戦争を題材としたゲームが現実の人間へ悪影響を与える可能性についてしばしば論じられることがありますが、一方で「ゲームはあくまでゲームである」として割り切られ、ゲームによって思考力や判断力が培われるなどゲームが利点となる可能性について論じられることもあります。ワシントン・ポストは、軍隊でも1つの文化として形成されつつあるゲームと軍隊の関係について紹介しています。

Inside the Pentagon’s long debate: Do gamers make good soldiers? - The Washington Post

https://www.washingtonpost.com/video-games/2022/06/10/military-gaming/

アメリカ陸軍・海兵隊・海軍・空軍・宇宙軍・沿岸警備隊のそれぞれのeスポーツチームが人気FPS「Halo Infinite」で競い合うというイベントが開催されました。

埋め込む:https://twitter.com/AirForceGaming/status/1530577190340943878

ゲームの様子はTwitchで配信され、50万人以上が7時間にわたる激闘を見守りました。

!bracket FORCECON 22 Armed Forces Halo Tournament from San Antonio, TX - Twitch

https://www.twitch.tv/videos/1311430410

長年、軍隊にとってゲームは「単なる個人の趣味の1つ」という見方をされてきましたが、近年ではゲームが軍の戦闘力を高め、維持し、戦力を増やすための手段として戦略的に取り扱われています。軍の各部門には専用のeスポーツチームが新設され、軍がゲームイベントのスポンサーとなることも増えているほか、専用の公式Discordチャンネルを作成し、軍人と一般市民が「Call of Duty」や「Halo」などについて語れるような環境が築かれているとのこと。



軍とゲームの関係には長い歴史があります。2000年代初頭、国防総省は「America's Army」というFPSの制作に多額を注ぎ込み、人々が兵士になったつもりで任務を遂行したり、軍隊生活の他の側面を垣間見ることができるようにしました。このゲームはヒット作となり、何百万人もの人がプレイ。2008年にマサチューセッツ工科大学が行った調査では、「16歳から24歳のアメリカ人の約30%が、このゲームのおかげで軍隊に対してより好意的になった」という結果が出ています。

しかし、「Call of Duty」や「メダル・オブ・オナー」といった他のミリタリー系シューティングゲームの品質が格段に向上するにつれ、「America's Army」の人気は下降線をたどりました。オンラインゲームの台頭により軍関係者はより新鮮なアプローチが必要であることを認識したため、Twitchを使うなどして多くの観客と交流し、軍隊生活を宣伝し始めたとワシントン・ポストは述べています。



軍のゲームに対する希望は明るく、海軍研究局は「FPSをプレイすることで、実際に優れた戦闘員が生まれる可能性がある」という研究結果を発表するなど、ゲームを有効に活用できる可能性が示されています。また、空軍兵士3万5000人を対象にした調査で「18歳から34歳の86%以上がゲーマーである」という結果が示されたこともあり、空軍士官でゲーミングチーム「Air Force Gaming」の創設者であるオリバー・パーソンズ少佐は「ゲームの取り組みがより正式なものになることで、部隊に利益がもたらされる」と考えを述べています。

しかし、一部の指導者はゲームに懐疑的で、新兵を弱体化させ、基礎訓練から脱落させてしまうと主張しています。アメリカ陸軍フォート・レオナード・ウッド基地の医療準備部長であるジョン・マルク・ティボドー陸軍少佐は「ビデオゲームこそが、若い新兵が軍隊に適さない身体である理由です」と言い放ち、「『任天堂世代』の兵士の骨格は、入隊前の活動によって強靭になることはありません」と主張しました。さらに、ゲームの専門家や議員は、軍がゲームチャンネルやインフルエンサーを使って若者をさりげなく軍に勧誘しているとして激しく批判しています。

また、軍外部からも、軍がゲームに紐付けた宣伝活動を広げていることに批判的な意見があります。コンサルタントであるロッド・ブレスラウ氏も軍がeスポーツやゲームに関わっていることを不安視する1人で、Twitchで軍隊や戦争に関するイメージ形成をしてきたことを追跡してきました。これを受ける形で、民主党のアレクサンドリア・オカシオ・コルテス議員が2020年にTwitchを利用した軍への勧誘を禁止する法案も提出しましたが、当該法案は却下されています。

コルテス議員は「戦争はゲームではありません」「Twitchは徴兵規則が適用されるよりはるかに若い年代に人気の配信プラットフォームです」「軍務とFPSゲームを混同してはいけません」とツイート。





ブレスラウ氏は、アメリカ政府がゲームのスポンサーシップや配信、その他すべてのツールを軍の求人目的で利用しており、「すでに最終段階にあることを認識する必要があります」と警鐘を鳴らしています。