飲食店は大きな打撃を受けています(写真: まちゃー /PIXTA)

ここ数カ月、回転寿司店での迷惑動画がSNS上に頻繁に投稿され、大きな社会問題となっている。

回転寿司店にとってみれば、イメージダウンも甚だしく、消費者からの食品衛生に対する懸念は払拭されていない。スシローは騒動が起きた直後に、時価総額がわずか1日で170億円も毀損し、経営的に著しい打撃を被った。

大手企業は体力がある一方、個人事業主が経営する飲食店でこうした事件が起きれば、すぐに潰れてしまうだろう。

飲食企業は中小企業で占められている

経済産業省「平成28年経済センサス活動調査」によれば、外食産業において、総事業所数のうち62%が個人経営であり、資本金の額では1000万円未満が76%を占めるなど、中小・零細の事業者が多い。つまり、飲食企業のほとんどは体力の少ない中小企業で占められているのだ。

なぜ迷惑行為が増えているのか。そして、個人事業主や中小企業が、こういった迷惑行為に対処するには、どうすればよいだろうか。

日本最大級の飲食業界の団体「日本飲食業経営審議会」で、代表理事を務める郄橋英樹氏は、「迷惑行為が増えているのは、お客様の道徳やモラルが低下しているからではないでしょうか。腹が立つというよりも悲しいですね。飲食店と消費者のコミュニケーションが希薄になっているように感じます」と話す。

郄橋氏はファストフードのようなカジュアルな業態で、迷惑行為が目立っているのではないかと推測する一方、たとえ一部の業態にだけ迷惑行為が集中していたとしても、迷惑行為に対応するために、爪楊枝や割り箸を袋にいれたり、調味料類を机に置いたままではなく、料理と一緒に提供(または客からリクエストがあった時に提供)するようにしたりと、飲食業界全体で余計なコストがかかっているという。

「これまで飲食店は何か問題が起きたとしても、お客様の気分を害さないようにと気を遣っていて、泣き寝入りしてきました。ノーショー(無断キャンセル)やドタキャン(直前キャンセル)が、その代表的な例です」

飲食店の立場からすれば、迷惑行為を注意することによって、その客当人は当然のことながら、そこからつながる友人や親類、知人などに悪い影響が及ぶことを憂慮する。そのため注意もしづらいのが現状だ。

また、日本では飲食店に対する期待値が高い。味やサービス、食品衛生のレベルは高いにもかかわらず、飲食業界に携わる料理人やサービススタッフの地位も社会的に高いといえない。

こういった飲食店と消費者の“ズレ”を前提にしたうえで、郄橋氏は続ける。

「お客様は神様という言葉がありますが、よい神様もいらっしゃれば、あまりよくない神様もいらっしゃいます。したがって、こういった迷惑行為を防ぐには、カメラを設置するしかないのではないでしょうか。大手企業のチェーン店ではなく、個店であったとしても、カメラによる客観的な目が必要だと思います。スタッフを疑っているような感じになるので、私も店舗にカメラを設置したくありませんでした。しかし、防犯を考えるのであれば、こういった対応をするしかありません」

これまで飲食店は客から一方的に評価されてきたが、これからは、飲食店も客を評価する時代にきているのかもしれない。

外食マインドにも水を差す可能性も

食の安心と安全が脅かされれば、コロナ禍の2020年でさえ約18兆円の市場規模(日本フードサービス協会の統計)を誇った外食産業の価値が毀損される。せっかく訪日外国人の約70%が「日本食を食べること」を期待している(2019年、観光庁「訪日外国人消費動向調査」)のに、迷惑行為は外食マインドにも水を差しかねない。

迷惑行為は、飲食店にとって非常に大きな問題です。毅然とした態度で臨むべきだと思いますので、(スシローが)被害届を出したのはよかったと思います」(郄橋氏)

飲食店が直近で対峙している課題は、ほかにもたくさんあるという。

食材費や光熱費の高騰、人材不足、外国人労働者の処遇、食料自給率、国や自治体との関係性など、数多くの難しい問題を抱えている。

その中でも今、最も差し迫った問題は経営資金難だ。政府はコロナ禍の2020年から、コロナで経営が悪化した事業者向けに、民間の金融機関を通して実質無利子・無担保で融資する支援制度を開始した。

このいわゆる「ゼロゼロ融資」の返済時期が、今年7月から来年4月に集中する見込みだ。

「融資の返済が始まれば、潰れる飲食店が増えると危惧しています。国から賃金の向上も要請されていますが、飲食店はただでさえ、ギリギリの状況で経営しているので、賃上げどころではありません」

飲食店の経営は一般的に、売り上げに占める原材料費が30%、人件費が30%、家賃が10%、水道光熱費が5%、販促費が5%、借金返済や支払手数料などその他が15%で、最終的な利益が5%とされている。しかし、利益5%というのは優秀なほうだ。5%を下回る利益率で経営している飲食店も珍しくない。

加えて、昨今の国際情勢によって、売り上げに占める食材費の割合が30%〜40%程度に増えている。こうなると、飲食店にとっては、利益水準をトントンに維持できるかどうかが問題だ。

飲食業界がこの危機を乗り越えるには、やはり値上げするしかありません。本来であれば、価格を2割〜3割は上げたいところです。ただ、決してやましいことではないのに、値上げは悪であると考える傾向があり、多くの飲食店はなかなか値上げできずにいます」

居酒屋などはほとんど値上がりしていない

ここ数十年の間、居酒屋などのカジュアルな業態であればあるほど、価格はほとんど上がっていない。

そこで日本飲食業経営審議会は、飲食店の値上げを後押しするため、2022年10月に「値上げに理解を」と訴えるポスターを製作し、飲食店に配布した。

ただ、一部の消費者からは、「協力金をもらったうえに値上げするのか」「便乗値上げではないか」とネガティブな反応もあり、理解を得るための道程は険しい。

郄橋氏は「飲食業界には、今日の営業で精一杯という経営者が多いです。経営的な視点で、この1年のことを考えていたとしても、3年先まで考えている経営者は少ないでしょう。長期的な視野が欠けているので、本来であれば値上げが必要なのに行えず、窮してしまっているように思います。こういった経営者のためにも、政治や経済の仕組みを学ぶ政経塾を月1回開催して支援しているところです」と語る。

また消費者に対しては、「飲食店に訪れていただければ、私達にとっては喜びになり、励みになります。飲食業界がよりよくなっていくためにも、お客様の叱咤激励が必要です。家では食べられない料理やサービス、臨場感が飲食店では体験できるので、ぜひとも外食していただきたいですね」と話す。

さまざまな策を打つ必要性

飲食業界はコロナ禍で営業時間の短縮と酒類提供の制限で大きな損害を被ったり、回転寿司店における犯罪まがいの迷惑行為によって食品衛生が毀損されたりするなど、苦難が続いた。

そしてコロナ融資の返済や、食材費や光熱費の高騰によって、新たな経営危機を迎えている。こうした問題を解決するためにも、飲食店はさまざまな策を打つ必要性が問われている。

(東龍 : グルメジャーナリスト)