インスタグラムで約21万1000人のフォロワーを持つハンナ・クリング氏は、ヘルシーなレシピを紹介するコンテンツを制作している。同氏は、インスタグラムが最近導入した新しい認証サブスクリプションモデルには不満があるものの、それでも認証に申し込んだ。

メタ(Meta)は、認証システムを導入することで悪意ある「なりすまし」行為からユーザーたちを守ることができ、万が一アカウントに問題が発生した場合には同社の担当者に連絡できるようにする、と約束をしている。クリング氏が以前使っていたアカウントはハッキングされた。そのため、メタによるこの公約が認証に申し込む理由となった。

「アカウントを守るため、というのが認証に参加した唯一の理由だ。これは私のビジネスだから」と同氏は言い、インスタグラムのページに認証チェックが表示されるまでに2時間かかったと付け加えた。「だから、それが本当に唯一のメリットだと思う。それ以外の要素に関しては、よいとも悪いとも思わない」。

収入源の多様化を模索するプラットフォーム



メタのプラットフォームだけでなく、スナップチャット(Snapchat)やTwitterも、有料サービスを拡大しており、後者2つはユーザーに独占的なカスタマイズと認証機能を提供している。

このトレンドが増加するなか、多くのマーケターやコンテンツクリエーターは、ソーシャルメディアプラットフォームが今後ユーザーに無料で提供され続けるかどうかについて疑問視しているものの、いまのところはプラットフォームが広告事業以外の収益源を多様化する方法として見ている。

「この機能が実用的かどうかは、消費者の受け入れ方次第だ。消費者が好まない新機能がある場合、『またすぐにほかの機能が導入されるだろう』と感じるかもしれない」と、メディアハブ(Mediahub)のシニア・バイスプレジデントで有料ソーシャル部門責任者のエリカ・パトリック氏は指摘する。「すべてのソーシャルメディア・プラットフォームが、可能な限り追加の収益源を見つけようとし、お互いに模倣し続けている」と話した。

認証の仕組み



メタは最近、メタ認証(Meta Verified)の開始を発表した。これは月額15ドル(約1966円)のサブスクリプションサービスで、インスタグラムとFacebookのユーザーがアカウントに青い認証バッジを取得できるようになる。ウェブ上でサービスを購入すると月額11.99ドル(約1571円)、iOSまたはAndroidデバイスで購入すると月額14.99ドル(約1965円)だ。

プレミアム機能のコストはプラットフォームによって異なる。Twitterブルー(月額8ドル[約1048円])とは対照的に、すでに認証済みのインスタグラムとFacebookのユーザーは、チェックマークのステータスを維持するためにメタ認証を通して支払う必要はない。

Twitterは現在、企業向けの青いチェックマークに代わって12月に導入されていた金色のチェックマーク認証バッジを維持するために、企業に月額1000ドル(13万1103円)を請求している。また、関連するサブアカウントごとに月額50ドル(約6555円)も追加で請求される。

メタ認証サブスクリプションが承認されるためには、ユーザーは認証プロセスを完了し、開始前に身元を確認するために政府発行の写真付きIDを提示する必要がある。また、加入者は再認証せずにプロフィールの名前、写真、ユーザー名、生年月日を変更できないため、二要素認証の使用が義務付けられている。なお、メタは、米DIGIDAYからのコメントリクエストに応じていない。

メタ認証の加入者であるコンテンツ・クリエイターは、Facebookとインスタグラムのストーリーズで非加入者には利用できないステッカーにアクセスできる。さらにメタ認証クリエイターは、毎月100個のFacebookスター(Facebook Stars)も受け取る。Facebookスターは、クリエイターがFacebookでのライブ配信を収益化するために使用できるデジタル通貨だ。

インフルエンサーへの影響



有料認証システムは、以前は認証アカウントに限定されていた機能へのアクセスを可能にするため、インフルエンサーにとって潜在的な恩恵となると考える人もいた。クリエイター管理プラットフォームであるグリン(Grin)の副社長であるアリ・ファザル氏は、「もうクリエイターは大規模な視聴者を持つ必要はない」と指摘している。

「小規模またはニッチなインフルエンサーは、フォロワーとのより本物の(嘘のない、誠意ある)関係を持っているが、大物と同じ認識や信頼性を得ていない」と同氏は言い、「この新しい認証プロセスは、全体的にブランドとインフルエンサーのパートナーシップを向上させ、さらに信頼を築くのに役立つだろう」と続ける。

マーケターによると、クリエイターをめぐる原則は以前と変わりつつあるようだ。消費者はソーシャルメディアでフォローする人に対する信頼を求めており、マイクロ・インフルエンサーやナノインフルエンサーが、メジャーなインフルエンサーよりもソーシャルメディア上で最も影響力のあるクリエイターとなっている。

平等性と認証による価値



メルトウォーター(Meltwater)のパートナーシップおよびビジネス開発担当VPのジョニー・ヴァンス氏は、「ソーシャルネットワークが広告主からの支払い以外でお金を稼ごうとしているため、クリエイターがもう少し平等に扱われるチャンスを与えている。これによって、クリエーターに合わせた経験がプラットフォームで提供されるようになり、その結果クリエイターたちも特定のプラットフォームを大事にする。そして、ほかの場所に移動しなくなる」と述べている。

それにもかかわらず、「認証はインフルエンサーとの契約において決定的に重要ではない」とレッド・ハバス(Red Havas)のソーシャルおよび統合担当エグゼクティブ・バイスプレジデントであるダヴィータ・ティラー氏は述べている。「逆に認証のアクセスがしやすくなったことで、その価値が低下することになるかもしれない」という。

代わりに、同氏はクリエイターと契約する際にほかの要素に焦点を当て続けている。コンテンツの質、誠実さと倫理的整合性、ソーシャル上の数値の規模と構成、そして目標とするリーチ、インプレッション、エンゲージメント、視聴率、さらにはコンバージョン率が生成されるかどうか、などだ。

プラットフォームにおける魅力的なコンテンツのほとんどはクリエイターたちによって制作されるため、ファザル氏も彼らがソーシャルメディアの生命線となっていることを強調した。「クリエイターマーケティングから収益化する新しい方法を見つけるのは賢明だが、やり過ぎてクリエイターがコンテンツを制作したくなくなったり、消費者がお気に入りのインフルエンサーにアクセスする手段を持たなくなったりする状況を作ってしまうとよくない」と、同氏は述べている。

懸念はコンテンツクリエイターが目立たなくなること



このサブスクリプションモデルが業界の標準となってしまった場合、有料ソーシャルメディアプラットフォームの飽和状態が生じる可能性がある。つまり、コンテンツクリエイターがどのソーシャルメディアプラットフォームに対してお金を払って認証を受けるべきか(あるいは払わないべきか)、を決定する必要が出てくる。これは現時点で、すでにストリーミングサービスが視聴者のサブスクリプション予算を奪いあっているのと重なる。

ブランディングとソーシャルメディアのパートナーシップエージェンシーであるリトル・レッド・マネジメント(Little Red Management)のCEOで創設者のコートニー・バグビー氏は「インフルエンサーの数がさらに増え、誰もがインフルエンサーになれることでプールが希釈され、コンテンツクリエイターが目立つのが難しくなることが懸念される」と、述べている。

また同氏は、「インスタグラムのアルゴリズムの変更により、認証されていないコンテンツクリエイターからの投稿は、認証インフルエンサーやブランドと比べて、見落とされる可能性がある」と指摘した。なお、同氏自身もインスタグラムページでコンテンツを公開している。

マーケティングの専門家によると、プラットフォーム各社はすべての新機能やビジネスモデル、有料機能やサブスクリプションをテストしている。これらのサブスクリプションモデルが導入されれば、かつては伝統的なクリエイターだけが利用できたツールに、事実上誰でもアクセスできるようになるかもしれない。

「まだはっきりとしたことは言えない」と、インフルエンサー・マーケティング・プラットフォームであるキャプティブ8(Captiv8)のCEOであるクリシュナ・スブラマニアン氏は話し、「これまでクリエイターや公人だけが利用できたツールに、一般の人々がどのように適応していくかが興味深い」と付け加えた。

[原文:With paid verification on the rise at social platforms, content creators and marketers feel mixed on its use]

Julian Cannon(翻訳:塚本 紺、編集:島田涼平)