軽井沢で開かれたG7外相会合(写真:筆者提供)

5月19日からG7サミット首脳会議が広島で開催される。去年7月に起きた安倍元首相銃撃事件に加え、4月15日、和歌山の雑賀崎漁港で岸田首相の演説直前に爆発物が投げ込まれるという事件発生を受け、広島市内では警備体制が一段と強化された感がある。

サミットの警備にあたる警察官に配布する1日当たりの弁当の数は、7年前の伊勢志摩サミットの2倍を超える約4.5万個。この点からも「テロや襲撃は起こさせない」という警察当局の力の入れようがうかがえる。

広島市内の要所は厳戒態勢

サミットのメイン会場であるグランドプリンスホテル広島は、日増しに警備が厳しくなり、5月7日からは一般客の宿泊ができなくなる。

各国から報道陣が集う国際メディアデンターがある広島県立総合体育館も、すでに総工費3億4000万円をかけた改修工事が終わり、4月4日からほぼすべての施設で一般客の受け付けを停止した。

どちらも「広島県警」ではなく、「警視庁」から派遣された警察官が目を光らせ、取材で訪ねた筆者も、建物の写真を撮ろうとしただけで職質(職務質問)されるほどだ。


メイン会場となるグランドプリンスホテル広島(写真:筆者提供)

メディアセンターから徒歩圏にある平和公園には、パンジーで「G7 HIROSHIMA」と彩られたモニュメントが作られ、歓迎ムードを漂わせる一方、5月18日からサミット閉幕後まで、原爆ドームを含めて立ち入りが厳しく規制されることになった。

世界遺産・厳島神社がある宮島も、首脳たちが訪問する場合、サミット前後に一般観光客が島に入ることはできなくなることが決まった。


平和公園にお目見えした「G7」の花のモニュメント(写真:筆者提供)

もちろん、注目すべきは厳戒態勢以上にサミットの会談の中身である。今回のサミットの焦点は、「核軍縮」「対ロシア」、そして「対中国」の3つだ。

被爆地・広島からのメッセージとして重要な核軍縮は、ロシアとアメリカが新START (新戦略兵器削減条約)の履行停止を発表し、北朝鮮が核弾頭の小型化に舵を切っている現状がある。何を発しても実現にはほど遠いという見方しかない。

対ロシアに関しては、経済や安全保障面でロシアとの結びつきが強く、日米欧と中ロとの中間的な立場をとるインドやインドネシアといった「グローバルサウス」と呼ばれる国々が、今回、岸田首相の招待で参加する。これらの国々に対し、どう働きかけていくのか、岸田首相の手腕が問われることになる。

中国への対応で結束を確認

では、対中国はどうか。

このテーマであれば、中国と国境紛争を続けるインドや中国の海洋進出に懸念を示すインドネシアからのコンセンサスは得やすい。アメリカをはじめとする「自由」「民主主義」「法の支配」といった価値観を共有する国々にとっては、「中国を強く牽制する総決起大会」にできる絶好の機会となるだろう。

G7サミットは、もっとも注目される広島での首脳会議だけでなく、全国各地で開催される閣僚同士の会合から成る。

そのうちの1つが、4月16〜18日、長野県軽井沢町で開かれた外相会合であった。


会合に集まったG7各国の外相(写真:筆者提供)

外相会合では、さっそく初日のワーキングディナーの段階で、覇権主義的な動きを強める中国への対応で結束していくことを確認した。台湾海峡の平和と安定の重要性でも一致した。


長野県軽井沢町に掲げられたG7外相会合の垂れ幕(写真:筆者提供)

2日目の討議でも、ロシア支援の懸念が強まる中国を念頭に、連携して対応する方針を明確にし、先に述べたインドとの協力、インドネシアなどへの関与を強化する方向性が固まった。外務省関係者は、「首脳会議に向けて幸先のよい会合になった」と語る。

ちょうど、初日の4月16日は、合意形成のキーマンとなるアメリカのブリンケン国務長官とフランスのコロンナ外相の誕生日であった。

ここで、林外相がアップルパイで外相らをもてなし、場を和ませたことが、「中国による一方的な現状変更の試みに強く反対する」や、「ロシアに即時かつ無条件でウクライナからの撤退を求める」といった共同声明の発表、言い換えれば、日本政府が目指していた強いメッセージの発信につながったのかもしれない。

科学技術相会合もカギとなる

5月12〜14日、仙台で開かれる科学技術相会合も重要だ。

日本からは高市経済安全保障担当相が出席するが、これまでに判明した共同声明の原案によれば、この会合でも、中国の動きに釘を刺す内容が盛り込まれる可能性が高い。 それは、中国が「開かれた研究環境を不当に搾取している」というものだ。

中国は2008年、胡錦濤総書記の時代から世界トップの科学技術強国を目指し、外国から優秀な人材を集める「千人計画」と呼ばれるプロジェクトを実施している。招致されるのは主にアメリカや日本など海外に留学し研究者として成功を収めた中国人だが、外国籍の研究者も含まれ、10数年で集めた優秀な人材の数は「千人」どころか数千人規模にのぼるとされる。

アメリカや日本は、「中国が招致した人材から研究成果を吸い上げ、情報を統制して、それを軍事に転用している」とみている。科学技術相会合で発表される予定の共同声明は、こうした動きを強く牽制する狙いがあるとみられる。

筆者はこの会合で、近年顕著な中国の「北極圏進出」に関しても強い懸念を示すとみているが、そうなれば、欧米よりも中国に近い距離にある日本にとっては、心強い成果になるだろう。

実際、中国は3月から4月にかけて、一気に日米欧などに対する攻勢を強めている。簡単にその一部を紹介する。


中国にとって最悪なのは、日米欧に韓国や台湾などが結束し、東アジアにNATO(北大西洋条約機構)のような軍事同盟が誕生することだといえる。最近の動きからは、それに抗おうとする姿が見えてくるようだ。

アメリカはどう巻き返すのか

アメリカはどうだろうか。2013年、当時のオバマ大統領が「アメリカはもはや世界の警察官ではない」と公言してから10年。アメリカは世界の紛争や戦争に介入する人的・金銭的コストに苦しみ、台湾周辺での戦力は今や中国を下回っている。


また、ここへきて国防総省の機密文書の大量流出問題も発覚し、同盟国や友好国の信頼を失墜させてしまっている。

先ほど示したように、中国が行ったサウジアラビアとイランの仲介についても、そして近頃、中国をにらんでフィリピンやベトナムに頻繁に接近していることも、「America remains indispensable」(アメリカは不可欠な存在のまま)などといわれてきた時代の姿とは大きくかけ離れている。

こうした中で開催されるサミットの首脳会議は、中国が「陰の主役」になることは間違いない。ホスト役である岸田首相の言動に注目が集まるのはもちろんだが、来年のアメリカ大統領選挙で再選を目指すバイデン大統領のリーダーシップにも着目したい。

さらに言えば、先に中国で習近平総書記と会談した後、「欧州は米中への追従を避け、台湾をめぐる自分たちと無関係の危機に巻き込まれてはならない」と発言したフランス・マクロン大統領の立ち回りにも注視したい。

(清水 克彦 : 政治・教育ジャーナリスト/大妻女子大学非常勤講師)