阪神・岡田彰布監督(左)と中日・細川成也【写真:荒川祐史】

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月間19勝の阪神が独走状態に入るか…5月のセ・リーグ概況

 派手な展開の試合が多く見受けられる中、1チームだけ安定の戦いぶりで独走状態を形成しつつある5月のセ・リーグ。「月間MVP」をセイバーメトリクスの指標で選出してみる。選出基準は打者の場合、得点圏打率や猛打賞回数なども加味されるが、基本はNPB公式記録が用いられる。ただ、打点や勝利数といった公式記録は、セイバーメトリクスでは個人の能力を如実に反映する指標と扱わない。そのため、セイバーメトリクス的にどれだけ個人の選手がチームに貢献したかを示す指標で選べば、公式に発表されるMVPとは異なる選手が選ばれることもある。まず6球団の月間成績を振り返る。

○阪神:19勝5敗
得点率4.61、打率.261、OPS.708、本塁打14
失点率2.88、先発防御率2.95、QS率83.3%、救援防御率1.99

○広島:13勝11敗
得点率3.63、打率.248、OPS.657、本塁打14
失点率3.64、先発防御率3.34、QS率66.7%、救援防御率3.34

○巨人:13勝11敗
得点率4.25、打率.256、OPS.739、本塁打33
失点率4.23、先発防御率2.96、QS率54.2%、救援防御率6.14

○DeNA:9勝13敗1分
得点率4.39、打率.273、OPS.769、本塁打28
失点率4.71、先発防御率4.78、QS率43.5%、救援防御率3.98

○中日:10勝15敗
得点率3.29、打率.246、OPS.638、本塁打17
失点率3.82、先発防御率3.59、QS率44.0%、救援防御率2.47

○ヤクルト:6勝17敗1分
得点率4.17、打率.261、OPS.734、本塁打29
失点率5.49、先発防御率4.91、QS率25.0%、救援防御率5.06

 両チームの合計が10得点以上となる試合が、66試合中21試合と大味な印象が残る5月のセ・リーグだったが、リーグ最小失点で、1968年8月以来の球団タイ記録となる月間19勝をマークした阪神が首位に躍り出て、2位以下を大きく引き離す展開となった。

 なお1968年8月の阪神は、村山実、江夏豊、ジーン・バッキーの3本柱でローテを組む投手陣と、遠井吾郎、ウィリー・カークランドを主軸とした打撃陣、藤田平、吉田義男がセンターラインを固める守備陣という布陣で19勝2敗を記録している。

阪神のドラ1軍団が「wRAA」で上位も…トップは低迷の中日から

 阪神は投手陣の安定に注目が集まるが、実は得点もリーグ1位と盤石の戦いぶりである。昨年優勝のヤクルトは5月16日以降、白星を上げられぬ間に5月を終了してしまった。打線は点を取っているものの、いかんせん投手陣の失点がそれを上回っている。また、初回失点確率が32%と先制を許す場面も多く、先制を許してしまうと逆転勝ちできる確率も9.1%となってしまっている。そんなセ・リーグのセイバーメトリクスの指標による5月の月間MVP選出を試みる。

 打者の評価としては、平均的な打者が同じ打席数に立ったと仮定した場合より、どれだけその選手が得点を増やしたかを示す「wRAA」を用いる。セ・リーグ打者の「wRAAランキング」は以下の通り。

○細川成也
wRAA:12.03、106打席、OPS.986、打率.360、本塁打5

○岡本和真
wRAA:11.57、101打席、OPS1.053、打率.302、本塁打9

○宮崎敏郎
wRAA:10.71、89打席、OPS1.065、打率.347、本塁打6

○村上宗隆
wRAA:9.98、108打席、OPS.937、打率.270、本塁打7

○牧秀悟
wRAA:7.79、99打席、OPS.940、打率.304、本塁打7

○近本光司
wRAA:7.38、113打席、OPS.885、打率.327、本塁打1

○大山悠輔
wRAA:7.13、104打席、OPS.894、打率.294、本塁打3

○佐藤輝明
wRAA:6.28、101打席、OPS.869、打率.272、本塁打5

 上位8人中3人が阪神の選手である。なお、近本は2018年、大山は2016年、佐藤輝は2020年のドラフト1位で入団した野手である。また、2022年のドラフト1位の森下翔太を含めると、1位指名の選手がスタメンに4人も名を連ねることとなる。これは阪神の近年のドラフト戦略の成功を物語っている。

 5月のセ・リーグで、最もチームに貢献したとデータが示している選手は、中日の細川成也である。シーズンオフに実施された初めての現役ドラフトによってDeNAから中日に移籍したが、チームに不足していた長打力を買われ、主に3番でのスタメン出場の機会を得るようになった。中日の月間本塁打は17本だが、そのうち5本が細川によるものだ。また5月の得点圏打率が4割と、チャンスで結果を残してきた。得点力不足に泣かされてきた中日の救世主となるべく活躍を続ける細川成也を、5月のセ・リーグ月間MVP打撃部門に推挙する。

投手部門も上位は阪神、大竹耕太郎が残した驚異的な記録

 続いて、投手部門を見ていく。投手評価には、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す指標「RSAA」を用いる。

○大竹耕太郎
RSAA:6.91、登板4、イニング27、防御率0.33、WHIP0.85、奪三振率5.67、奪空振率8.1%、QS100%、HQS率75%

○伊藤将司
RSAA:5.16、登板4、イニング26回2/3、防御率2.36、WHIP1.09、奪三振率5.40、奪空振率9.2%、QS100%、HQS率25%

○村上頌樹
RSAA:4.62、登板4、イニング26、防御率2.77、WHIP0.88、奪三振率10.73、奪空振率8.0%、QS75%、HQS率50%

○森下暢仁
RSAA:4.59、登板4、イニング27回2/3、防御率1.63、WHIP0.94、奪三振率7.48、奪空振率12.5%、QS100%、HQS率50%

○グリフィン
RSAA:4.55、登板4、イニング26回1/3、防御率2.03、WHIP0.98、奪三振率9.45、奪空振率11.7%、QS100%、HQS率50%

○岩崎優
RSAA:4.38、登板10、イニング9回1/3、防御率0.00、WHIP0.43、奪三振率14.46、奪空振率14.5%、9セーブ

○藤嶋健人
RSAA:3.19、登板13、イニング11回1/3、防御率0.79、WHIP0.53、奪三振率9.53、奪空振率11.3%、2ホールド

 快進撃を象徴するかのように、RSAA上位8人のうち4人が阪神の投手だ。チームの月間成績を見ても失点率2.88、先発防御率2.95、救援防御率1.99はいずれもリーグ1位で、QS率83.3%は群を抜いてトップである。その中で最も貢献度が高かった投手といえば、大竹になるだろう。

 大竹も細川と同様、現役ドラフトで移籍した選手だ。ソフトバンクでは2019年に17試合登板で5勝を記録したが、その後1軍での登板数が激減。先発ローテーションでの登板機会を与えられた今季は4月、5月とコンスタントに3勝ずつを記録し、すでにキャリアハイの6勝をマーク。5月は月間防御率0.33、WHIP0.88と先発投手として驚異的な記録を残した。ゴロよりもフライの打球が多いタイプの投手だが、内野フライの率が高く、広い甲子園球場をうまく味方につけているようだ。以上より5月の月間MVPに大竹を推薦する。鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ番組の監修や、「AKB48選抜じゃんけん大会」の組み合わせなどエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。近著に『統計学が見つけた野球の真理』(講談社ブルーバックス)『世の中は奇跡であふれている』(WAVE出版)がある。