首都高ルーレット族を狙った最終兵器? 光電式の「人力オービス」とは

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■ルーレット族に対する新たな取り締まり方法を考案

「最強の移動式オービス登場か?レーザーもレーダーも出さない光電管を用いた移動式オービス 光電管とカメラにより探知は不可能!」とは2020年9月25日、有限会社パソヤ(https://www.atpress.ne.jp/news/227615)のプレスリリースだ。「新たにレーザーもレーダーも出さない光電管を用いた移動式オービスが目撃されました」とある。

私は同年10月27日、「むむ?光電管式の移動式オービスの目撃情報をマニアックに検討してみたら…」との記事を書いた(https://driver-web.jp/articles/detail/38278)。要するに、「光電管式の移動式オービス」は首をかしげざるをえないが、しかし「380」という数字が気になる。速度取り締まりの業界で380といえば、日本無線の光電式測定機、JEM-380だ。どういうこと? 「結局はよくわからない」が私の結論だった。 ※ネットでは多くの方が光電式を光電管式と、可搬式を移動式と呼ぶようだ。

【画像】対ルーレット族の新たな取り締まり方法

そうして2021年8月末、がーん、真相が判明した! こう見えて私もいろいろ忙しく、ここにこうして書くのが遅れた。申し訳ない。

私の愛読誌『月刊交通』(東京法令出版)の2021年8月号に、長いタイトルの記事を見つけた。「『東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会』の開催を見据えた首都高速道路におけるルーレット族総合対策の推進」である。書き手は警視庁交通部交通執行係の暴走族対策室暴走族対策係だ。

まず、「ルーレット族とは」としてこう書かれていた。

「主に首都高速の都心環状線を過度の高速度で反復周回し、そのタイムや走行時の運転技術を競い合う者たちの総称であり、首都高速から出なければ料金が加算されない首都高速の料金システムに乗じて、パーキングエリア(以下「PA」という。)等でのい集や周回走行を繰り返し、深夜から早朝まで高速道路上に留まっている者たちである。」

毎年の「交通安全白書」では、取り締まりは悪質・危険・迷惑性の高い違反に重点をおくことになっている。ルーレット族こそまさにそれではないか。2021年9月27日、テレビ朝日も「大迷惑!深夜に爆音&暴走…首都高“ルーレット族”」と報じた(https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000230078.html)。だが、取り締まるのはなかなか大変なのだそうだ。月刊交通8月号の記事にこうある。

「ルーレット族は、固定式オービスの設置場所を熟知しているほか、SNSによりリアルタイムで拡散された可搬式オービスの設置情報を入手して、警察による摘発を逃れていた。また、違反行為を現認しても、過度の高速度で走行する車両を安全に停止させることが難しく、その取締りは困難を極めた。」


■固定式とも可搬式とも違う…人を使って「神出鬼没」

そこで警視庁は考えた!

「秘匿性の高い取締方法の検討を行い、実証実験や検察庁との協議を重ね、定置式(JRC)による速度測定を行うと同時に、道路外に設置したハイスピードカメラにより違反車両の秘匿撮影(赤外線撮影)を行い、違反車両を特定するという取締方法を考案した。」

「定置式」とは、いわゆるネズミ捕りを意味する。「JRC」は日本無線だ!

月刊交通8月号には「道路外」での撮影シーンが小さく載っている。「ハイスピードカメラ」を載せたらしい三脚が2台写り、少なくとも5人の人物が見える。全員マスク着用。場所は「万年橋」という跨道橋(こどうきょう)だそうだ。上記パソヤの記事の写真に「築地川銀座公園の機材があった場所」として楕円の囲みがある。ずばりその場所で「秘匿撮影」を行ったのかも!

「令和2年(※2020年)8月28日から、この方法による取締りを3回実施して、速度超過の違反者としてルーレット族25名(38件)を検挙したほか…」

上記テレ朝ニュースに「取材班が一周するのに15分かかった環状線を、わずか8分ほどで走り抜けていきます」とある。ひと晩に2回も3回も捕まった者もいたんだろうねえ。

「…令和3年(※2021年)6月現在、残る18名(21件)の追跡・裏付捜査を推進している。SNS上では『もう首都高では走れない。どこでやられるか分からない』などとルーレット族の間でも話題となったほか、一部週刊誌に掲載されるなど大きな反響があった。」

オービスではないが、現場では測定&撮影を行うだけ、あとで違反者を出頭させて取り締まるという、いわば「オービス的手法」を用いたわけだ。固定式でも可搬式でもなく、人をたくさん配置して行う「人力(じんりき)オービス」ってとこですかね。月刊交通8月号のレポートはこう結ばれている。

「今後も新たな場所や時間等を検討した上での、取締計画を立案中である。」

公道をレース場のように利用するなんて最悪だ。警視庁さんの工夫と頑張りに拍手したい。ただ、交通量の多い首都高速に光電式をセットするのはたいへんだ。跨道橋にまで人を配置するのもたいへんだ。そしてルーレット族のほうも「悪い工夫」をするだろう。車両前部のナンバーを外したり、マスクと帽子で顔のほとんどを隠したり。


■今後、スピード違反も「駐車違反」と同じ取り締まりの仕組みに?

どうすればいいのか。TKKではなくSGG(Sensys Gatso Group)の超高性能な可搬式を購入し、まさに神出鬼没に取り締まるという手はある。加えて、違反者の顔も撮影して違反者本人を処罰するという現行のやり方はもうヤメるのはどうか。駐車取り締まりと同じく、違反車両の持ち主からペナルティを徴収するのだ。放置違反金ならぬ「速度違反金」、払わなければ強制執行、車両を差し押さえて公売にかける。

そのことは警察庁さんがいちばん…というややこしい話はまた今度。とにかくね、2020年9月25日付けのパソヤの記事のあれはこれだったのか!なのである。

〈文=今井亮一〉
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から裁判傍聴にも熱中。2009年12月からメルマガ「今井亮一の裁判傍聴バカ一代(いちだい)」を好評発行中。