●『テッパチ!』の実現に「すごく幸せ」

陸上自衛隊を舞台に青年たちの青春群像劇を描くフジテレビ系ドラマ『テッパチ!』(毎週水曜22:00〜)。企画・プロデュースを手がける栗原美和子氏(共同テレビ)は、ドラマ制作に携わって今年でちょうど30年を迎えた。

『ピュア』『バージンロード』『人にやさしく』など、数々のヒット作を生み出してきた中で、この30年のドラマづくりの変化をどのように感じているのか。そして、配信ドラマが勢いを増す中での地上波連ドラの役割とは――。

フジテレビの渡辺恒也氏(左)と共同テレビの栗原美和子氏

○■漫画のドラマ化は「どうしても抵抗がある」

1987年にフジテレビに入社し、『オレたちひょうきん族』『笑っていいとも!』といった超人気番組を担当していた栗原氏が、バラエティ制作からドラマ制作に部署を異動したのは92年のこと。

「当時は原作のあるドラマというのがほとんどなくて、オリジナル作品がメインでした。大ヒット作の中に『東京ラブストーリー』(91年)というのもありましたが、あれは柴門ふみさんのコミックが4巻しかないので、ほとんどオリジナルなんです。やっぱりオリジナルは自由に作れるので、すごく楽しかったんですよ」

その後、原作をもとにした作品がヒットする時代に突入し、「だんだん強い原作がないと企画が通らないということになってきたので、ノンフィクションの作品だったり、有吉佐和子さんの古い名作(『不信のとき〜ウーマン・ウォーズ〜』)のようなところから、原作モノにも慣れておかないと、この時代には適応できないと感じた時期もあります」と回想。

それでも、「私はどうしても漫画をドラマ化するのに抵抗がずっとあるんです。漫画はビジュアルがあって、そこにファンの方が付いているじゃないですか。それが見えている状態で映像化するとなると、まず漫画ファンに対してどう“戦う”かみたいな、違うベクトルが出てきてしまうので、いまだに漫画原作はやってないんです」と、こだわり続けた。

○■「ついていけない」と苦悩の時期も

漫画原作の波が勢いを増し、各局で強い作品を取り合う流れになり、「ちょっと私はそこについていけない感じがありました」という苦悩の時期もあったが、近年、再びオリジナル作品が脚光を浴びるように。

「これにはとっても喜んでいます。やっぱり視聴者の皆さんが先を想像できない中で作っていく面白さがありますよね。この前放送されていた『マイファミリー』(TBS)を見ても、黒岩(勉)さんのオリジナルの脚本であれだけ支持されるというのは、本当に素晴らしいことだなと改めて思いました」

『テッパチ!』主演の町田啓太 (C)フジテレビ

今回の『テッパチ!』は、「陸上自衛隊を舞台にした青春ドラマをつくりたい!」と、栗原氏が20年前から温めてきた企画で、ようやく日の目を見るオリジナルドラマなだけに、喜びもひとしお。「オリジナルだからこそ伝えたいことを明確に伝えられるので、今回もオリジナルでやれて、すごく幸せだなと思います」と、充実の表情で語った。

●“ラブ”をちゃんと提供しないといけない

そんな栗原氏のつくるドラマに欠かせない要素が、”ラブ”だ。

「これがないドラマは、それだけで面白くないって思っちゃうくらい(笑)。特に女性は常に胸キュンみたいなものを求めていると思うのですが、実生活でなかなか叶わない方もいらっしゃるじゃないですか。だから、ドラマの世界で美男美女の“ラブ”をちゃんと提供しないといけないと思うんです」

若い女性のみならず、「幼稚園くらいに『あの子とおててつなぎたい』というところから始まりますし、80代だろうが年齢を問わず、そして今は男女に限らず選択肢も広くなってきていますよね。だから胸キュンは、人間にとってずっと必要なものなんじゃないかと思います」と力説。

陸上自衛隊という一見恋愛とは距離がありそうな今作においても“ラブ”の要素を盛り込むあたりは、さすがの情熱を感じる。

白石麻衣(左)と町田啓太 (C)フジテレビ

○■“今見たい”と思わせるのがテレビの価値

30年という年月が経ち、最近はNetflixなど配信のドラマが勢いを増している。その中で、地上波の連ドラの役割というものは、どう感じているのか。

「配信は自分の時間で好きなときに楽しむものですが、赤の他人であっても全国でいろんな人が同じ時間に同じものを共有できるのがテレビだと思います。昔から、学校や職場で昨日のドラマの話題で盛り上がるというのが、アーカイブではないテレビの一番の醍醐味じゃないですか。“今見たい”と思わせるのがテレビの価値だと思いますので、今回も“これは後で見よう”とはならないドラマになればいいなと思います」

この問いに対して、『テッパチ!』企画のフジテレビ編成部・渡辺恒也氏は「大きな予算をかけてつくるドラマはNetflixにもありますが、今回のような今をときめくイケメンが勢ぞろいして、防衛省さんに大きく協力してもらってしっかりドラマが作れるというのは、なかなか他のメディアではできないのではないかと、作りながら感じています。そこは自信を持ってテレビドラマならではの豪華なものをお届けできるようにしたいと思っています」と強調している。

●栗原美和子

1964年生まれ、福岡県出身。早稲田大学卒業後、87年にフジテレビジョン入社。『オレたちひょうきん族』『笑っていいとも!』などのバラエティ番組を経て、92年にドラマ制作に異動し、『ピュア』『ドク』『バージンロード』『ムコ殿』『人にやさしく』『東京湾景』などをプロデュース。09年から共同テレビジョンに出向し、『結婚相手は抽選で』『リカ』(東海テレビ)、『ハル〜総合商社の女〜』(テレビ東京)などを担当。現在は共同テレビ執行役員第1制作部長ゼネラルプロデューサーを務め、『テッパチ!』を企画・プロデュースする。

●渡辺恒也

1982年生まれ、熊本県出身。東京大学卒業後、05年にフジテレビジョン入社。以来ドラマ制作セクションで『HERO』(第2シリーズ)、『救命病棟24時』(第5シリーズ)、『医龍 Team Medical Dragon3』『黒井戸殺し』『磯野家の人々〜20年後のサザエさん〜』『教場II』『死との約束』などをプロデュースし、編成企画として『サザエさん』『海月姫』『ストロベリーナイト・サーガ』『世にも奇妙な物語』『テッパチ!』などを担当する。