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1月より放送がスタートする、WOWOWオリジナルアニメ『火狩りの王』。監督・西村純二、構成/脚本・押井守というタッグも話題となっている本作のEDテーマ「まだ遠くにいる」を歌うのは、同作にも声優として出演する坂本真綾。展開が多く壮大な楽曲だが、作品の本質をついた歌詞が心を打つ。この楽曲に込めた想いを聞いた。

INTERVIEW & TEXT BY 塚越淳一

『火狩りの王』から受け取ったメッセージ



――昨年末のワンマンライブ「坂本真綾LIVE 2022 “un_mute”」は、久々のライブとなりましたが、いかがでしたか?

坂本真綾 コロナ禍になって以来、Acousticライブツアーやミュージカル、25周年の横浜アリーナ公演もあったのですが、全部観客を半分しか入れることができず、満席になっている客席をステージから見たのは3年以上ぶりで……久々の感覚でした。もちろん、情勢に気をつけながらではありましたが、その光景が見れて嬉しかったですね。それと、横浜アリーナでのライブは25周年を記念したものだったので、今までの代表曲を歌っていくセットリストだったんです。それに対して今回は、横アリとは1曲も被らず、新曲2曲や久しぶりに歌う曲、滅多にやらない曲を中心としたコアな内容になっていたんですが、マニアックな内容でも非常に喜んでいただけたみたいで。横アリとは真逆のしっとりとした雰囲気のコンサートでしたけど、上手くいって良かったです。

――セットリスト、すごく良かったですね。

坂本 ありがとうございます。声を出せないこともあって、一緒に歌うような曲はなかったんですけどね。あと、産後初のライブというのがファンの皆さんの中には大きくあったらしく、1〜2曲目を歌ったあとに挨拶をしたら私が思っていた以上に長い拍手が起きて……こんなにたくさんの方が待っていてくれたんだなぁと思えて、すごく嬉しかったです。



――ライブで発売前のシングルを披露しましたが、TVアニメ『火狩りの王』EDテーマ「まだ遠くにいる」について聞いていきたいと思います。まず、この作品の印象をお聞かせください。

坂本 原作の小説を読ませていただいたんですが、仕事として読み始めたのにとても面白くて完全に読者として最後まで読み終えてしまいました(笑)。いわゆる児童書という若い方も読むものなのですが、作品には色々なメッセージが含まれており大人が読んでもハッとさせられることが多くて。火というものが使えなくなった人類の未来の話なんですけど、私たちにとって火とは、ないと暮らせないくらい身近なもので、火を自在に使えることが人間がほかの動物と違いこれだけ発展した大きな要因でもあると思うんです。でもそれが奪われ、ある種自分たちが今まで作り上げてきた文明を取り上げられたとき、私たちが普段使っていたものが使い方次第でとても危険なものになり、それがすべてを壊してしまう可能性だってあるんだよ、という警鐘のようにも思えました。

そして、過去の人間が様々な選択肢を誤って世界が壊れてしまったときに、そのツケを払うのは、こんなに小さな若い子供たちであるというのも感じました。だから私くらいの年齢の人が読むと、ファンタジーだけど、どこかリアルに響くんですよね。ファンタジーと思って読み始めたけど、最後はそうは思えない、みたいな小説でした。そうやって、作者の日向理恵子さんが色々なメッセージを込めて書いたお話だと感じたので、私が共感をしたところを、歌詞にも取り入れて書けたらいいなと思いました。



――たしかに、人類はあと何世代持つんだろうなぁという話を子供としたりしますね。

坂本 私たちは終わるだけだからいいですけど、そのツケを払うのは、これからの人たちですからね。

――世界観も、未来の話だけど自然が描かれていたり、どこか親近感を感じました。

坂本 荒廃した未来の世界の話ではあるんですけど、どこか昔話の世界みたいな温かみがあるんですよ。人々が森の中で暮らしていたりするので、本を読んでいて香ってくるのは土の匂いや木の匂いなんです。逆に今の世界にない、自然なものだったりするのが不思議だなぁと思いました。そして、とても過酷な状況ではあるものの、出てくる登場人物が誰も諦めていないというのが救いにも思えて……彼らが最後まで諦めない姿を応援するというか、見守る楽曲になればいいなと思いました。

――坂本さんは、明楽役としても出演されていますが、その役柄についても聞かせてください。

坂本 戦う強い女性です。流れの“火狩り”(※安全に使える唯一の燃料でもある、異形の獣たち“炎魔”の体液を集める者)で、大きな敵にも立ち向かえるような腕っぷしの良いキャラクターです。登場したときは、この人味方なのかな?っていうくらいミステリアスなのですが、話が進むにつれて主人公たちのチームの1人として、仲間を思いやる情の厚い性格が見えてきたので、頼れるお姉さんという感じですね。あと、サバサバしているので、誰にでも好かれそうな親しみやすさがあります。ただ、ずっと死にそうなフラグが立っているんですよ……(笑)。共演者の方に「明楽のことがどんどん好きになるんですけど、最後まで生きていますか?」ってすごく心配されています(笑)。



人間が奏でているということに意味がある



――「まだ遠くにいる」の作曲は、姉田ウ夢ヤと堀下さゆりさんですが、この方々はどういう経緯で曲を書くことになったのでしょうか?

坂本 アニメのEDテーマを作ることになり、静かに始まってサビで思い切り展開していくような、派手で壮大な曲がほしいと思っていたんです。展開が読めない普通ではない曲というか。そうやって曲の方向性が決めてから、そのオーダーで複数の作家さんに曲を書いていただき、一番合うと思った曲を選びました。

――聴いたときは、イメージ通り!という感じだったのですね。

坂本 イメージ通りだったんですけど、歌うのは難しいだろうなと思ったのでそれだけが心配でした。

――難しい、と思うんですね。どんな曲でも歌えるイメージがありました……。

坂本 いつの頃からか、難しい曲を歌う雰囲気が出てしまったんですよ(笑)。望んでそういう曲ばかりを歌おうと思っているわけではないんですけれど、アニメ作品って世界観が壮大なものが多いので、そういうところにいきやすいのかもしれないですね(笑)。でも、この曲は今まで歌ったなかでも、かなり難しいほうだと思います。



――コーラスもたくさん重ねていますからね。以前コーラスは好きだとおっしゃっていましたが。

坂本 とはいえ、大変でしたよ。たくさん録りましたから(笑)。

――歌詞については、先程お話していただいた原作から感じたものが含まれていますね。

坂本 生まれた時代は選べないけど、そこで必死で生きることを繰り返すしかないという、ポジティブなのか諦めなのか……その両方が入ったようなサビの言葉になります。でも人間って、どんな時代でも灯りを掲げて立ち上がるたくましさをもって生きてきたんでしょうね。それをいけるところまで続けていくしかないというテーマがありました。

ただ、曲自体はかなりダークな印象で明るくはないと思ったんですが、そこで“きらきら光ってる“という言葉が合っているのかどうかは最後まで迷いました。違和感を感じる方がいるかもしれないですが、私は決して脅かしたいわけではないし、未来がこんなにも酷いものになるということを歌いたいわけではなくて。どんな状況でも命が生まれることはものすごいエネルギーで、命ってそこにあるだけで光を放つくらいすごいものなんだということを、「救い」として描きたかったんです。

――それは、自身の実感にも繋がることなのかもしれません。

坂本 というよりは、そうであってほしいみたいな気持ちですね。この歌詞を書いたのはもう1年以上前で、色んなことが今とは違っていたんです。それこそ、私も母親になっていなかったですし、戦争がこんなに身近で起こる状況でもなかった。これを書いたあとに、あまりにも色々なことが起こったので、書いたときとライブで歌ったときとでは感情が違うなとは思っていました。



――タイアップなのでかなり前に書いたと思いつつ、何か今の状況にも重なるというか。聴くときや歌うタイミングで歌詞の捉え方が変わるというのは、坂本さんもよくおっしゃっていましたが、この曲にもそんなことを思ってしまいました。ちなみに、一番最後の“きらきら光ってる”という歌詞を聴きながら、希望が感じられると思ったのですが、歌唱については、どんな想いで歌ったのでしょうか?

坂本 そこはコーラスが残っていくアレンジになっていて、キラキラしたものが空に昇っていくようなイメージがあったので、自然にそう聴こえたのかもしれません。私はただただ必死に歌っていただけでした(笑)。

――難しい曲なので(笑)。でも、すごく力強さは感じました。

坂本 そうですね。ただ力強さと言っても、私の声質と歌い方なので、もっと力強く歌える歌手の方はいると思うんです。だからそれよりも、弦や色々な楽器が折り重なった壮大な楽曲の中で、何か針金のように細いものが一本貫いているようなイメージで、たゆたう感じで歌いました。大海原っていうよりは一筋の雨だれみたいなイメージの歌になったかなぁ(笑)。

――でも、説得力はすごくありましたよ。壮大とおっしゃったアレンジについては、かなり面白く、ある意味すごいことになっていましたね。

坂本 かなり複雑ですよね?サビが2回続くような感じで、ストリングスだけでも聴き応えがあるものでしたし。この難曲を、素晴らしいミュージシャンが演奏してくださったので、ボーカルなしで聴いても面白いと思います。

――これを演奏しているのがすごいですね。

坂本 それこそクリックを無視しているのかなっていうくらい、どんどん前にいくような感じもあったんですよ。いわゆる打ち込みで作られている音楽と違うのは、そういう揺れの部分。生の音にこだわったところが、人間的なぬくもりになっているのかなぁって思いました。正直、打ち込みでもいいし、何なら歌も、正確性を求めるのならばボーカロイドでいいくらいの楽曲なんです(笑)。でもそういう曲を人間がすべて奏でているということに意味があるのではないかなって思います。

――サビのリズム隊は、心が動かされましたから。

坂本 走ってますよね?というくらいギリギリをいっているんですけれど、だからこそそこに引っ張られて、独特なうねりになっている気がします。1曲の間に色々な景色が通り過ぎていくので、映像が浮かんでくるような感じでした。

――ちなみに、このタイトルに込めた意味というのは?

坂本 小説のタイトルになっていそうな、文学的で、何かをはっきり言い過ぎない、聞く人に想像させるような日本語タイトルがいいなというイメージがあったんです。“雨音に目を覚ます”というスタートから、夜明けがまだ遠くにあると歌っているんですけど、その夜明けが良いものなのか悪いものなのか、何がやってくるかはまだわからないんですね。それが不安でもあり、期待でもある。まだ何も起こせていない、でももうすぐ何かが起きる、みたいなタイトルになりました。

ライブタイトルにもなったカップリング曲「un_mute」の魅力



――カップリングの「un_mute」は、デビュー時から坂本さんの曲の作詞をされていて師匠的な存在でもある岩里祐穂さんが書かれていますね。

坂本 こちらも壮大な曲で、「まだ遠くにいる」とは違った、静かだけどエモーショナルな楽曲なんです。止まっていた時間が動き出す、といったことが描かれていて、その止まっていた時間というのは自分が後悔していることだったり、ショックな出来事から立ち直れずにいることだったりする……。世界は動いているのに自分だけが止まっているような人の心の氷を、少しでも溶かしてあげられるような音楽というのをテーマに作りました。なので岩里さんには、浄化だったり、許しだったりを感じられる歌詞がいいです、というオーダーをしました。それだけのヒントで、想像以上のスケールで歌詞を書いていただけて、受け取った瞬間に、やっぱりさすがだなぁと思いながら読んでいました。曲自体も気に入って書いてくださったみたいなので、とても愛情がこもった歌詞になっていると思います。

――「un_mute」もコーラスが印象的なんですけど、作曲のSIRAさんがコーラスに参加されていますね。これにはどんな効果があったのでしょう。

坂本 SIRAさんは、以前曲を書いていただいたり(「Hidden Notes」)、いつもライブに来てくださったりして、またご一緒したかったので嬉しかったです。コーラスに参加していただいたのは、天から降り注ぐ声というところで私以外のもう1人のコーラスが入ったほうがいいと思ったからで、実際にすごく奥行きが出たと思います。



――たしかに降り注ぐ感じでした。ちなみに「un_mute」は、昨年末のワンマンライブのタイトルでしたね。

坂本 「un_mute」がすごく良いタイトルだったので、いただき!みたいな(笑)。直近の曲に合わせたライブタイトルがいいと思っていたんですけど、「まだ遠くにいる」ライブって、なんだかイヤじゃないですか……(笑)。それなら「un_mute」のほうが合うな、と。ただ自分では、そんなに産休明けみたいな印象を強く受けるとは思っていなかったんです。でもよくよく考えたらそうだよねっていう。

――そして、初回限定盤特典CDで「坂本真綾LIVE 2022 “un_mute”」のライブ音源が聴けるということで、こんなに早く聴けるのは嬉しいですね。

坂本 本当ですよね!ライブをやる前から決まっておりました(笑)。映像化するつもりはなかったので、音だけでもどこかで聴かせられたらいいなと思っていたんですけど、そのタイミングが思ったよりも早かったです。

――2023年がこのシングルからスタートするような感じもしますが、昨年は色々なことが起きた1年でもあったので、心境の変化などはありそうですか?

坂本 どうだろう……。価値観とかは、生きていれば、自然の流れで変わったり変わらなかったりするでしょうけど、実は結構変わらないなっていう印象です。でも、自分ではわからないのかなぁ。ただ、今まで以上に作詞にかけられる時間が物理的に減ったので、無駄に時間をかけなくなったというのはあるかもしれません。あと、今年はこのシングルのリリースあと色々と活動もするのですが、それを楽しみにしていただきつつ、私は淡々と日々を生きていきます(笑)。

●リリース情報

「まだ遠くにいる / un_mute」

2023年1月25日(水)発売

【初回限定盤】



品番:VTZL-220

価格:¥3,300(税込)

【通常盤】



品番:VTCL-35349

価格:¥1,540(税込)

<収録内容>

01.まだ遠くにいる (WOWOWオリジナルアニメ「火狩りの王」EDテーマ)

作詞:坂本真綾 作曲:姉田ウ夢ヤ・堀下さゆり 編曲:姉田ウ夢ヤ

02. un_mute (TVアニメ「REVENGER」EDテーマ)

作詞:岩里祐穂 作曲:SIRA 編曲:河野 伸

03.こんな日が来るなんて

作詞・作曲:坂本真綾 編曲:北川勝利・acane_madder

04.まだ遠くにいる -Instrumental-

05.un_mute -Instrumental-

06.こんな日が来るなんて-Instrumental-

<初回限定盤 特典CD>

2022年11月26日、27日に開催の「坂本真綾LIVE 2022”un_mute”」@東京国際フォーラム ホールAで演奏するライブ音源から11曲収録予定。

●作品情報

WOWOWオリジナルアニメ『火狩りの王』

放送・配信日:2023年1月14日(土)午後10時30分より放送・配信スタート

WOWOWプライム(第1話無料放送)、WOWOWオンデマンド(無料トライアル実施中)

【STAFF】

原作:日向理恵子(「火狩りの王」ほるぷ出版 刊)

キャラクター原案:山田章博

監督:西村純二

構成/脚本:押井守

キャラクターデザイン:齋藤卓也

総作画監督:齋藤卓也・黄瀬和哉・海谷敏久

エフェクト作画監督:小澤和則

イメージイラスト/プロップデザイン:岩畑剛一

美術設定:中島美佳

メカニックデザイン:神菊薫

クリーチャーデザイン:松原朋広

美術監督:小倉宏昌

色彩設計:渡辺陽子

筆文字:勝又まゆみ

劇中画:水野歌

CG監督:西牟田祐禎

CG制作:レイルズ

タイトルデザイン/2Dワークス:山崎真紀子

特殊効果:櫻井英朗

撮影監督:荒井栄児

編集:植松淳一

監督助手:菅野幸子

音楽:川井憲次

オープニングテーマ:家入レオ「嘘つき」

エンディングテーマ:坂本真綾「まだ遠くにいる」音楽制作:フライングドッグ

音響監督:若林和弘

音響制作:プロダクション I.G

アニメーション制作:シグナル・エムディ

【CAST】

灯子:久野美咲

煌四:石毛翔弥

明楽:坂本真綾

炉六:細谷佳正

綺羅:早見沙織

緋名子:山口愛

クン:國立幸

照三:小林千晃

火穂:小市眞琴

油百七:三宅健太

火華:名塚佳織

焚三:宮野真守

灰十:三木眞一郎

紅緒:原優子

ほたる:宮本侑芽

炸六:真木駿一

炎千:上田燿司

火十:綿貫竜之介

ヤナギ:大原さやか

キリ:嶋村侑

ひばり:石田彰

ナレーション:榊原良子

<INTRODUCTION>

人類最終戦争後の世界。

大地は炎魔が闊歩する黒い森におおわれ、人々は結界に守られた土地で細々と暮らしていた。

最終戦争前に開発・使用された人体発火病原体によって、

この時代の人間は、傍で天然の火が燃焼すると、内側から発火して燃え上がってしまう。

この世界で人が安全に使用できる唯一の<火>は、森に棲む炎魔から採れる。

火を狩ることを生業とする火狩りたちの間で、あるうわさがささやかれていた。

「最終戦争前に打ち上げられ、永らく虚空を彷徨っていた人工の星、<揺るる火>が、帰ってくるー」と。

“千年彗星<揺るる火>を狩った火狩りは、<火狩りの王>と呼ばれるだろう”

紙漉きの村に生まれ、禁じられた森に入って炎魔に襲われたところを、火狩りに助けられた灯子。

首都に生まれ、母を工場毒で失い、幼い妹を抱えた煌四は“燠火の家”に身を寄せることを決意する。

灯子と煌四、二人の生き様が交差するとき、あらたな運命が動きだすー

関連リンク



坂本真綾 オフィシャルHP「I.D.」

http://www.jvcmusic.co.jp/maaya/

「火狩りの王」公式サイト

http://hikarinoou-anime.com/