トヨタはなぜワンタッチウインカーを採用してこなかったのか…3秒ルールを守るのはトヨタだけ?

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■国内メーカーとしては最後だった

ちょっと旧聞に属するが、トヨタは国内で一社だけ乗り遅れていた便利機能の採用を、ヤリスからようやく始めた(OEMを除く、トヨタ製として)。

ウインカーレバーを軽く動かすと数回だけ点滅する、通称ワンタッチウインカー。ウインカーレバーを戻す手間がなく、戻し忘れも防ぐことができるため、車線変更などで使っている人も多いと思う。

欧州車ではかなり前から当たり前の装備になり、国内メーカーにも採用が広がった。今では軽乗用車にも付いている。ところが、トヨタだけはプレミアムブランドのレクサスでも、国内仕様にワンタッチウインカーを採用してこなかった。事実、アフター用品ではトヨタ車をワンタッチウインカーにできる後付けキットが販売されている。ナゼか!?

理由はご存じの方も多いはず。日本の道路交通法との関係だ。

該当するのは、①道交法第53条第1項、および②道交法施行令第21条。要約すると、①車両のドライバーが進路を変えるときには方向指示器、つまりウインカーで合図を出し、進路変更が終わるまでそれを継続しなければならない。②同一方向に進行しながら進路を変えるとき、つまりレーンチェンジにおいて方向指示器で合図を出す時期は、進路変更を始める3秒前。――と定められている。いわゆる「3秒ルール」だ。

一方、欧州車から日本車に広まったワンタッチウインカーは、基本的に3回点滅して消灯する。この点滅の継続時間が国内の法令に照らしてどうなのか!? というのが、これまで折に触れてトヨタ関係者から得た見解だった。

■3秒ルールを守るため?トヨタはひらめいた!

しかし、ほかの国内外メーカーはワンタッチウインカーを当たり前に採用している。全メーカーが同じルールでクルマを開発・販売しているはずなのに、これはトヨタの忖度なのか。もうずいぶん前のことだが、トヨタ関係者が国交省だか警察庁だかの担当者から「トヨタさんはやらないですよねぇ」と釘を刺された、というマコトシヤカな話を同業者から耳にしたことがある。

個人的には、トヨタ関係者と次のようなやりとりをしたことが印象深い。
筆者「ワンタッチウインカー付けてよ~」
開発者A「(点滅が)3回だとね~」
筆者「短い?」
開発者A「ちょっとね~」
開発者B「そうだ!」
筆者「何?」
開発者B「4回にすればいいじゃん」
(一同笑)

だから、国内向けヤリスに初めて乗ったときにはビックリした。突然ワンタッチウインカーが付いたことにも驚いたが、点滅がさらに1回多い5回だったのだ。

ちなみに、筆者の2003年式のマイカーには当然付いていないが、各メーカーの広報車に乗ったときにはそれを使うのが習性になっている。トヨタ車で車線変更をするとき、ワンタッチウインカーが付いていないことを忘れて点滅が1回で終わってしまうとイラッとするのが、これまでの常だった。

それにしても、5回の点滅は意外である。3回に慣れていると、2回多いのは長~く感じる。トヨタのことだから、継続時間に余裕をもって5回にしたのだろうか。ただ、高速道路で急がずスムーズに車線変更をするには、3回では少し短いという声もこれまでにあった。


■ホントに3秒以上点滅してる? 実際に計測してみた
ということで、ヤリス クロスのワンタッチウインカーの点滅継続時間を、ストップウオッチで手動計測してみた。すると・・・。5回の点滅継続でも3秒ちょっと。何度か測ってみたが、タイムはだいたいこれくらい。カップ麺の3分を待つのと同じように、ウインカーの3秒間はけっこう長いのだ。

となると、業界スタンダードになっている3回は?

そこで、ほかの国内メーカーのクルマを無作為に計測してみると、メーカーや車種に関わらず、3秒どころか2秒あるかないか。1点滅=1秒では全然なく、3秒ルールに対してはやはり短いのだ。

■厳密に法令遵守となるとまだ足りない?

しかし、法令を厳格に遵守するとなると、ヤリスの5回点滅でも足りないおそれがある。前述のとおり、ウインカーは進路変更を始める3秒前から出さなければならない。だが、3秒たってステアリング操作を始めるときには、そこで消灯してしまうことになるからだ。しかも、合図は進路変更が終了するまで継続しなければならない。滑らかな操作で法令どおりに車線変更を行うには、さらに倍、つまり10回くらいの点滅維持が必要かもしれない。

かといって、もしワンタッチで本当に10回点滅させるとなると、業界スタンダードの3回と差が大きすぎる。そこで、実際の使われ方とのバランスをとって5回、というところか。機会があれば開発担当者に真相を聞いてみたいが、トヨタらしい落としどころではある。

〈文=戸田治宏〉