南国・土佐で行われた国内女子ツアー2022年の2戦目「明治安田生命レディス ヨコハマタイヤゴルフトーナメント」はサイ・ペイイン(台湾)の悲願の初優勝で幕を閉じた。なぜこれまでずっと勝つことができなかった30歳は、例年とは異なるスコアの伸ばしあいを制することができたのか。上田桃子らを指導し、今大会では松森彩夏のキャディを務めた辻村明志コーチが分析する。
■例年よりも“2つの難しさ”がなくなり、スコアの伸ばしあいとなった
今大会と言えば例年ロースコアの戦いとなり、それもあってプレーオフとなることが多かった。だが、今年は一転優勝スコアはトータル13アンダー、2位タイに入った4人がトータル12アンダーとコースレコードとなった伸ばしあいに。その理由を辻村氏はいつもあるはずのものが2つなかったからだという。
「この大会の難しさは左右のドッグレッグ、打ち上げ打ち下ろしとバリエーションに富んだホールロケーション、ぐるぐる回る強い風、そして春先の寒さです。ですが、例年よりも早く春が来たことで風もなく、毎日20度と過ごしやすい気候となりました。そのため、バーディ合戦となったのです」
難しい印象の強い土佐カントリークラブだが、総距離6228ヤードはシーズンでも最短クラス。「今は女子ツアーでも170〜80ヤードのパー3が珍しくなくなりましたが、ここはピンまで150ヤードが多い。パー5はもちろん、パー4でもショートアイアンで打って行けるホールが多い。そしてパニックを起こすほどどちらに吹いているか分からない強い風もない。そのためいろいろな選手にチャンスがきました」。グリーンも仕上がっており、ちゃんと打てる人にはご褒美が来る。そんなセッティングもレコード優勝を後押しした。
■サイ・ペイインの真似したいボディターンと腕の振り
誰にでもチャンスがあるなかで優勝したのがサイ。昨シーズンのドライビングディスタンスは58位と飛距離の出るほうではないが安定したショットで栄冠を手にした。辻村氏はそのスイングに称賛を送る。
「サイさんは“お手本になる”スイングと言える選手です。すごくスイングバランスがいい。その理由は2つ。まずは上下動のないシンプルで平行なボディターン。そして体の正面からクラブが外れることなく動く力感のない腕の振りです」
是非ともアマチュアの人は参考にして欲しいという。「仕事柄“どのプロを真似したらいいですか?”と聞かれることがあるのですが、その際にサイさんの名前を挙げることは少なくなりません。プロゴルファーはアマチュアの皆さんには真似できないところがある選手が多いですが、サイさんは“真似できる”。36ホール回っても疲れないのかなと思えるほどの力感はすぐにでも取り入れてみてほしいです」と特に力の加減を見習いたい。
■今大会でも2位 絶好調・西郷真央の“変えない”強さ
そのサイにわずか1打届かなかったが、開幕戦を制した西郷真央は今大会でも2位タイに入るなど絶好調。その要因を辻村氏は“変えなかったこと”に見ている。
「西郷さんはこのオフに大きな変更をしていません。昨年勝てなかったにも関わらず、です。シーズンオフにはスイングをビックチェンジしてくる選手が多いなか、西郷さんは昨年のスイングに磨きをかけてきた感じがします。実は変えないことにも勇気は必要。どっちがいい悪いではなく、スタイルを変えずに力を磨いてきたからこそロケットスタートを切れていると言っていいでしょう。愚直に同じことを続けれる強さですね。3月中にもう一つ勝つのではないか。そんな予感をさせてくれます」
解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、松森彩夏、吉田優利などを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。
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