「”サプリ”のようなドラマを作りたい」ドラマ畑出身ではない2人だから出来ること:絶メシロード

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ドラマ25「絶メシロードseason2」(毎週金曜深夜0時52分放送/テレビ東京ほか)がスタート。本作の原案・脚本・プロデュースを務める畑中翔太さん(株式会社dea代表/BABEL LABEL)と、「絶メシロード」を皮切りに、「八月は夜のバッティングセンターで。」、「お耳に合いましたら。」、「量産型リコ‐プラモ女子の人生組み立て記‐」の4作品で畑中さんとタッグを組んできたテレビ東京の寺原洋平プロデューサーの対談。前編に続き、作品に込めた思いから、ドラマ制作出身ではない2人だからこそできること、今のドラマ界に思うことなど、大いに語っていただきました。

ドラマ畑出身ではないからこそのドラマ作り



――"絶メシ"というコンセプトに始まり、ストーリーの構築やキャラクター造形...「絶メシロード」が最小限のスタッフで練り上げられた、オリジナル作品だからできたことがたくさんあると思います。

寺原「畑中さんと一緒にやったドラマって、原作ものが一つもないんですよ。全部、畑中さんが作ってくれているんですけど」

畑中「いやいや。僕はもともと広告畑の出身なので、絶滅しそうなグルメと車中泊をかけ合わせて『絶メシロード』とか、何かと何かをかけ合わせてドラマにするという発想でやってきただけで」

寺原「僕も畑中さんもドラマ制作出身じゃないから"ドラマとはこうあるべき"というセオリーみたいなものを知らなかったんですね(笑)。それがよかったのかもしれません。テレビ局や制作会社さんだけで考えていたら、絶メシ×車中泊なんて、おそらく思いつかなかったし、民生ももっと違ったキャラクターになっていたと思います」

――音楽もその一つじゃないでしょうか? 「絶メシ」のスカートをはじめ「八月は夜のバッティングセンターで。」のクリープハイプ、「お耳に合いましたら。」の花澤香菜、にしな、「量産型リコ‐プラモ女子の人生組み立て記‐」の樋口楓と、ミュージシャンのチョイスが抜群で、なおかつ昨今、珍しい書下ろしの楽曲ばかり。

寺原「ドラマに合うミュージシャンを選ぶ場合、ドラマの題材が好きな方を選ぶことがあって、クリープハイプさんなんかは後者ですね。すべて台本を読んでいただいた上での書下ろし。そのため、どのドラマの世界観にもバシッとハマっていて、本当に素晴らしいです」

畑中「ミュージシャンファーストではなく楽曲ファーストで選んできて。手前みそになりますが、"当てて"書いていただいているだけにどの曲も本当にいいなと。それを受けて僕らもオープニングやエンディングの映像を作ったりするので、一緒に転がっていくものだな、ドラマにとって主題歌は本当に大事だなと思います」

寺原「ただし今回は、スカートさんがすごくプレッシャーだとおっしゃっていました。シーズン1の主題歌(『標識の影・鉄塔の影』)を超えられる気がしないって(笑)。悩まれただけに、ものすごくいい曲を仕上げていただきましたが」

主題歌はスカートが本作の為に書き下ろした「架空の帰り道」

――お2人ともドラマ制作出身ではない(※経歴はプロフィールを参照)ことで、意外な組み合わせで、前例のないドラマが生まれましたが、未経験の強みはどこだと思われますか?

寺原「チャレンジできたことでしょうね。だって、ゼロをイチにする――そんな苦しいことってないですから。普通ドラマ畑でやってきた人ではやらないと思うんですね。しがらみや常識、効率化...いろんなことも考えなきゃいけないし。でも、畑中さんがある意味、その苦労を知らないがゆえに思ったことをどんどん形にしてくれて(笑)。それをすべてオリジナルでやれたことは自信にもなりました」

畑中「企画とか原案とか、今は脚本もやらせてもらっていますけど、それが喜びになっているのが大きいですね。そうなると、自分でやるならオリジナルで...となりますし、そこに命を吹き込んでいきたい。ストーリーからキャラクターを作って、バックグラウンドを考えて、だったらこう言うだろなとセリフを書いていって...。寺原さんがおっしゃるように、ものすごく大変な作業ではあるんですが、オリジナルだからできたことは、それこそPRも含めてたくさんあるし、自由にやれる楽しさがあります。ある意味、誰の確認も必要ないですし(笑)」

寺原「(笑)、それが一番、大きいかもしれない」

畑中「2人がよければ、それでGOできるという」

寺原「でも、ドラマ畑が長い脚本家の方ならまだわかるんですけど、広告畑にいらっしゃったクリエイティブディレクターがゼロからオリジナルものを5作連続で作るって、本来ならすごいことじゃないですか? それがなぜできたのか、どういうアプローチだったのか...畑中さん、いかがですか?」

畑中「まず"この時間帯にテレビができることって何だろうな?"というところから考えますね。『絶メシロード』の放送は金曜日の深夜0時台で、その時間に視聴者は何がほしいのかという求めに対して、僕らは何を作ればいいのか――。これが映画であれば、自分の表現したいものや伝えたいもの、今の時代に描きたいものを作ると思うんですよ。でも、ドラマの場合は放送される曜日や時間帯が決まっていて、その前後の番組もあらかたわかっていて」

寺原「せっかく見てくれた方をガッカリさせたくないし、時間を無駄にはさせたくない。だから、社会の潮流を無理やり反映したようなものではなく、その時間帯にテレビを見ている視聴者に寄り添えるような、どこかホッとするドラマを作りたいということは、よく2人で話していますね」



マイフェバリットドラマになりたい



――映画と違ってテレビは無料ですし、スイッチを入れれば勝手に番組が流れてくる。見る・見ないの判断も視聴者に委ねられる媒体ですからね。

畑中「だから、余計なエゴは持たないようにしています。寺原さんともども"俺たちはこんなものを見せたいんだ!"という気持ちは一切ないです。もちろん、最高のものを作りたいという気持ちはありますが、見てくれるのであれば、いかようにも変化していいと思っています」

寺原「広告と聞くとマーケティングとかロジックとか、無機質なメソッドでやってきたイメージが強いんですが、畑中さんの場合、これまでやってきた4作品すべてに温もりを感じるんですよね。加えて絶メシであったり車中泊、あるいは野球(『八月の夜はバッティングセンターで。』)、チェーン店(『お耳に合いましたら。』)に対する愛情・愛着も感じられて。そのへんはセンスなんですか?」

畑中「質問の答えになっているかはわかりませんが、毎回"マイフェバリットドラマになりたい"という思いで作っています。1クールの間に何本と新しいドラマが放送されて、観ないドラマもあれば観てもすぐ忘れちゃうドラマもある中、"このドラマは私のお気に入り"と思える、記憶に残るドラマを作りたい。広くあまねくドラマというより、ニッチで最初は間口が狭くてもいいから誰かの心に響くドラマにしたいと思ってやってきました」

寺原「なるほど。畑中さんにはちゃんと起点があるから温もりを感じるわけですね」

畑中「一見ニッチで目新しい題材でも、最終的には一人ひとりの人間の物語になっているものを目指していて。そこから何か感じてもらえたり、1週間の疲れを取り除けるドラマになればいいなと思っています」


寺原「畑中さんはよく『"サプリ"のようなドラマを作りたい』とおっしゃっていますが、誰かが何かに愛情を注いでいるところを愛でるのもサプリになるんだなというのが、4作品を一緒にやらせてもらって思ったことです」

畑中「癒されたうえで、それまで興味がなかったけど、ドラマを見て"食べたくなった""やってみたくなった"という感想が実は一番うれしくて。"おもしろかった"と言われるのもちろんもうれしいですが、実際に"ドラマを観て動かされちゃった"というのが僕の理想ですね」

寺原「テレビ離れが叫ばれる中で(話題になるための)手段ばかりが注目されますが、誰かの好きなものを掘り下げて、そこに愛情を詰め込むだけ詰め込んでドラマを作っていけば、その分野に興味がない人にも伝播していく。それが少なくともテレビ東京の深夜ドラマに
おいては、大切なことなんじゃないかなと思いますし、これからも2人で僕らなりのドラマを、仮説を持ってひとつひとつ積み重ねていきたいですね」

畑中「とりあえずは、寺原さんとのペアで初めての続編となる『絶メシロードseason2』を、ぜひご覧ください。みなさんの感想もお待ちしております」

【プロフィール】
畑中翔太(はたなか・しょうた)
2008年博報堂入社後、2012年より博報堂ケトルに参加。2017年、群馬県高崎市のシティプロモーションとして「絶メシリスト」を考案。2021年dea inc.を設立。現在はドラマや番組などのコンテンツ領域における企画・プロデュース・脚本も務め、「絶メシロード」「量産型リコ」「お耳に合いましたら。」「八月は夜のバッテイングセンターで。」「種から植えるTV」などを手がける。

寺原洋平(てらばる・ようへい)
2002年テレビ東京入社。映画部、編成部を経てデジタル専門の関連会社やコマース専門の関連会社に出向。旅のツアーを企画・販売する新サービスを立ち上げる。2018年に、配信ビジネス局に異動し、「サ道/サ道2021」「絶メシロード」「お耳に合いましたら。」「八月は夜のバッテイングセンターで。」「東京放置食堂」「真夜中にハロー!」「量産型リコ」などの深夜ドラマを手がける。

(取材・文/橋本達典)

ドラマ25「絶メシロードseason2」第1話は?

第1話
どこにでもいるごく普通のサラリーマン・須田民生(濱津隆之)は、妻・佳苗(酒井若菜)が毎週土曜日に自宅でプリザーブドフラワー教室を始める事をきっかけに、"絶メシ"を求める旅を再開する事に。久々の旅の行き先に民生は海を目指す。
車を走らせていると、旅の目的だった絶メシ店を海近くの高台に見つける。出会ったのは「お食事処・真珠の庭」。オーシャンビューを一人占めできる店内に目を奪われた民生は、久しぶりの旅でどんな絶メシに出会うのか!?