ブラッド・ピットは、思い入れのある豪邸を手放す決断をした(Stephane Cardinale - Corbis/Getty Images)

ブラッド・ピットが、ひとつの大きな決断をした。ハリウッドでブレイクしてまもない独身時代の1994年に170万ドルで購入し、2度の結婚の間も、離婚後も、長い時間を過ごしたロサンゼルスのロスフェリツ地区にあるマイホームを、先月末に売ったのだ。売値は3900万ドル(およそ52億円)。ピットは最近、北カリフォルニアのカーメルに4000万ドルの家を購入しており、今後はそちらをベースにするようだ。

ピットが買ったカーメルの家も、売ったロスフェリツの家も、そのエリアでは最も高額な不動産売買だという。ロスフェリツの家をこのタイミングで売ったのには、ロサンゼルスで4月1日から“豪邸税”が始まることも関係していたと思われる。ホームレス問題の解決案として生まれたこの新たな税金は、500万ドル以上の不動産売却に4%、1000万ドル以上の場合は5.5%の税金が新たに追加されるというもの。その税収は、公営住宅の建築に当てられる。

敷地を広げ、改修を繰り返した

それにしても、思い入れがたっぷりあるはずの家を売ったのは驚きだ。建築、インテリアに強い情熱を持つピットは、時間をかけて、この家を自分の望むとおりに改修してきたのである。長年の間に隣接する不動産も購入し、次第に敷地は拡大。アンジェリーナ・ジョリーの妊娠がわかった時には大喜びし、早速、子供部屋のデザインに取り組んでいる。それにもまた相当な時間をかけたようだ(今や宿敵の元妻であるジョリーは、熱々だった当時、のろけながらそう語っていた)。

最初の妻ジェニファー・アニストンとも、かなりの時間をここで過ごしている。2000年に結婚したアニストンとは、2001年にビバリーヒルズの豪邸を購入したのだが、こだわりの強いピットは、その家の改修工事にも3年を費やした。いつまでも工事が終わらないため、近所から苦情も出たし、アニストンもかなり辟易していたようである。

やっと移り住めるようになる頃には、ピットの心は『Mr. & Mrs. スミス』で共演したジョリーに移っており、ほとんど住まれることのないまま、離婚後の2006年、その家は2800万ドルで売却された(後に、アニストンは、インテリアについての話題で、「オブジェみたいなのではなく、実際に座って心地の良い椅子を私は選ぶ」と、ピットへの皮肉と思えるコメントをしている)。

そのビバリーヒルズの家は、寝室が5つ、バスルームが13個。試写室、プール、テニスコート、パブのようなスタイルのバー、ゲストハウスがひとつあった。一方、今回ピットが売ったロスフェリツの不動産は、寝室5つ、バスルーム5つのメインの家に加え、4つのゲストハウスがある。

ゲストハウスはそれぞれ、寝室が2つ、バスルームが2つ。外にはプールが2つと、子供たちのためのスケートパーク、鯉が泳ぐ池。ほかに、試写室、ピットのバイクのコレクションを納めるためのガレージもあるそうだ。彼は最近、陶芸にも凝っているので、おそらくそのための部屋もあるだろう。


1997年時に空撮されたブラッド・ピットの豪邸。この後さらに敷地を広げていった(写真:James Aylott/Getty Images)

カーメルはクリント・イーストウッドが市長を務めていたこともある、安全で閑静な高級住宅街。あの美しい街に住みたいと思うのは不思議ではないが、それにしても、彼の最もパーソナルな「作品」とも言えるこの家を手放すのは、人生の新たな段階に踏み出したいという気持ちの表れではないだろうか。

2016年に離婚申請をされたジョリーとは、今もまだ泥沼の争いが続いたまま。昨年は、ふたりが共同で所有する南仏のワイナリーの半分の権利を相談もなくロシアの会社に売ったことから、ピットがジョリーを訴訟している。親権問題も解決していない。

アメリカでは共同親権が普通だが、ピットと親権を分かち合うことを嫌がるジョリーが対抗を続けているせいだ。時間がかかっているうちに、上から2番目の息子も親権の対象外の年齢になってしまった。ピットは今もできるだけ子供たちと時間を過ごしたいと願っているが、主にジョリーと一緒に暮らす子供たちとピットの関係は、ジョリーの願い通りに複雑になっているようだ。

パパへの感情はどうあれ、世界を飛び回りながら育った子供たちにとっても、最も多くの時間を過ごしたロスフェリツの家がなくなるのは寂しいかもしれない。しかし、ピットはロサンゼルスから車で2時間ほどの距離にあるサンタバーバラにも家を持っている。カーメルまで行くのが遠すぎるなら、パパとの面会はここでもできるだろう。

ところで、昨年は、シルヴェスター・スタローンが、1990年代から住んできたビバリーヒルズの豪邸を売っている。仲間内で「ロッキーが建てた家」と呼ばれるその家は、3エーカーの敷地内に、ジム、サウナ、スチームルーム、葉巻を楽しむための部屋、アートスタジオ、試写室、8台の車を収納できるガレージ、ロサンゼルスの街を見下ろすプールなどが備えられている。

メインの家は、寝室が6つ、バスルームが9つ。ほかに2階建てのゲストハウスもある。この家を購入したのは、歌手のアデル。プールの端にはロッキーの銅像が立っているが、それも付いてきたそうだ。

スタローンは、2020年末、フロリダ州パームビーチに3500万ドルの豪邸を購入しており、現在は主にそこに住んでいる。昨年夏、スタローンは妻に離婚を言い渡され、離婚が成立するまでパームビーチの家には自分が住むと妻に主張されるも、まもなくふたりは仲直りに向けて努力することで合意。結婚に際し、アメリカの金持ちの間では常識である婚前契約(Pre-nup)をしていなかったが、スタローンがこの家を取られてしまう恐れはとりあえずなくなった。

いずれにせよ、彼の推定総資産は4億ドル(約530億円)。買いたければまだまだ家を買える余裕はある。ちなみにピットの総資産も3億2000万ドル(約420億円)と推定されている。一般人にとっては夢のような世界。映画に出てくるよりすごい彼らの家を想像しては、ため息が出るばかりである。

(猿渡 由紀 : L.A.在住映画ジャーナリスト)