2021年は、いままでの旅客機の概念を覆すような斬新な設計案が世界中で発表されました。どのようなものがあったのでしょうか。また、これらには共通するアピールポイントも。斬新設計もそれゆえでした。

翼が3対? "使徒"みたいなデザイン

 2021年、世界ではさまざまな新型旅客機の案が多くの企業で発表されました。ただ今年はとくに企業側が「破壊的(disruptive)な設計(design)」と称するような、いままでの旅客機の概念を覆す斬新な設計案が次々と世に出た年といえたでしょう。そしてこれらには、とある共通点がありました。


SE Aeronauticsが計画する「SE200」のイメージ(画像:SE Aeronautics)。

●翼が3対? "使徒"みたいなデザイン

 アメリカのスタートアップ企業「SE Aeronautics」が2021年3月、「破壊的設計」をうたう、最大264人乗りの新型旅客機プラン「SE200」のコンセプトを発表しました。同機は、主翼に相当する大きな翼が、胴体前、中、後部に3対備わるのです。

 SE Aeronauticsによるとこの翼構成は、「効率的で軽量な翼構成」で、「短距離離着陸(STOL)機能と長距離飛行で高い効率を発揮する」設計とのこと。なお、カタログスペック上の航続距離は、地球半周分(約2万km)にほぼ相当する、1万500ノーティカルマイル(約1万9400km)。新設計の採用で、1席あたりの燃料消費量が従来機より約70%削減され、二酸化炭素排出量が約80%削減できるそうで、「エコな旅客機」をうたっています。

破壊的設計はまだまだ!

●翼が「胴体を囲む枠」みたいな旅客機案

 欧州のエンジニアリング・コンサルティング会社のAKKAテクノロジーが2021年10月、こちらもまた「破壊的設計(disruptive design)」を特徴とする旅客機案、「グリーン&フライ(Green&Fly)」を発表しました。

 同機は、胴体の前後に1対ずつ配置された主翼に相当する大きな翼の先端部がつながり、上から見れば、一つの大きな菱形の枠が胴体に載っているような形をしています。これは現行のものと比較し、翼の先端で発生する乱流が少なく、抗力を大幅に低減できるとのことです。さらに同機は100%電気と水素を動力源とし、「エコな旅客機」をアピール。独自の翼形状も、エコ実現への一環と見られます。


エンブラエル「ENERGIA」案のイメージ(画像:エンブラエル)。

●大手メーカーでも進む”異形機計画”

 国内の航空会社でも導入実績をもつブラジルの航空機メーカー、エンブラエルが2021年11月に打ち出したのは、4タイプの新型航空機開発プロジェクト「ENERGIA」です。いずれも二酸化炭素排出量の削減、そして革新的な設計が掲げられています。

 4タイプの共通点は、プロペラ駆動のエンジンが胴体最後部に備わる「リアエンジン機」であることです。ジェット機などでは一般的ではあるものの、プロペラ機の場合、まず見られない仕様です。これは客室とエンジンの距離を取ることで、快適性の向上を図る狙いがあると見られます。また4機それぞれで水素電池や電気駆動などを活用するとしており、「エコな旅客機」であることをアピールしています。

「計画進行中」の機体にも異形機ぞくぞく

 このほか以前から発表されていた、アメリカに本拠を構えるスタートアップ企業、ライト・エレクトリック(WrightElectric)社のゼロ・エミッション旅客機「ライト1」、イギリスのスタートアップEAG(Electric Aviation Group)社が「世界初の70席以上のハイブリッド電気旅客機」を掲げ開発する「HERA」なども、計画が進行しています。ちなみにこの2機、現代の旅客機ではスタンダードなパーツである垂直尾翼が、胴体最後部には見られません。

 12月にはイギリスATI(Aerospace Technology Institute、航空宇宙技術研究所)が、「ぽっこりお腹」のように胴体下部が膨らんだ水素旅客機「FlyZero」を発表しました。


EAGが開発を進めている「HERA」(画像:Electric Aviation Group)。

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 2021年には、このように、既存の概念を覆すような旅客機案が打ち出されましたが、これらはすべて「環境に優しい」というのをセールスポイントとして掲げているのが共通点です。

 航空業界では二酸化炭素排出量を実質ゼロとする「ゼロエミッション」を目指しており、先出の旅客機案たちもこれを意識したものと見られます。2022年も予想を覆す胴体形状を採用することで、環境性能の向上を図る、新たな旅客機案が誕生するかもしれません。