ウクライナ危機は終わっていない。だが株価の流れは明らかに変わりつつある。国境近くのポーランドの教会で(写真:ロイター/アフロ)

先週末(3月18日)のNYダウ工業株30種平均は前日比274ドル高の3万4754ドルと、5日続伸で終了した。結局、5日間すべてプラスとなり、11日(その前の週末)の3万2944ドルからは1810ドルもの大幅上昇となった。

日経平均株価もNYダウに連動して上昇した。14日の同145円高に始まり、16日の同415円高、17日の同890円高を含む5連騰で、18日の引け値は2万6827円となった。しばらく抜けないとみられていた25日移動平均線をあっさり抜いて2%の上方乖離となり、11日の2万5162円からは1664円高、昨年来安値の9日の引け値2万4717円からは2110円高となった。

急上昇の理由は何だったのか

この上昇の背景はいくつかある。

まず、日本市場を覆う「3つのリスク」のうち、2つに不透明感払拭の動きが出たことだ。ウクライナ戦争の結末はまだ見えないが、残りの2つである「アメリカの利上げ」は開始され、QT(量的引き締め)の今後のスケジュールも見えた。また「まん延防止等重点措置」は21日で解除となり、ウィズコロナ経済がスタートする。

そのほか、需給面では信用取引の「期日明け」も大きい。周知のごとく日経平均が3万0670円で31年ぶりの高値となったのは昨年9月14日だが、このときの信用取引の売りが出る「6カ月期日」が3月中旬に到来した。

さらに、日本の投資家に暗い影を落としていた中国経済に関しては、同国株の下落が終わったと思える動きを見せたことも大きい。なにしろ、関連する香港のハンセン指数は昨年2月17日の3万1084ポイントから今年3月15日の1万8415ポイントまで、なんと40%を超す下げとなっていた。

だが、ようやく深刻な状況に気づいたのか、中国国務院(政府)の金融安定発展委員会が「市場に有利な政策を積極的に打ち出す」と明確な方針を示したことで、ハンセン指数は16日に前日比9%、17日に同7%を超す大幅な上げとなった。本欄でも何度か取り上げたが、「12%の法則」で見ると、明確な「底入れ」となった。

黒田総裁の会見もプラス材料に

アメリカの金融当局は利上げを決定したが、一方、18日の日本銀行金融政策決定会合では大規模緩和策の維持が決まった。短期の政策金利0.1%、長期ではゼロ%に誘導するイールドカーブ・コントロール方針の据え置き。国債については上限を設けず、ETF(上場投資信託)は12兆円、REIT(不動産投資信託)も1800億円を上限に、必要に応じて買い入れる。

また、コマーシャルペーパーと社債の買い入れは、3月末まで合計残高上限20兆円、4月以降はコロナ前の水準に徐々に戻す方針だ。

国内景気の判断も、現状認識こそ「基調として持ち直している」と、前回の「持ち直しが明確化している」から下方修正したものの、輸出は「基調としては増加を続けている」、設備投資は「持ち直している」、海外経済は「総じて見れば回復している」、企業収益は「全体として改善を続けている」と前向きな見方だった。

多いときには100人を超えていた黒田東彦総裁の記者会見は、今はコロナ対策ということもあり、20人足らずが出ているにすぎない。そのせいなのだろうか、答えるほうの黒田総裁にも少し元気がなかった感じもした。

だが、発言そのものは信頼に足る「軸のブレない会見」だったと思う。この黒田発言によって円安が定着し、株式市場の下支えになったと認識する。

さらに、日本市場を支配していると言っても過言ではない外国人投資家の動向についても、3月第2週の対内証券売買契約(財務省ベース外国人投資家)は1兆0504億円、東証の投資部門別売買状況外国人で見ても9935億円の大量売り越しとなった。

これらでもわかるように、このところの外国人売りはすさまじかった。だが、市場筋によると、おそらく第3週(14〜18日)は買い転換したようだ。

大発会2万9301円でスタートした今年の日経平均は、上記でも触れたとおり、3月9日には2万4717円にまで下落。市場は一時、弱気一色となった。

この時点での日経平均の移動平均乖離率は、一番近い25日移動平均線ですら、下方乖離率がなんと7.5%に達していた。25日移動平均線の上に位置する次の75日移動平均線では11.2%、さらにその上の200日移動平均線は12.9%となり、それらの3つの合計である「総合乖離」は−31.6%となった。

これもつねに指摘しているが、移動平均は言わば平均売買コストでもあり、これだけ下方乖離ができてしまうことは、すべての買い方に大きな評価損が出ていることを意味する。投資家の多くが絶望的になったことは、容易に想像できる。

この下げの需給的要因がウクライナ危機による「リスクオフ」での外国人投資家の売りだったことは、前述のとおりだ。だが、絶望が市場を覆っている中で、このところの急激な上昇によって3月中に一気に乖離を埋める可能性が出てこようとは、いったい誰が想像しただろうか。

明らかに流れが変わってきた

18日現在、25日移動平均線に対してはすでに7.5%の下方乖離を埋めて、逆に2%を超す「上方乖離」に転換している。同日のシカゴの日経平均先物(6月限円建て)の終値は2万7110円で帰ってきた。

配当落ちの240円(予想)分を加えると、実質2万7350円程度となり、3連休明けの22日以降には75日移動平均(推定値2万7400円台)や、200日移動平均(推定値2万8200円台)への挑戦が期待される。明らかに流れが変わったといえるのではないか。

さて、今週の市場は、もちろんウクライナ情勢が波乱要因である。だが、筆者は24日の仏・独・ユーロ圏・英・そしてアメリカの順で発表される3月のPMI(購買担当者景気指数)速報値に注目している。欧州経済を担う現場の購買担当者がウクライナ戦争の影響をどう考えているかをしっかり見たい。 

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(平野 憲一 : ケイ・アセット代表、マーケットアナリスト)