佐藤社長は4月7日の会見でマルチパスウェイ(全方位)戦略の継続を打ち出したが、EV戦略の説明に時間を割いた(撮影:風間仁一郎)

「モリゾウである会長の豊田(章男氏)とともに、もっといいクルマを追求し続けていくこと。それが、これからも『商品で経営する』クルマ屋トヨタの一丁目一番地です」

4月に社長に就任したトヨタ自動車の佐藤恒治氏は4月7日に開いた経営方針説明会で、豊田会長路線の“継承”を改めて強調。そのうえで、出遅れを指摘される電気自動車(EV)戦略について、2026年までに10車種の新型EVを投入し、年間販売台数を150万台に引き上げると宣言した。

トヨタは20年12月に、30年までにEVの世界販売台数を350万台とする目標を公表したが、そこへ至る道筋は明らかにされていなかった。今回の発表で「中間地点」が示された。

EVに最適化したサプライチェーンを構築

具体的には、米国や中国で現地生産のEVを25年までに計3車種投入するほか、北米で電池工場の増強を検討する。新興国ではピックアップトラックや小型車のEV投入を進める。トヨタ幹部は「基本的にEVは現地生産を進めて(各国の)優遇規制を受けないと損になる」と説明する。


会見ではEVの開発や生産、事業といった各機能を一体的に所管する専任組織を立ち上げると公表した(撮影:風間仁一郎)

背景には、想定以上に早く進む世界のEVシフトがある。EV専業のテスラは22年の世界販売台数が131万台に達し、中国のBYDも91万台と前年比2桁以上の伸び率で増えている。対してトヨタは2万台強。中間地点は現在のテスラ並み、それさえ4年間で75倍に引き上げる必要がある。

計画達成のカギを握るのがEVに適した事業体制の構築だ。仏ルノーがEV新会社を立ち上げ、米フォード・モーターは独立採算制を採用するなどEV事業を切り出す動きが広がっている。エンジン主体だった自動車メーカーが組織内でEVを手がける難しさゆえだ。

トヨタは5月にも、EVの開発や生産、事業といった各機能を一体的に所管する専任組織を立ち上げ、意思決定を迅速化する。EVに最適化したサプライチェーンも構築し、EVの開発・生産工程数を半減する。

またトヨタ幹部らによると、トヨタでは初となるEV専用のプラットフォーム(車台)の開発を進めているという。構成部品をEVファーストで見直し、開発や生産での効率を大幅に高めることを狙う。

説明会では中嶋裕樹副社長が、「電池を効率よく使って、航続距離を2倍にし、心揺さぶる走りとデザインを兼ね備えた次世代バッテリーEV」を26年に投入すると明言。このEVに新プラットフォームが適用される可能性が高い。

もっとも、EV戦略の肝のいくつかは依然として見えてこない。例えばEVの競争力を左右するとされるソフトウェア。さまざまなソフトの基盤となる車載OS(基本ソフト)「アリーン」は25年に投入予定だが進捗は明らかにされなかった。EV工場の場所や規模、電池の調達についても具体的な内容はなかった。

このため、部品メーカーからは「EVを計画どおり急激に増産することが本当に可能なのか」と懐疑的な声も上がる。計画実現には部品メーカーの協力が不可欠なだけに、彼らが納得して投資できる計画を早期に示せるかが焦点になる。

HVの利益をEVの成長投資に向ける

もう1つ、EVを手がけるメーカーに共通した悩みがある。希少金属を使用する大容量電池のコストが重いため、既存自動車メーカーはもちろん、新興のEV専業メーカーも大半がEVの収益確保に苦しむ。フォードはEV事業で30億ドル(約3900億円)の赤字見通しを公表している。

その中でも先行するテスラは22年に営業利益率16.8%をたたき出した。収益面の余裕からEVの値下げも機動的に実行。3月には数年以内に低価格の小型EVを投入すると発表した。新設するメキシコ工場で新たな生産方式を導入し、生産コストを半減させる。

EV販売を拡大しつつ利益を稼げるようになるのはトヨタといえども容易ではない。そこでトヨタが頼みとするのが得意のハイブリッド車(HV)である。

今回、トヨタはHVの収益性に関するデータを初めて公表した。初代プリウスから現行の5代目までに原価を6分の1に削減しており、北米のスポーツ用多目的車(SUV)タイプでは1台当たりの利益でHVがガソリン車を上回るまでになったという。

同時に示された事業成長の予想図では、現状並みの1000万台規模の販売台数を維持したうえで、新興国でHVの販売台数を大幅に引き上げる計画となっている。HVで稼いだ利益をEVへの成長投資に振り向ける。EVだけでなく、HVも重視する──トヨタの「全方位戦略」を佐藤社長も“継承”する理由だ。

(横山 隼也 : 東洋経済 記者)