作で作られた「hajuっぽい何か」に囲まれるなかで行われるライブを見て、「みんなの中に偏在しているhaju」の表現として面白いなと刺激をもらいました。もちろんスタッフとして「hajuとはこういうもの」という意識のもと運営しているのですが、それをどう解釈してクリエイティブしていただくかは自由であってほしいと思います。そういう双方向性のあるキャラクターとして、広がっていけばいいなと思っています。

●リリース情報

haju:harmonics Debut EP

『Ember』

2023年6月14日(水)

【期間生産限定盤(CD+DVD)】



価格:¥2,480(税込)

品番:VVCL-2251-2252

※TVアニメ「ヴィンランド・サガ」描き下ろしLPサイズ大型ジャケット仕様

【通常盤(CD)】



価格:¥1,540(税込)

品番:VVCL-2250

<CD>

01. Ember

02. 神様へ

03. ビスポーク

04. つみのうぶごえ

05. 月蝕

06. ≒

<DVD>

・「Ember」Music Video

・TVアニメ「ヴィンランド・サガ」SEASON 2 第2クール エンディングノンクレジット映像

<haju:harmonicsプロフィール>

2022年8月、「≒(ニアリーイコール)」を初公開。

以降、立て続けに楽曲を公開し実力派Vシンガーとして話題に。

高い歌唱力であらゆる楽曲を歌いこなすが、一貫して「命の美しさと醜さ」を歌い続けている。

作詞家、作曲家、イラストレーターなど気鋭クリエイターが多数参戦して作り上げる圧巻の世界観も話題となっている。

©幸村誠・講談社/ヴィンランド・サガ SEASON 2 製作委員会

関連リンク



haju:harmonics 公式サイト

https://www.sonymusic.co.jp/artist/hajuharmonics/

haju:harmonics公式Twitter

https://twitter.com/haju_harmonics

haju:harmonics 公式YouTube

https://www.youtube.com/c/hajuharmonics