景気後退の影響を全く受けない企業はないが、そうした影響をあまり受けずに活動できる企業も存在する。しかし、広告分野での自動車業界は、それには該当しない。含まれていたら、自動車業界はもっと広告を流しているだろう。

インフレ懸念が大きくなり始めた2022年2月、米国でのリニア広告のインプレッションに対する自動車業界の広告主上位10社の支出が、前月と比べて激減した。TV関連のインサイトと分析を提供する企業、サンバTV(Samba TV)が追跡したデータによると、支出は5分の1近く(16%)減少したという。

2月以降、3〜5月に購入されたインプレッションは、いずれも70億回を下回った。2021年にインプレッションがこの数値を下回った月はなく、にもかかわらず自動車業界のマーケターは、2021年はひどい年だと考えていた。しかし、2022年の5月は、インプレッション総数が前年同月比で8%減少している。

マーケティングミックスの見直しを迫られる自動車業界



景気後退の脅威が迫り来るかなり前から苦闘していた業界にとって、見通しはおぼつかない。フォード(Ford)はすでに、特に新しい電気自動車について、広告のさらなる削減を予告している。年次レポートによると、2021年の広告支出は、テスラ(Tesla)がゼロなのに比べて、フォードは31億ドル(約4200億円)だった。景気後退を受け、自動車業界のマーケターは、マーケティングミックスの見直しを余儀なくされつつある。

「サプライチェーン問題や利上げにより、米国では自動車販売台数が落ち込んでおり、それが間接的に影響して、1年前の同時期と比べて、自動車メーカーの広告支出が全体的に減少している」と、サンバTVのシニアバイスプレジデント、ダラス・ローレンス氏は指摘する。

この点については、単純な答えはない。サプライチェーンの混乱が改善されても、記録的なインフレと世界経済のきしみによる需要低迷が、販売予測に暗い影を落としている。そうした売り上げ損失の埋め合わせに、自動車メーカーは、値上げや高級モデルへの生産のシフトで何とか利ざやをひねり出してきた。だが、消費者がインフレ対策をより広範に進めるなかで、この戦略には限界がある。

「ひどい年だった」2021年からさらに統制を強める



こうしたことすべてのバランスを取るため、自動車メーカーは、広告支出額のさらなる統制に努めている。その結果、メディア支出が減少するかもしれないが、2023年モデルを優先したり、電気自動車にスポットライトを当てたり、場合によっては、最も多くのリーチをもたらすTVでの全国広告に関心を向けたりといった具合に、戦略的に投資することにもなる。それにより、ローカル広告が打撃を受ける可能性もある。何と言っても、マーケティングに不可欠な部分を削減しようとしている自動車業界の広告主は、ほとんどいないのだから。

iSpot.TVのデータによると、5月には、ローカル広告が、自動車メーカーの広告主によって米国で購入されたTV広告のインプレッションのうち20.3%を占めていたという。1年前には23%だった割合が、2022年の1月以降はずっとこんな調子だった。月間で見ると、ローカル広告の割合は、前年同時期と比べて3〜6%減少している。

「全体的には、自動車のマーケティングは、現行ブランドの維持と新モデルの発売、地域レベルでのコンバージョンの誘導、デジタル体験の構築という4つの要因に依存している。スポーツイベントへの支出の継続に、その証拠が見て取れる。5月には、NBAの広告主上位20社のうち4社が自動車メーカーだった。フォードは、EV車の広告を控えているかもしれないが、販売代理店での体験には投資している」と、独立系検索コンサル企業R3のプレジデント、グレッグ・ポール氏は語る。

消費財メーカーには好ましい状況



それでは、景気後退により、広告主は財布のひもを締めざるを得ないのか? これは、質問する相手による。確かに、これまでの常識では、景気後退中は広告を減らすのではなく増やし、それを切り抜ける企業ほど強いと信じられていたが、今は市況が非常に奇妙になっている。もちろん、モノの値段はより高くなっているが、人々は購入を続ける。CEOは景気後退について警告するが、雇用や(少なくとも米国の)GDPなど、ほぼすべての指標が、好況を示している。

これは、消費財マーケターにとって好ましい状況だ。サンバTVによれば、2022年5月には、消費財メーカーの広告主上位10社のインプレッション総数が、前年同月比6%増だったという。実際、消費財については、インプレッションは、2021年とほぼ同じで、月によっては前年を上回っている。

「生活費の危機とサプライチェーンの費用増加(特に石油価格)は、生産コストの増加や個人消費の減少、信頼低下につながってきた。おそらく広告支出の低下の兆候でもある(または、あった)だろう」と、英国の放送局チャンネル4の元法務責任者で、現在は国際法律事務所リードスミス(Reed Smith LLP)のパートナーであるニック・スイマー氏は語る。「もうひとつの問題は、インフレとインフレ緩和策がどの程度機能するかだ。広告主は、そうした責任をエージェンシーに押しつけようとするだろう。だが、エージェンシーは、自分たちの仕事が戦略や計画の立案や実行であって、広告費の負担ではないと、広告主に思い出させるだろう」

時代の情勢



リニア広告のインプレッションに対する自動車業界の広告主上位10社の支出は、2〜5月に減少した。フォードは、広告支出を今後削減すると予告した。

米国の自動車メーカーの広告主によって購入されたTV広告のインプレッションに占めるローカル広告の割合は、1〜5月に低下した。

[原文:A downturn in media spend? It depends, automotive advertising is slowing, while CPG accelerates

Seb Joseph(翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、編集:猿渡さとみ)