全国交通安全運動では可搬式オービスが主役に…オービスの性能争いに新展開も?

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■全国交通安全運動の報道にはあのオービスが登場

9月21日、秋の全国交通安全運動がスタートした。これ、始まりは1948年、「全国交通安全週間」だった。1953年に、1週間ではなく10日間の「全国交通安全旬間」になり、1961年に「全国交通安全運動」へ改称された。70年を超える長寿運動なのである。

さて、9月21日、琉球朝日放送がさっそく「沖縄で初導入「可搬式オービス」で取り締まり」(https://www.qab.co.jp/news/20210921142031.html)と報じた。南日本新聞は「持ち運び式装置でスピード違反取り締まり 狭い通学路、生活道路に対応 鹿児島県内で運用開始」(https://373news.com/_news/storyid/143919/)と報じた。鹿児島分についてはNHKも「道幅が狭い道路にも設置可能 可搬式の速度違反取締装置導入」(https://www3.nhk.or.jp/lnews/kagoshima/20210921/5050016323.html)と報じた。

それら報道に、カッコよくく信頼感ありげに写っているのは、すべて東京航空計器(TKK)の可搬式、LSM-310だ。あらら~、と私は思う。

警察庁が可搬式の導入へ向け表立って動きだしたのは2013年だ。当初はSensys Gatso Group(SGG。本社はスウェーデン)の可搬式を使うはずだった。しかしなかなか進展せず、2016年に突然、TKKが「スキャンレーザー式」(以下、レーザー式)の可搬式で参入してきた。警察庁は直ちに、全国へ送付する「交通指導だより」でTKKの可搬式を宣伝した。全国の警察はTKKばかり購入し始めた。

2013年から私はずっと可搬式に大注目している。情報公開法・条例を利用し、契約書等々大量の文書をゲットしてきた。可搬式の測定値を否認する裁判も傍聴してきた。根拠となるデータ等は省略し、現時点でのまとめをごく簡単に言えば…。

SGGの可搬式は超高性能。一方、TKKの可搬式はどうやら取り締まりに向かないようだ。レーザー式の開発をTKKがいつ始めたのか、あるいは外国から心臓部を買ったのか、どうも調子がよくないようだ。

ところが、SGGはあまり売れず、TKKがどんどん売れていく。令和2年度末(2021年3月31日)現在、全国に99台の可搬式があるが、9割ほどはTKKと思われる。各地の関係文書を見ると、TKKをひいきする入札条件だったり、妙な理由をつけてTKKと随意契約だったり。そんなことを地方の警察が独自にやるとは考えにくい。警察庁の中に、TKKをゴリ押しする一派がいるのだな、私はそう推認している。

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取り締まりに向かないから役に立たない、ということもない。交通安全運動や小学校の入学式シーズンなどの時期、「神出鬼没な新兵器が登場したぞ」と格好良く信頼感ありげな勇姿をテレビ報道させ、違反常習者たちをびびらせるという効果はあるだろう。「見せる取り締まりで速度抑止を」との報道もあった。1台約1千万円のカカシとは、なんともぜいたくな話ではある。


■TKKの可搬式オービスが進化する!?

しかし、それにしても、1台約1千万円もの、じつは取り締まりに向かない取り締まり装置を、警察庁はいつまで地方に買わせ続けるのか。私が読むに、警察庁はずばりこう考えているんじゃないかな。

「ヤバイ部品をひとつ入れ替えれば、一気にすべて、完全無欠な装置に生まれ変わる!」

測定部がレーザー式なのは可搬式(LSM-300とLSM-310)だけじゃない。パトカーの屋根に載せるLSM-100、いわゆるネズミ捕りに使うLSM-200もレーザー式だ。夢の新部品によりすべてのレーザー式装置が一気に生まれ変わる!

ただ、その日は果たしてくるのか。いつになるのか。2013年に全国で約205万件だった速度取り締まりは、2020年には約116万件にまで落ち込んでしまった。長年にわたりトップの座を占めていたのに、2018年には一時不停止に抜かれた。2020年の一時不停止の取り締まりは、速度違反よりはるかに多い約160万件だ。しかも、クルマ社会は自動運転へと向かいつつある。TKKをゴリ押ししているうちに、速度取り締まりは落ち目のジャンルになってしまった。

以上を踏まえて、私はドライバー諸氏に言っておきたいことがある。LSM-100について2020年、北海道で大変なことが起こった。詳しくは「ベテラン警部補が速度データ偽造を繰り返して逮捕…レーザーパトカー「LSM-100」の実績を上げるため?」(https://driver-web.jp/articles/detail/38245)に書いた。警察庁は、TKKの可搬式の取り締まり件数も上げたいはず。実績をつくりたいはず。特に交通安全運動の期間中など、警察庁の意向に忖度(そんたく)する者が現れかねない。つまり、怪しい測定値を押しつけられることがあるかも。

どう自衛するか。レーザー光に反応して警報を発する装置(いわゆるレーダー探知機)を装備するより、ドライブレコーダーのほうが役に立つんじゃないかと私は思う。レー探が必要な事情があるなら、ドラレコ機能付きのが良いだろうと。ドラレコ録画が無罪の証拠になるのか、という問題はあるが、無罪有罪は起訴されてからの話だ。ドラレコ録画のおかげで不起訴になっているケースはけっこうあるんじゃないか。私は速度違反の裁判を何百件か傍聴してきたが、ドラレコの信頼性を争う事件は1件もない。

一方、SGGの可搬式は超高性能だ。警察庁としては、SGGばかりが取り締まりの実績をがんがん上げるのを嫌うはず。SGGがその高性能ぶりを存分に発揮することはできないかも。でもね、レーザー式のダメぶり&警察庁のゴリ押しぶりは、全国の警察官たちに知れわたっているはず。警察庁に忖度せず、SGGでがんがん取り締まる警察官もいるだろう。報道によれば、千葉県警はSGGの可搬式でかなり取り締まっている。速度違反の常習者諸氏は、これから走る都道府県の警察はTKKとSGGとどっちの可搬式を購入したか、チェックしておくことが肝要だったりして。 ※画像は2021年5月23日付け読売新聞の記事より(https://www.yomiuri.co.jp/national/20210523-OYT1T50079/)。

あと、毎度言うけど、速度を出し過ぎると、危険を発見しても回避が間に合いにくく、何より事故ったときの被害が甚大になる。肝に銘じてほしい。

〈文=今井亮一〉
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から裁判傍聴にも熱中。2009年12月からメルマガ「今井亮一の裁判傍聴バカ一代(いちだい)」を好評発行中。