正月の恒例行事「箱根駅伝」では、ランナー達の走りに釘付けになりますが、唯一ランナーを阻む箱根の小涌谷踏切では、鉄道係員の動静にも注目です。ここでは電車を適切なタイミングで止める必要があるからです。

電車が「一旦停止」

 毎年1月2日、3日に開催される箱根駅伝は、正月の恒例行事ともいえるスポーツイベントとして親しまれています。往路は東京・大手町の読売新聞ビルがスタート地点、神奈川県・箱根の芦ノ湖がゴール地点に設定されています。往路の最終区間となる5区は、急峻な箱根の山を登ることから毎回のように劇的なドラマが生まれます。


箱根登山鉄道の小涌谷踏切には、ランナーが接近する前から多くの観客が待ち構える(小川裕夫撮影)。

 その5区には、箱根登山鉄道と道路が交差する地点があります。そこには当然ながら踏切が設置されています。小涌谷踏切です。

 通常の踏切なら鉄道の通行が優先されます。それは、箱根登山鉄道でも変わりません。しかし箱根駅伝が開催される時間帯だけは、電車が小涌谷踏切に接近してもすぐに通過せず、競技を邪魔しないように踏切の直前で一旦停車。安全確認の後、ゆっくりと通過していきます。仮に踏切でランナーを足止めさせてしまえば、競技に影響を及ぼしてしまうからです。

 駅伝期間中は、沿線のアジサイが見頃になる6月以上に多くの乗客や観客でにぎわいます。そのため麓にある箱根湯本駅のみならず、各駅で係員を増やすほか、もちろん小涌谷踏切にも配置します。踏切脇の係員は各所と連絡を取り合って、踏切の開閉や電車の進行・停車を指示するのです。

かつては蒲田でも見られた光景

 係員の動静を観察してみます。復路の場合はスタートしてすぐに踏切を通過するため、時間も読みやすいです。一方の往路は先頭と最後尾でランナーが大きく離れるうえ、ランナーの“駆け引き”により踏切通過時刻はまちまちなので、係員は常に気を配ります。


東洋大学の柏原竜二選手。1年生の時から5区を任されて新記録を樹立。「山の神」と呼ばれた(2010年1月、小川裕夫撮影)。

 先頭のランナーが小涌谷踏切へと近づいてきたら電車を止めますが、最後尾が通過するまでずっと電車を待たせることはできません。電車もスムーズに運行させるべく、ランナーの間隙を縫い通過させているのです。

 係員が判断ミスをすれば大会に大きな支障が出てしまいます。踏切脇に立つ係員の責任は重大で、熟練の判断が要求されるといえそうです。

 箱根駅伝で名所となる踏切は、かつては小涌谷のほかにも京急蒲田駅(東京都大田区)の近くにもありました。こちらも駅伝開催時には小涌谷踏切と同様の措置がとられていましたが、線路が高架化されたことで踏切は廃止。現在、小涌谷踏切のような光景は見られません。