PUNKSPRING 2023の出演で来日が決まっているバッド・レリジョン。これまでのバッド・レリジョンのPUNKSPRING出演を振り返ると、第1回目となった2006年、2009年、2014年、ファイナルとなった2017年、復活となった2023年と、PUNKSPRINGにとってターニングポイントとなるタイミングの出演ばかりなのだ。

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ただ、それだけバッド・レリジョンというのは重要なバンドで、80年代のLAのハードコア/パンクの黎明期から活動しながらも、90年代から続く新しいパンクの時代も牽引してきた存在なのである。バンドのボーカルであり、相棒のブレット・ガーヴィッツ(元々はバンドのギタリストで、プロデューサー、エピタフ・レコーズの社長も務める)とともにバンドのソングライターを担っているグレッグ・グラフィンに、PUNKSPRINGの思い出、ライブの話から、最近の社会情勢や2022年11月に出版した著書「Punk Pardox」まで、いろいろな話を語ってもらった。

―もうすぐPUNKSPRING 2023の出演で来日するわけですが、これまでにバッド・レリジョンは4回出演しているんですよね。

グレッグ 一番最初のPUNKSPRINGに出演したのは覚えているよ。一番強い印象を受けたのは日本のファンだったね。日本には何度も行っているんだけど、初めて日本に行ったのは1995年のことで、小さなクラブでプレイしたのを覚えている。日本に僕らのファンがたくさんいるのはライブで見てわかっていたんだけど、PUNKSPRINGにあれだけ多くの人たちが来ているのを見て、実際驚いたんだよね。観客もスゴく熱狂していたし、とにかくその数が多かった。そのことは今も鮮明に覚えているよ。



―バッド・レリジョンの初来日は1995年3月だったんですよ。東京の会場は新宿リキッドルームで、そのライブは観に行きました。

グレッグ リキッドルーム! 覚えているよ。

―その時のライブも最高だったのですが、大きなフェスでのライブ、小さなクラブでのライブ、それぞれの良いところはどこでしょうか?

グレッグ 大きなフェスの良いところは、パンク・ファンのコミュニティ全体がイベントに集まるところだ。みんなで盛り上がれるし、楽しい一日になるよね。一方、小さなクラブにはスゴく親密な雰囲気とスペシャルな感じがある。ありがたいことに、僕たちはどちらのライブもできるからうれしいね。

―膨大な曲の中からセットリストを決めるのは大変なことだと思いますが、セットリストはいつもどのように決めるんですか?

グレッグ セットリストはバンド内でも最も研究が必要な領域になるね(笑)。今言ってもらったように、曲は膨大にあるからなんだ。実際、セットリストはベース・プレイヤーのジェイ(・ベントリー)にまかせている。ジェイは時間をたっぷりかけて、前のライブでプレイした曲に対して観客がどういう反応をしたのかを研究しているよ。観客はもしかしたら違う曲を求めていたんじゃないか、本当はこういう曲を聴きたいんじゃないかということを考えて、また他の曲を選んでいくんだ。ジェイはよくわかっていると思うよ。SNSのフィードバックもチェックして、参考にしているから。

―バッド・レリジョンは『Christmas Songs』というクリスマス・アルバムを出していますが、クリスマス用のスペシャル・セットをやったことはありますか?

グレッグ それって、ホリデー・シーズンにやったら最高だろうね。クリスマス・ライブは何度もやってきたし、TV番組で自分たちのクリスマス・ソングをプレイしたこともある。でもクリスマスの曲ばかりでスペシャル・セットをやったことはないね。次回日本に行く時はホリデー・シーズンを狙おうかな(笑)。

―セットリストで一番最初にやる曲、一番最後にやる曲で、特にお気に入りの曲はありますか?

グレッグ 特にこの曲がお気に入りっていうのはないかな。ただ、ライブの最後は僕たちにとって一番思い出深い曲をやりたいね。それは特に「American Jesus」とか「Infected」、「Were Only Gonna Die」といった曲じゃなくてもいい。観客全員にとってエキサイティングな曲であればいいんだ。みんなを最高の気分にしたままライブを終えたいんだよね。だから最後の曲はエモーショナルで悲しい曲はやらないで、人気のある盛り上がる曲をやることにしている。最初の曲に関しては、いきなり観客の心をつかむような曲をやりたいね。だから自然とエキサイティングでアップビートな曲になる。「Supersonic」とか「Recipe for Hate」をやることが多いね。

ライブの変遷について

―グレッグが日本に来た時にいつもやりたいことはありますか?

グレッグ 僕はソングライターで、本のライターでもあるから、文房具の専門店、伊東屋に行くのが好きなんだ。日本製の紙とか筆記道具が大好きなんだよね。あと、小さな蕎麦屋に行くのも大好きだ。僕たちにとって日本に行けることは一種の特権みたいなものでね。普通に通りに出て、人々が歩いているのを見るだけでも楽しいし、街の様子、そこで起こっている出来事、ナイトライフを見ているだけで特別な気持ちになれるんだ。

―バッド・レリジョンは80年代からライブ活動を続けていますが、年を追うごとにバッド・レリジョンのライブはどう変わってきましたか? それこそ最初の80年代はLAのハードコア・パンクの黎明期でしたよね。

グレッグ 年を追うごとに洗練されてきたと思うね。80年代の僕たちはもっとラフだったと思うんだ。僕とブレット(・ガーヴィッツ)が書いた曲は演奏するのが難しかったしね。80年代のライブはスゴくラフだったけど、そこからどんどん腕を上げていって、今ではかつてないほど演奏が上手くなっていると思うよ。僕たちのミュージシャンシップも唯一無二のものになったと思うね。パンク、ロックに限らず、音楽の世界の中でも最高のミュージシャンの集まりになったと思っている。2022年以降に僕たちのライブを初めて観たファンは、洗練された新しく生まれ変わったバッド・レリジョンを目にしているんだ。昔からのファンであれば、80年代にスゴくラフだった僕たちが何十年もかけて成長したのを目にしていると思うよ。僕たちは決して停滞することがなかったし、その成長ぶりはバンドが40年間ステージに立ち続けてきただけのことはあると思うんだ。

―90年代のことも聞きたいのですが、88年のアルバム『Suffer』が数多くのバンドとシーンに大きな影響を与えて、そこから90年代は新しいパンクの時代が到来しました。あの時代に新しくバッド・レリジョンのシグネチャーとなるサウンドを生み出したのには、どのような背景があったのですか?

グレッグ 実際、簡単なことではなかったよ。どんなアートでもそうだけど、前の作品の成功があって、その積み重ねの中から新しいものが生まれる。それは科学の世界も同じことなんだ。しかも前の作品のすべてが成功しているわけではない。だから、良い要素だけを取り出して、そこに新たな要素を加えていく。それで最終的に進化として結実していくんだ。A・B・Cみたいなパターンで曲を作れたらいいんだろうけど、そんなに簡単なものじゃないからね。コミットメントが必要だし、多くのバンドはそこでもっとやろうという気持ちが失せてしまう。だけど僕たちは常に進化しようと思ってやってきたし、前の作品の成功があって、その上にさらに新しいことにトライして重ねていったから、バンドとしての成長、アーティストとしての成長を見せることができたんだと思う。

―コンフォートゾーンから抜け出して、ずっと切磋琢磨してきたわけですね。アルバム制作でトッド・ラングレンやリック・オケイセックのような外部のプロデューサーを迎えたこともあるし、再びブレット・ガーヴィッツと組んで作った2002年の『The Process of Belief』は、非常にフレッシュな印象を与えるアルバムでした。音楽制作のアプローチはかなりクリエイティブですよね。

グレッグ そうだね。去年「Punk Pardox」という本を出したんだけど、今言ってくれたような、いろいろなプロデューサーと制作したこと、アルバムで新たなテクニカルなトライをしたこと、常にクリエイティブでフレッシュでいることについて書いているよ。

バッド・レリジョンが始まる前のバックグラウンド

―「Punk Pardox」は典型的なロック・アーティストの自伝という感じではないですよね。自分の人生について書かれているし、バンドを始める前の話もあります。驚いたことに、グレッグは元々アカデミックなバックグラウンドで育てられたんですよね。そういう背景はグレッグの音楽やリリックのユニークさにも現れているのかなと思いました。

グレッグ ありがとう。僕がこの本で書きたかったのは、メインのキャラクターが人生を通してどのように変わっていくのかということだった。僕の自伝ではあるんだけど、僕自身をメインのキャラクターとして書いている。このキャラクターがどのようにしてアーティストになっていくのか。それを理解するためには、そのキャラクターのバックグラウンドも伝えなきゃいけない。僕は生まれた時から、大学というものがバックグラウンドにあってね。僕は大学のキャンパスの中で生まれたんだよ(笑)。バッド・レリジョンが始まる前のバックグラウンドを知れば、ファンは何故今バッド・レリジョンはこういうバンドなのかというのがより深く理解できると思うんだ。

―自分の過去を振り返って本を書くプロセスはどのようなものでした?

グレッグ 本を書いたのはコロナ禍のパンデミックの最中だった。バンドのツアーもなかったから、本の執筆には集中できたよ。自分の人生を物語にして書くのはけっこう大変だったね。人生というものは複雑だし、物語はたくさんある。僕の人生にはいろいろな要素があるから複雑なんだ。一番大変だったのは、どの物語が読者にとって面白いのかという判断だった。だからとにかくいろいろな物語を入れてみたね。一つの流れを作って、そこに物語をいろいろ入れて、読者が付いてこれるようにしたよ。本を読んでもらえればわかるけど、僕の人生は大学に始まり、今もなお大学にいるんだ。バッド・レリジョンに関して言うと、このバンドがブレイクして、自分の人生のメインになるなんてことは、僕自身が予想できなかったことなんだ。

―本の執筆中に再発見したもの、自身にとって学びとなったことはありますか?

グレッグ 良い質問だね。というのも、僕が目標としているのは、自分自身について学びを続けることだからだ。そしてこれは今後も続くプロセスでもある。今回の執筆では、書く技術というよりも、自分が何者かについて書くことがわかったように思う。今の僕は自分に自信があるし、自分であることに満足もしている。ただ、書くことに関してはもっと上達していきたいと思うね。

―そもそもシンガーになりたいと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

グレッグ それは誰にもわからないよ。そのことに関しては本の中で分析しているんだ。元はと言うと、小さな子供の頃、僕は母親の気を引きかった(笑)。良い母親だったけど、僕はもっと多くを求めていたんだろうね。シンガーになったのは、母親の気を引きかったからだと思う(笑)。

―バッド・レリジョンが成功した時、お母さんから何か言われましたか?

グレッグ 母はあまりそういう話はしないんだ。「Punk Pardox」にもバッド・レリジョンの自伝本の「Do What You Want」にも書かれているんだけど、母はバンドの最大のサポーターだったんだよ。母はガレージをバンドの練習のために貸してくれたし、バンドの大ファンでいてくれた。ずっとサポートしてくれたんだよ。


グレッグ・グラフィン(Photo by Per Schorn)

教育の核にある知性が大切

―コロナ禍のパンデミックの時は、本も執筆しましたが、同時に世界で起きていることについても考えたと思います。バッド・レリジョンは常に社会や人間の意識にフォーカスしたリリックを歌ってきましたよね。そんな中、2021年1月にリリースした「Emancipation of the Mind」は、また視点を変えていると思いました。

グレッグ リリックでも「the well spring of true liberty」(真の自由の尽きぬ源泉)と歌っているしね。「Emancipation of the Mind」(マインドの解放)というのは教育におけるメタファーなんだけど、今の世界を見ると、すべての問題は教育の欠如から来ていると言わざるを得ない状況だ。だからと言って、大学に行くべきだということではなくて、教育の核にある知性が大切だということなんだ。だけど今の時代、知性というものは重要視されていない。衝動的であること、迅速な決断とか、いわゆるクリックベイトって、知性とは関係がないんだ。でもそういうものが今の世論を動かしている。スゴく危険なことだと思うんだよね。それによって多くの人が反知性とも言える文化経験に導かれ、これが真実だとされる基準を誰も疑わないからだ。「Emancipation of the Mind」という曲は、パンデミックで僕が考えたことをよく表していると思う。マインドの解放は今最も大切なことで、個人が世界をより良くしたいと思うために必要なことなんだ。そして、そのためには知性も必要なんだ。

―この曲ではオープンマインドでいることも歌っていますよね。今の時代は多くの人が考えるプロセスを放棄して、事実をすぐに知りたがりますから。

グレッグ いわゆる事実については、誰がその事実を伝えているのかをチェックしなくてはいけない。事実には検証が必要だし、普通の人には検証なんてできない。今、オープンマインドでいることって言ったけど、そこは間違いないね。オープンマインドでいることで、知性を獲得するプロセスが始まるわけだから。クローズマインドでいたら何も学べないよ。事実にはいくつもの可能性があるからこそ、世界を発見できるわけだから。

―音楽の力は信じていますか? 

グレッグ 音楽にはエモーショナルな力があるからね。音楽ならではの感情とのつながりは間違いなくあって、それは本を読むようなこと以上に深くつながれるものだし、意識に共鳴することができるんだ。音楽にはそういう結びつける力があるんだよね。全く違うことを信じている者同士が音楽でつながれるし、人間が経験する「つながる」ことにおいて、音楽は素晴らしい力を持っているんだ。「Punk Pardox」でも書いたんだけど、僕が自分の人生において学問ではなく、音楽を選んだのもそこにある。学問にもつなげる力はあるんだけど、音楽にはもっと強力な究極の力があるからなんだ。だから、バンドとして進化し続けて、良い音楽を作り続けられる限りは、ずっと間違いなくやっていけるんだよ。

―活動を長く続ける秘訣、常にクリエイティブを保つ秘訣は何でしょう?

グレッグ 自分の人生が多岐に渡って幅広いというのを意識することだよ。マンネリ化して動けなくなるようなことはしない。さっきも言ったように、オープンマインドでいることが大切なんだ。それは新しいこと、新しいアイデアに対してオープンマインドでいることになる。エネルギーがある限りは、社会とつながらなくてはいけない。人々と対話し、外に出て、人々の一部になって、自分の持っているアイデアをみんなのために使ったり、自分のアイデアが批評されたりすることが大切なんだ。そうすることで自分自身も常にフレッシュでいられるから。

―グレッグは教育者としても違うレベルにいるのではないでしょうか。研究室に閉じこもっている教授と違って、バンドで世界中を回って、リアルライフを豊富に経験してきた人ですから。

グレッグ ありがとう。僕の生徒にもそう言ってくれよ(笑)。

―2023年のプランは? ニュー・アルバムを作るなんて噂も聞きましたが。

グレッグ ツアーが控えているし、大きなフェスへの出演もある。ラスベガスのPunk Rock Bowling & Music Festival 2023にも出演するし、ソーシャル・ディストーションとオーストラリアに行くし、日本のPUNKSPRINGにも出演する。その後はヨーロッパに行って、Primavera Soundというフェスにも出るよ。新曲に関しては、ブレットとそろそろ曲を作ろうかという話はしているよ。でもまだアルバムを作るという話にはなっていないね。ただ、常に曲は作っているし、常に新しいアイデアを考えている。まあ何が生まれるのかはお楽しみだね。

―最後に日本のファンにメッセージを。

グレッグ 日本にはずいぶん長い間行けてないから、みんなに会えるのが楽しみだよ。僕たちにとっても日本でプレイするのは楽しみなんだ。コロナ禍の時は、再び日本でプレイできるかどうかもわからない状況だったからね。だから今度のPUNKSPRINGはスゴく楽しみにしている。

<INFORMATION>



PUNKSPRING 2023

2023年3月25日(土)東京・幕張メッセ
出演:MY CHEMICAL ROMANCE / SUM 41 / BAD RELIGION / SIMPLE PLAN / THE INTERRUPTERS / 04 Limited Sazabys / The BONEZ
時間:OPEN 10:30 / START 11:30
料金:一般 14000円 / GOLD TICKET 20000円 ※特典グッズ付き・専用観覧エリアあり (各税込/All Standing /1ドリンク代別途必要)
<問>クリエイティブマン:03-3499-6669

2023年3月26日(日)インテックス大阪
出演:MY CHEMICAL ROMANCE / SUM 41 / BAD RELIGION / SIMPLE PLAN / 04 Limited Sazabys / The BONEZ
時間:OPEN 10:30 / START 11:30
料金: 一般 12000円 / GOLD TICKET 18000円 ※特典グッズ付き・専用観覧エリアあり(各税込/All Standing /1 ドリンク代別途必要)
<問>キョードーインフォメーション:0570-200-888

※東京と大阪では出演アーティストが異なります。
※出演ラインナップ変更による払い戻しはいたしません。
※公演の延期、中止以外での払い戻しはいたしません。
※小学生以上はチケット必要。
※未就学児の入場は必ず保護者同伴の上、保護者1名につき、児童1名のみ入場可能。但し入場エリアの制限あり。
※ウェブサイトの注意事項を必ずご確認いただいた上でチケット購入、来場ください。

チケット先行受付中
受付URL:https://eplus.jp/punkspring/
 
チケット一般発売日:2/18(土)〜
TOTAL INFORMATION : www.punkspring.com