自動車部品メーカーの東海理化からリリースされるゲーミングデバイスブランド「ZENAIM」。異業種からのゲーミングデバイス参入に加え、プロゲーミングチーム「ZETA DIVISION」が監修したことで話題になった。

今回、メディア向けのローンチイベントが開催されたので、発売される製品の概要に加えて、イベントの様子を紹介する。

東海理化はゲーミングデバイスブランド「ZENAIM」のローンチイベントを開催した

第1弾製品『ZENAIM KEYBOARD』のスペックが明らかに

「ZENAIM」第1弾としてリリースされるのが、無接点磁気検知方式ロープロファイルキーボード『ZENAIM KEYBOARD』。クルマの部品にも使われている磁気センシング技術を応用し開発した、オリジナル磁気センサースイッチ『ZENAIM KEY SWITCH』を搭載する。

主なスペックを紹介すると、テンキーレスの93キー日本語JIS配列で、サイズはW3808×D139.2×H24.5mm、重さは723g。接続は有線、チルト角を0度、4度、8度で調節できる。押下荷重は50g、キーストロークは1.9mm。アクチュエーションポイントは0.3〜1.8mmで、リセットポイントは0.2〜1.7mmで設定可能だ。

ボディにはアルミ合金を使用、キーキャップはマットな塗装で仕上げている。また、1680万色のライティングを設定可能。自然な光漏れを楽しめるよう繰り返しシミュレーションを重ねたという。価格は48,180円、発売日は2023年5月16日20時だ。

製品のスペック

価格は税込みで48,180円。2023年5月16日に発売する

東海理化 ZENAIM プロジェクトマネージャーの橋本侑季氏は「現在、高性能をうたうキーボードは、人の能力値を超えているものが多く、正直、その性能をフルに使いこなせてはいないと思っています。ユーザーにとって本当に必要な機能は何か。突き詰めて開発したのが『ZENAIM KEYBOARD』です」と話す。

また、キーストロークは1.9mmを設定した理由について、「ゲームでより速くアクションをするためにストローク量を短くするとともに、誤操作のリスクを抑えるベストな値」と解説した。

製品の紹介をする東海理化 ZENAIM プロジェクトマネージャーの橋本侑季氏

もう1つのこだわりとして、橋本は「スイッチがガタつかないこと」を挙げる。「スイッチがガタついてひっかかりが起きてしまうと、反応がわずかに遅れ、それが負けにつながることもあります。『ZENAIM KEYBOARD』では、スイッチの遊びがほとんどないため、一定のオンオフポイントを実現。押した際の荷重と離した際の荷重をほぼ同じに設計しているので、次の動作が圧倒的に速くなります」と特徴を紹介した。

実際に、会場に展示されていた製品に触れてみたところ、スイッチの安定感に驚かされた。遊びがない分、スイッチのぐらつきがまったくと言っていいほど起こらない。前後左右のブレなく、スッと下に押し込めた。

展示されていた『ZENAIM KEYBOARD』

配列は日本語のテンキーレスタイプ

ボディはプロの使用環境にも耐える「アルミ合金」

押下圧とストローク量を示したグラフ。他社製品は、押し込みのところで引っ掛かりが起きていたり、押し込みの荷重と戻りの荷重が一定でなかったりする

さらに、故障したスイッチのみを交換できるよう設計。正確なオンオフ操作を実現するために工場側で最適な設定を行ってから出荷しているため、リリース直後はユーザーによるスイッチの取り外しは推奨していないが、今後はECサイトでスイッチのみを単品購入できるように検討しているほか、ユーザーがソフトウェアで初期設定を行えるよう開発を進めている。

不具合が起きたスイッチのみを交換できるよう設計されている

ソフトウェアはユーザーの使いやすさを考慮してデザイン。1〜2クリックで目的の設定にたどり着けるようにしている。共通設定とゲームごとの個別設定が可能だ。アクチュエーションポイントもソフトウェアで0.1mm単位の設定が可能。全体キーのほか指定キーのアクチュエーションポイントも設定できる。

プロゲーマーと同じ設定にする「プロ設定機能」も搭載。ローンチイベントでは、「ZETA DIVISION」のLaz選手とcrow選手が選べるようになっていたが、今後は、設定可能な選手やストリーマーの数を増やしていくという。

そのほか、専用キーを押すだけで前後1分間を録画できる「キルクリップ」機能を用意する。フレームレートや解像度も好みに合わせて設定可能だ。

専用のソフトウェア『ZENAIM SOFTWARE』で細かいキーボードの設定を行える

アクチュエーションは0.1mm単位で設定可能。キーに触れると、どのくらい押し込まれているのかゲージで示される

プロの設定も読み込める

録画機能「キルクリップ」でスーパープレイを保存

マクロも登録できる。また、Nキーロールオーバーに対応し、アンチゴースト機能も搭載する

オンボードメモリも搭載。対応OSはWindows 10 64bit 以降、または、macOS Monterey 以降

ライティングの色やパターンも設定可能だ

最後の最後まで「ZETA DIVISION」選手の意見を反映

ローンチイベントでは、東海理化 代表取締役社長の二之夕裕美氏も登壇。ゲーミングデバイスブランドの立ち上げの経緯を語るとともに、開発パートナーである「ZETA DIVISION」を運営するGANYMEDEの佐橋明氏とのトークセッションを行った。

まず、二之夕氏は、パンデミックや国際情勢で激変した環境について触れ、企業にも変化が求められると主張。「企業が生き残るためには、新しい価値を生み出し続けることが重要。そこで自由な発想を得るため、30代を中心とする若手に一任しました。その結果、既存事業に縛られないまったく新しいプロダクトを生み出すことができました。また、自前主義からの脱却として、オープンイノベーションで動いたことで、トッププロに太鼓判を押してもらえる性能に仕上げられたと思います」と経緯を話す。

今後は、キーボードだけにとらわれず、ユーザーの解決のために、さまざまな周辺機器を取りそろえていく予定だ。

「75年以上磨き上げてきた英知を結集させた」という自社のスイッチを掲げる二之夕社長。今回の製品にもそのノウハウが生かされている

さまざまなパートナーシップにより『ZENAIM KEYBOARD』が開発された

今後の展望。キーボードだけでなくさまざまな製品を開発していくという

トークセッションでは、佐橋氏が「自動車部品メーカーがゲーミングデバイスに参入することについて、シンプルにおもしろいと感じました。今までにない製品ができるのではないかと。また、ゲーマー目線を大事にしているだけでなく、我々の価値観とも一致する部分があったので、今回ご一緒させていただくことを決めました」と開発のパートナーを受け入れた理由を明かした。

さらに、開発のスピード感についても言及。二之夕氏が「次の試合に改良品を間に合わせなければならないケースもあり、開発のスピードが身についたことが会社としては大きかったですね」と振り返る。

実際、『VALORANT』の国際大会「VALORANT Champions Tour 2023 LOCK//IN サンパウロ」で「ZETA DIVISION」のLaz選手とcrow選手に試作機を使ってもらうなど、大会本番で使い心地を試すこともあった。

それを受けて佐橋氏は「けっこう無理を言ってしまったかもしれません。キーキャップの形状や塗装などに選手もこだわっていて、最後のはずだった試作品でもGOを出せませんでした。しかし、本来ならば開発が終わっていなければいけないタイミングを超えてでも対応してくださり、ありがたく思っています」と感謝を述べていた。そんなエピソードからも、妥協のない徹底した選手目線の開発が行われた様子が伝わってくる。

トークセッションの様子。左からMCの田口尚平氏、GANYMEDE「ZETA DIVISION」運営プロデューサーの佐橋明氏、二之夕社長

実際に開発に協力した「ZETA DIVISION」のKOHALさん、鈴木ノリアキさん、すでたきさんも登場。KOHALさんは「反応速度が速いだけでなく、手汗をかいても指が滑らなくて、練習がはかどって仕方ないですね」と実際にキーボードを触ったときを話す。

また、すでたきさんは「自分のパフォーマンスを最大限発揮できるようなキーボードを目指して開発に携わらせていただきました。押したときも、離したときも、反応が速くて、非常に好みでした」と、鈴木ノリアキさんは「アクチュエーションポイントが浅く、反応速度が速すぎて、最初の1週間くらいは慣れるまで時間がかかるほど、性能のレベルの違いに驚きました。キートップも平たんに見えてしっかり指が収まるようになっていて、細かいところもかなり力が入っている」と製品の魅力をアピールした。

トークセッションの様子。左からMCの田口尚平氏、GANYMEDE「ZETA DIVISION」運営プロデューサーの佐橋明氏、二之夕社長

ライティングも“自然な光漏れ”を追求。ビジュアルについて、「いい意味でゲーミング感がないデザイン。まさにプロのツールだと思わせる」と鈴木ノリアキさんもご満悦の様子だった



イベント終了後、プロジェクトマネージャーの橋本侑季氏に話を聞く機会があったので、その内容をいくつか紹介しよう。

プロダクトマネージャーに聞いた開発の苦労やこだわり

まずは、改めて開発の経緯から聞いてみた。ローンチイベントでは、社長が「環境の変化とともに企業も変わる必要があるため新規事業を模索した」と話していたが、なぜ自社の技術をゲーミングデバイスに生かそうと考えたのだろうか。

「もともと、自社の技術を生かす目的でゲーミングデバイスの開発を決めたわけではありません。私がPCゲームを始めようとデバイスを探したことがきっかけです。どんなメーカーのアイテムがあるのか調べてみると、人気があるのは海外製品ばかりで、初期不良の多さや、サービスの不親切さが気になりました」(橋本氏)

自社の技術を活用するための事業をスタートさせたのではなく、きっかけは橋本氏自身の経験にあった。市場の課題を解決をすべく、動き出したのがこのプロジェクトだ。そこから社内の技術者と相談しているうちに、自社の技術をキーボードに応用できるのではないかと気づいた。

だが、当然ながら、ゲーミングデバイスの開発のノウハウを、同社は持っていない。橋本氏が次にしたことは「プロゲーミングチーム」へのヒアリングとパートナー探しだ。

「10以上のチームにお声がけしたと思います。すると、チャタリングなど不具合が起きたり、耐久性に問題があったりと、プロゲーマーが抱えるキーボードへの不満がわかりました。また、自社のみだと、品質、デザイン、性能、すべてにおいて満たされた製品を作ることができないと判断したため、1社1社、訪問したり、電話したりして、開発パートナーを探しました。最初は相手にされないことも多くて、大変でしたね」(橋本氏)

さまざまなチームに声掛けする中で、「より幸福なゲーム体験を提供したい」というブランドの方向性と、ゲーマーとそれを取り巻くカルチャーをより豊かにすることを目指している「ZETA DIVISION」の考えが一致したことで「ZETA DIVISION」との協業が始まる。ほかにも、eスポーツイベントや大会などを手がける企業「ウェルプレイド・ライゼスト」などの強力なパートナーが決まっていった。

会場には試作機も展示されていた。まずは、実際プロゲーマーにヒアリングして、ゲーマーがキーボードに求めていることを明らかにしていった

2次試作機で磁気検知方式を採用。プロゲーマーとの継続的な検証によって、最適なストローク量などを検証

実際に試作機に触れた「ZETA DIVISION」の選手やストリーマーからは、さまざまな要望が届く。なかでも、橋本氏の印象に残っているのがキースイッチの形状と塗装についてだ。

「選手の要望をかなえつつ、一般ユーザーに使ってもらえるキーキャップの形状と塗装パターンを実現するのが苦労しました。40パターンほど試したんじゃないでしょうか」(橋本氏)

最初、選手の希望として、キートップはフラットなものだった。しかし、実際に触れてみると、置いてある指が滑ってしまう問題が発生。そこで、さまざまな形状や塗装パターンを検証したという。ローンチイベントのトークセッションで佐橋氏が触れていたが、本来のスケジュールを押しているにもかかわらず、納得いくまでキーキャップの試行錯誤を繰り返した。

さまざまなパターンを検証し、開発されたスイッチ

形状や塗装など、指の滑りや触り心地について選手が満足いくものを模索した

こだわりぬいて完成した『ZENAIM KEYBOARD』。性能やデザインなど、すべてにおいて満足できるものを目指して開発されただけあって、価格は48,180円(税別43,800円)と、決して安くはない。いくつかの機能を削ったエントリーモデルの展開などは考えていないのだろうか。

「ユーザーの声を真摯に受け止めて、開発に生かしたいと考えています。ただ、現状、単純にボディを変えたり、性能を削ったりしてまで低価格のモデルを出すつもりはありません。機能を維持して、最高性能で、誰が使ってもいいものなんだと思ってもらえるよう、もしエントリーやミドルレンジのモデルを出すとしても、そのコンセプトは変えずに、お届けていていきたいですね」(橋本氏)

ローンチイベントでも「ユーザーの声を大切にする」ことを繰り返し発言していた橋本氏。キーボード以外の製品も「自社の技術ありき」ではなく、市場の課題に対する解として、必要に応じて展開していく予定だ。

「2030年までに50億の売り上げを作る目標に向けて、展開していくロードマップを少しずつ描いている段階です。今回は自社に技術がないため、遅延のないキーボードを開発するのに有線接続を選びましたが、仮に今後、マウスなどで無線の技術を使うようになれば、その技術を転用する可能性はあります」(橋本氏)

3次試作機で東海理化が車載スイッチで培ったノウハウを織り込む

量産試作機が完成しても、キーキャップの調整は続いた

最後に、ユーザーに一番伝えたい『ZENAIM KEYBOARD』のこだわりを改めて聞くと、橋本氏は力強く答えた。

「一番はやはりスイッチ。ブレがなく、押したときと戻るときの荷重が一緒で、物理的にも感覚的にも速い。ぜひ触ってほしいです」(橋本氏)

今後、2023年5月11日にもローンチイベントを行うことが決まっている。だが、それ以外にも、ポップアップを展開するなど、製品をユーザーに触ってもらうための機会を作ることを検討しているという。5万円近くする高価なキーボードである。当然、購入を決断する前に、実際に触って確かめてみたいところだ。