デートを重ねても、決して付き合おうと言わない男。32歳女が彼に抱いた違和感
東京都内には、“お嬢様女子校”と呼ばれる学校がいくつもある。
華やかなイメージとは裏腹に、女子校育ちの女たちは、男性の目を気にせず、のびのびと独自の個性を伸ばす。
それと引き換えに大人になるまで経験できなかったのは、異性との交流だ。
社会に出てから、異性との交流に戸惑う女子は多い。
恋愛に不器用な“遅咲きの彼女たち”が手に入れる幸せは、どんな形?
▶前回:「結婚して子どもを生むのが女の幸せ」そう信じていた女。しかし、いざその立場になると…
彼氏と半年以上続かない女:ひなた【前編】
「ごめん、別れよう」
ひなたは、彼氏の淳也とレストランで食事したあと、駅までの帰り道に話を切り出した。
淳也と付き合って4ヶ月。
一緒にいることの新鮮さや刺激もなくなり、ひなたの気持ちはすっかり冷めている。
一方淳也は、付き合って徐々にお互いを知っていく一番楽しい時期だと思っていたのか、その言葉を想像もしていなかったとでもいうように驚いていた。
「どうして…?」
「ごめんなさい、もう好きじゃなくなっちゃったの」
淳也に何を言われても撤回する気持ちはなかったし、嘘を言ってごまかすのも逆に失礼だからと、ひなたははっきりと本音を告げる。
― お互いの温度感がズレている中で別れ話をするのは、いつも億劫なのよね…。
ひなたは区役所に勤めている。そして淳也は役所の2つ後輩だ。
部署は異なるので業務上の接点はないが、ひなたの同期が淳也と同じ部署だったことから職場の食事会で出会い、彼からの猛アプローチで交際に至った。
交際が始まった時は、ひなたも淳也にきちんと好意があったし、今も決して彼のことが嫌いになったわけではない。
でも、一緒にいる時間を重ねるほど、相手の粗を探すかのように些細なことが気になって、一緒にいたくないと決断させるほどの欠点へと変わってしまうのだ。
淳也が仕事の愚痴をよく言うところ。食べ物の好き嫌いが多いところ。出不精で、デートは家でのんびりするばかりなところ。
自分とは合わないだとか嫌だなと気になることが出てきて、その度に彼への想いが冷めていった。
付き合い始めた時が100点満点だとすると、減点方式で彼への恋心と評価が下がっていった…。
「もう好きではない」というひなたの迷いのない言葉に、淳也はなにも返す言葉が見つからない。
そんな淳也とは対照的に、ひなたはやっと別れを切り出せたことに、肩の荷が下りるようだった。
◆
土曜の昼。
ひなたは豊女時代の友人、加奈子と表参道の『Hotel's』でランチをしていた。
「加奈子は相談所での婚活順調?」
「今はふたり仮交際中で、今晩また新しい人と会うよ」
結婚相談所への入会をきっかけに、加奈子は積極的に婚活に励んでいる。
「ひなたは、相変わらずのスピード破局ね」
「そうなの…。自分でも嫌になっちゃう」
ひなたは大学時代からモテる。
小柄で、人気アイドルグループのメンバーにいそうなかわいらしい顔立ち。
ひなたは高校から豊女に入ったため、小学校から女子校の加奈子ほど男性への苦手意識もない。
そのため交際人数は多いが、交際最長記録は半年。ひなたが彼に別れを告げる形で、いつも恋が終わってしまう。
「『HELP』のメンバーも着々と結婚に向けて進んでいるし、なんだか私だけ取り残されてる気分…。
私は加奈子みたいに早く結婚したいとか思わないし、彼氏とも続かないし、結婚に不向きな女なのかも」
「それで、今日は、彼氏なしの私を誘ったの?」
「違うよ。一生懸命婚活してる加奈子に、恋愛意欲を掻き立ててもらおうと思って」
ひなたの言葉に、加奈子は提案をする。
「ひなたは、これまで同じコミュニティーで、アプローチしてくれる身近な男性とばかりお付き合いしてきてたでしょ?
たとえば、自分で出会いの場に行って、自分から興味を持てそうな人を探すっていうのはどうかしら?」
「たしかに、私同じサークルとか職場とか、身近にいる人とばかり付き合ってきたし、自分から好きになって恋愛したことってないかもしれない…」
「顔が広い夏帆に、出会いの場をセッティングしてもらうのはどう?
ハイスペも多そうだし、いい人集まりそうじゃない?」
加奈子の提案を受け、ひなたはすぐにLINEを送る。
『ひなた:夏帆の知り合いと食事会とかできない?』
◆
翌週の金曜。
ひなたは、早速夏帆のセッティングした食事会に参加するため、銀座一丁目の『IJ』へ向かっていた。
今日は夏帆の大学時代の同級生が、友人たちを連れてきてくれるという。
到着し、各々自己紹介をすると、男性陣は外資コンサルや広告代理店など、高学歴で華やかな職業ばかり。女性側からすると“当たり”のメンバーだ。
だが、ひなたはこの場になじめていなかった。
― みんなキラキラしすぎてるわ…。
公務員という職業柄、普段身近にいるのは、安定志向で真面目な男性ばかり。
学生時代は早稲田のブラスバンドサークルに入っていたが、女性比率が圧倒的に高く、おとなしい男性が多かった。
そのせいか、華やかな男性たちに、ひなたは少し気が引けてしまう。
「すみません、遅れました…!」
シンプルであまり遊びのないグレーのスーツを纏った男性が、遅れて現れ、ひなたの向かいの席に座り
簡単に自己紹介を済ませたあと、遅れてきたこともあってか、彼は少し居心地が悪そうにしている。
その様子を見て、ひなたは彼に質問した。
「カイト君は、お仕事ってなにしてるの?」
「彼らみたいに華やかじゃないんだけど、都庁で…」
「え、私、区役所!…同業者ね」
話を聞くと、入庁時期が同じ同期だった。
同期といっても都庁や役所、教員なども含まれるため、人数も多く職種の幅も広い。もちろん異なる職種との交流もあるが、ふたりは初対面だった。
― まさかこんなところで同期に出会うなんて…!しかも都庁…素敵じゃない。
思いも寄らぬ出会いに、ひなたの胸は高鳴っていた。
食事会から2週間後の土曜日。
ひなたはカイトと、奥渋の『ワインバー繭』で食事をしていた。
カイトから毎日送られてくる、おはようから始まり、おやすみで終わるLINEに、ひなたは彼の好意を期待せずにはいられなかった。
そして思い切ってカイトを食事に誘うと、彼がこの店を予約してくれたのだ。
「ひなちゃんは、いつから彼氏がいないの?」
「お別れしたのはつい最近なんだけど…」
― こうやって恋愛の質問がくるってことは、彼女候補として意識してくれてるって思っていいよね…?
「カイト君はどうなの?」
「もう実は2年くらいいないんだよね。もういい年齢だし、次はきちんと結婚を考えられる人と…と思うと、なかなか踏み込めなくて」
「結婚…そうよね…」
カイトの口から出た“結婚”という言葉に、急に息苦しさを覚えた。
どうせまた半年も経てば、自分の気持ちが冷めるかもしれないと思うと、結婚を視野に入れている彼に気軽に好意を抱くのは、失礼な気がしたのだ。
とはいっても一緒にいて楽しいカイトと距離を縮めたいという気持ちにひなたはあらがえなかった。
◆
初デート以降も、変わらず彼とは毎日連絡を取っている。
そして、翌週にまたふたりで食事にも行った。
お互いに好意があることは間違いないとひなたは確信している一方、次に進むためのアクションを起こさないカイトに、違和感を覚えていた。
― LINEはくれるのに、誘うのはいつも私ばっかり…。
それに、カイトは、ひなたが好意を見せるようなことを言うと、いつも話を逸らす。
ひなたは自分の好意もそれとなく伝えているし、告白しやすいような流れも意図的に作ってきたというのに、出会った頃からずっと同じ距離感を保ち続けているのだ。
― カイト君がなにを考えているのか、わからないよ…。
少なくとも自分に好意を抱いてくれているようにひなたは感じ取っていた。
だというのに、進みたいのに進まないその距離感に、もどかしさと少しの不安を感じていた。
― ズルズルとこの距離感を保っていても仕方ないし、今度会ったらはっきりと確認しないと…。
そう思いながら、ひなたはスマホを開く。
『ひなた:この間食事した時にお薦めしてくれたお店、今度ふたりでどう?』
『カイト:いいね。来週は都合どう?』
自分から誘えばすぐ会える。でも、どこか距離があるのだ。
そして、迎えた食事デートの日。
カイトの口から意外な事実を聞いたひなたは、彼が“距離感”を保っていた理由を知るのだった。
▶前回:「結婚して子どもを生むのが女の幸せ」そう信じていた女。しかし、いざその立場になると…
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「実は前からひなたのこと、知っていたんだ」カイトが告げる、思いも寄らぬ事実にひなたは…?