夫に浮気をされても離婚しない妻たちには、どんな理由があるのか。夫婦問題研究家の岡野あつこさんは「夫のことは許せないが離婚はしないという妻たちの背景を探ると、4つのキーワードが見えてくる」という――。
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■「今すぐ離婚はしない」という妻たちの事情

もしも、自分の夫が浮気や不倫をしていることを知ったら、あなたはどのような選択をするだろうか。

※本稿では、短期的な関係を「浮気」、長期的な関係を「不倫」とします。

妻からの相談の場合、その多くは「夫のことは許せない。すぐに離婚する方向で話を進める」あるいは「夫を許し、夫婦関係を修復する」という二択で考える傾向が見られる。ところが、なかには「白か黒か」で決着をつけない妻もいる。「夫のことは許さない。でも、今すぐ離婚はしない」という第三の道を歩もうとするケースだ。

「夫のことは許さない。でも、今すぐ離婚はしない」という決断をする妻たちの背景を探ると、「お金」「子供」「プライド」「夫への愛」という4つのキーワードが見えてくる。

たとえば、こんなケースがある。

※プライバシーに考慮して、事実関係の一部を変更しています。あらかじめご了承ください。

■仕事を探してもアルバイトしかない

【CASE1】「自分の収入だけで生きていくのは不安」というケース

「本音は今すぐ別れたい。でも現実として、今の私の収入だけで子供と3人で暮らしていくには無理がある」と語るT子さん(40歳)は、短大卒業後に地元の同級生と結婚。実家の事業を継いだ夫と義両親が建ててくれた一戸建てに2人の子供と住んでいる。

夫の浮気に気づいたのは1年前。コロナ禍でリモートワークが増えたはずの夫の、度重なる休日の外出や不自然な出張を問い詰めたところ、本人があっさり浮気を認めたとのこと。「キャバクラで知り合った20代のお店の女の子に入れあげていたことがわかり、怒りより『コロナで大変な時期なのに……』という脱力感と嫌悪感でいっぱいになった」とT子さん。20年近くになる結婚生活でたまっていた夫への不満もここに来て一気に爆発。夫との離婚を考えるようになったという。

T子さんが今も離婚をとどまるのは「経済的な理由」だった。「社会人経験もなく専業主婦として家庭に入った私には、これまで自分で自由に使えるお金や時間はゼロ。夫の浮気が発覚した後、自立を考えて仕事を見つけようとしたが、私が希望する条件で採用してもらえたのは近所にできた回転寿司のバイトのみだった」。コツコツ働いて貯金が貯まるまで、「離婚したくてもできない」というのが現実だ。

「感情的には夫を許すことができないものの、今の生活を続けるためには仕方がない」と嘆くTさんだった。

■子育てで苦労しているなか、夫が4年間の不倫

【CASE2】「子供が成人したら別れたい」を実現したケース

「夫は、まさか私が本気だとは思っていなかったようで、離婚届を手渡した瞬間の驚いた顔が忘れられない」と笑顔で話すY美さん(48歳)は、先日、6歳年上の夫と離婚したばかり。離婚の理由は、「夫の過去の浮気」だ。

さかのぼること20年前、28歳のY美さんが初めての子育てに奮闘している真っただ中に、夫が同じ職場で働く女性と4年間にわたり、不倫関係を続けていたことが発覚したという。「もちろん、私たちの結婚前から続いていた不倫関係にもショックを受けた。でも、もっと許せなかったのは、ワンオペで子育てをしている私の姿を毎日見ていながら手を貸そうとせず、自分は好き勝手に不倫を楽しんでいたことだった。一番大変な時期に、夫に傷つけられた」と今でも怒りを隠せない。

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不倫が発覚し、「子供が成人したら別れたい」と告げたY美さんに対し、当時の夫は了承したとのこと。そこからY美さんは子供の教育に注力し、小学校から私立に進学させ、いわゆる一流大学に入学させた後、子供が20歳になるのを待って、かつての宣言どおり夫に離婚届を渡したのだ。

「あのとき私がすぐに離婚をしなかったのは、100%子供のためだけ。幼い子供から父親を奪う権利は私にはないと思ったから。もちろん、いい学校に入れるだけが親の役目ではないとわかってはいたが、子供の希望どおりの道に進ませることができ、無事に成人したことで、私自身に重くのしかかっていた肩の荷を下ろすことができた。あとは、自分の好きなように生きたいし、子供も賛成してくれている」

■夫の身勝手な言い分への怒りで、「離婚しない」と決意

【CASE3】「自分だけ幸せになるのは許せない」というケース

「自分の浮気を打ち明けたとき、夫は私が『別れたい』と言い出すことを期待していたはず。でも、だからこそ『今はまだ離婚しない』と決めた」とはM奈さん(36歳)。

5歳年下の夫と結婚生活6年目を迎えるM奈さんは、子供ができないことに焦っていた時期に夫の不倫を聞かされた。不倫相手の女性は、M奈さんより10歳も若いことにもショックを受けたという。

当初は「もう別れるしかないかも」とあきらめていたM奈さんだが、「人生を仕切り直したい。M奈にも幸せになってほしい」という夫の身勝手な言い分を聞いているうちに、だんだん気が変わっていったという。「今ここで夫と別れたら、夫は不倫相手と再婚して子供をつくるに違いない。まだ妻の私にとって、それだけは許せないことだった」

以降、夫婦関係は急速に冷え込んでいったとのこと。妻は夫から繰り返し離婚を切り出されても徹底的に拒み続け、そんな妻のかたくなな態度に夫の気持ちはますます不倫相手に傾いていっているようで、夫婦は自宅で顔を合わせても会話もなければ目も合わせない状態になっていった。

最近になってM奈さんは、夫とは離婚しない気持ちをさらに固めたとのこと。「『私は女として、不倫相手に負けた』と思ったら、猛烈に腹が立って仕方ない。夫からどう思われようと、そんなの絶対に認めたくない」と妻のプライドをのぞかせている。

■「愛の力で夫を生まれ変わらせる」

【CASE4】「悪いのは全部女のほう」と思い込むケース

Fさん(29歳)の1歳年上の夫は、2年という結婚生活の間に3回も浮気騒動を起こしているなかなかのつわもの。夫の浮気が発覚するたび、Fさんは親や友人から「子供のいないうちに別れたほうがいい」「離婚してもまだ十分やり直せる」などと諭され、Fさん自身も離婚を考えることもあったという。

Fさんいわく「夫は脇が甘い。だから、いつも女性から狙われているし、誘われるとノーとはいえないようだ」と夫のことを分析。その結果、3回も浮気をされても、「結局は夫に対してまだ愛情があるので、別れられない」と思ってしまうとのこと。浮気が発覚しても、その瞬間は夫に対する怒りの感情があるものの、次第に「ひょっとして、ウチの夫はだまされただけなのでは? 悪いのは全部、浮気相手の女のほうに違いない」などと、怒りの矛先が浮気相手の女性に向かうのだった。

最近になって4回目の浮気疑惑が持ち上がったときは、とうとう離婚相談で私の元に訪れたFさん。ところが、話を聞いているうちに「妻として私の責任もある。愛の力で夫を生まれ変わらせるので、もう一度チャンスを与えようと思う」と離婚を思い直して帰っていった。

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■「夫は許せない、でも……」

「夫とは今すぐ離婚はしない」という妻が考える理由には、大きく分けて「お金」「子供」「プライド」「夫への愛」の4つが存在する。いずれも、「夫のことは感情的には許せない」という事実があるうえで、「でも、生活をしていくためにはお金がかかる」「でも、子供のためには父親が必要だ」「でも、妻として譲れないプライドがある」「でも、夫への愛情あるいは愛着はまだ消えていない」というそれぞれの思いがある。

たしかに、離婚で失うものは小さくない。「今ここで別れるより、我慢して結婚生活を続けていたほうが得策だろう」と考えられるなら、離婚は先送りにしたほうがいいともいえる。

後悔しない選択をするためには、「夫はこの先も変わらないだろう」「また夫に裏切られるかもしれない」と、相手を軸にして考えるより、「その結果、自分は幸せになれるだろうか」「自分らしく生きていくために自立すべきタイミングは今か」などと自分が主導権を握って考えることも必要だろう。

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岡野 あつこ(おかの・あつこ)
夫婦問題研究家
NPO日本家族問題相談連盟理事長。株式会社カラットクラブ代表取締役立命館大学産業社会学部卒業、立教大学大学院 21世紀社会デザイン研究科修了。自らの離婚経験を生かし、離婚カウンセリングという前人未踏の分野を確立。これまでに25年間、3万件以上の相談を受ける。『最新 離婚の準備・手続きと進め方のすべて』(日本文芸社)『再婚で幸せになった人たちから学ぶ37のこと』(ごきげんビジネス出版)『離婚カウンセラーになる方法』(ごきげんビジネス出版)など著書多数。
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(夫婦問題研究家 岡野 あつこ)