食材高騰の時代にわれわれは何ができるか(画像:mayucolor/PIXTA)

このところ値上げのニュースが止まらない。原油高が一段落したかと思ったらOPECプラスは減産を決めた。また日米の金利差をはじめとする要因によって円安も止まりそうにない。ウクライナ戦争の動向は不透明でエネルギーや食料品も高騰したままだ。これらの影響として、前年比で8万〜10万円くらいの家計負担増が予期されている。

とくに一般家庭で気になるのは、自宅における食費の増加ではないだろうか。私はコンサルティング業務に従事しているが、その一環で典型的な朝食・昼食・夕食を作るときにどれくらいの負担増になっているかを計算してみた。これは農林水産省が提示している「バランスのとれた、一日の食事例」をもとにしたデータだ。「モーニング・ランチ・ディナー指数」として割り出した。


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結果、ロシアのウクライナ侵攻(2022年2月)の約3カ月前である2021年12月を100としたとき、実に1割近い上昇となっている。これまでよりいっそう、家庭内のフードロス削減や工夫が求められるだろう。

一方、こうした時流に着目したビジネスが海の向こう、アメリカではいくつか見られ始めている。

フードロスを他者に役立てる

まず紹介するのはアメリカのCopia社だ。飲食店やスーパー、学校、コンビニなどで、ほとんど廃棄されてしまう余剰食材を有効活用するビジネスを展開している。Copiaの専用のアプリを介して、地域で食材を必要としている団体に余剰食材を届けられる。


Copia社のホームページ(https://www.gocopia.com/)

データはリアルタイムに報告してくれ、日々蓄積されていく。将来的には余剰食品の減少につながり、コストカットにも貢献するだろう。税控除の利点もあるという。

アメリカでは9万席のフットボールスタジアムを満席にしてしまうほどの食料を毎日ムダにしていると言われる。一方、6人に1人は次の食事ができるか不安を抱えているという矛盾があるだけに、現代的なサービスというべきだろう。

続いて、有名なファンドから出資を受けているThe Human Utilityを紹介しよう。公共料金、とくに水道料金の支払いを必要としている家庭と、公共事業会社への直接支払いによる支援を希望する人々をマッチングしている。


The Human Utilityのホームページ(https://www.detroitwaterproject.org/)

アメリカでは4000万世帯以上の家庭で、水やその他の必要不可欠な光熱費が払えない場合があり、公共料金を支払うために、薬や食料の購入費、交通費の支出を抑える家庭も少なくないとされる。

これに対してThe Human Utilityのプラットフォームは、請求書を分割し、世界中の寄付者が一緒になって公共サービスを受けられるように支援している。

料理人と個人客をITでつなげる

続いての話題に移ろう。インフレで外食費が高くなったことから、消費者は節約や家計防衛のために内食(自己調理)を増やそうとする。日本人の給与がさほど伸びていない状況では仕方がない。ただ、それによってレストランのシェフたちがふたたび苦境に陥るかもしれない。

そこで世界ではUber Eats(ウーバーイーツ)などの配達サービスが注目されている。これをさらに進めて注目されているのがShef社だ。地元の食品安全認証を受けた料理人が、地域の顧客とつながり、手料理を売り有意義な収入を得るオンライン・マーケットプレイスを提供している。


Shef社のホームページ(https://shef.com/)

Uber EatsはITでレストランと個人をつなげている。これに対してShefはITで個人シェフと個人をつなげる。社会的に弱い個人シェフの収入増に寄与しようとしているのだ。

具体的には、特徴のある移民たちの料理を個人とつなげるのを得意としている。シェフの75%は女性で、80%は有色人種だ。アルジェリア、韓国、インド、ベネズエラなど、世界約100カ国の出身者たちが参加している。

シェフは、シニア、移民や難民、専業主婦などの人たちだ。彼らは収入の影響を受けがちな社会的弱者ともいえるが、自分たちの料理や文化を共有することに情熱を注いでいる、地元に密着した料理人たちだ。彼ら・彼女らのキッチンから料理を個人宅に届ける面白い発想のサービスといえる。うまくやれば外食するよりも安いコストで質の高い料理が楽しめる。

なおアメリカにはレストランではなく料理人を前面に出し、有名シェフの料理を家庭で再現するサービスを提供するGoldbellyも存在する。彼らは併せて食事キットも販売しており、利用者はレストランに行かずとも本格的な料理を楽しめるようになっている。


Goldbellyのホームページ(https://www.goldbelly.com/)

もちろんこれらアメリカで先行しているビジネスのコピーでもよいが、これからの日本で求められるサービスはなんだろうか。冒頭で2021年12月から比べて家庭で理想的な食事を実現するためのコストが10%ほど上がっていると紹介した。ただ、工夫の余地はまだあるはずだ。とくにフードロスを低減してコストを抑え、食材流通の効率を高めることが肝要だろう。

・生産者側のフードロス低減としてAIを活用し、消費者需要を予想し生産数を適正化する技術

・小売店も気温や時期、地域イベント等から仕入れ数量の適正化を図る技術

・家庭としても家族構成やこれまでの残飯等を把握し、最適調理量を提案する技術

こうしたことが考えられる。

危機を好機に変えるビジネスを

社会の危機とは、ビジネスの観点からすれば好機にもなりうる。実際にアメリカではサービス開発が進んでいることを紹介した。おなじく日本でも好機に変換するビジネスはありうるだろう。

フードロスの低減だけではない。もしかしたら人間に最適な栄養素を最低コストで与える完全食かもしれない。あるいは、最適な食料購入スーパーやECサイトを教えてくれる技術かもしれない。

現在、日本人は消費の6割を前月と同様に支出している。家賃や水道光熱費、交通費、保険料……。見直さなければ同じような支出をするだけ。また、食品も同じようなものを同じ量で支出しているのであればほぼ10割を無自覚に支出しているかもしれない。そこを見直す・見直させる姿勢・サービスが必要だろう。

繰り返すと、誰かの危機は、誰かの好機である。

(坂口 孝則 : 調達・購買業務コンサルタント、講演家)