木下都議が書類送検…でも「不起訴にはならない」と思われる理由

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■書類送検はすべてが軽いわけじゃない

「木下都議を書類送検 無免許運転事故前にも繰り返していたか」と9月17日付けNHKニュースが報じた。記事内に、こんな部分がある。

◇◇◇引用開始◇◇◇
東京都議会の木下富美子議員(54)は選挙期間中だったことし7月2日、東京・板橋区の交差点で無免許で車を運転し、事故を起こしていたことが発覚しました。
警視庁が捜査した結果、当時、木下議員が車をバックさせた際に後ろの車と衝突し、乗っていた男女2人に軽いけがをさせたうえ、そのまま走り去った疑いがあることが分かったということです。
このほか、ことし5月と6月にも6回にわたって無免許運転を繰り返していたとして、警視庁は17日、木下議員を無免許過失運転傷害などの疑いで書類送検しました。
◇◇◇引用終了◇◇◇

警察は捜査を遂げたら原則として「書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない」(刑事訴訟法第246条)。検察に送致、略して「送検」だ。送検は2種類ある。

・身柄送検 被疑者(メディア用語では容疑者)の身柄を拘束した状態でおこなう。
・書類送検 拘束しない状態でおこなう。

書類送検と聞くと、軽い感じがするでしょ。不起訴か罰金ですみそうな事件のとき、メディアはよく「書類送検」という語を使う。たしかに身柄送検より書類送検のほうが普通は軽い。軽いどころか、嫌疑なしの不起訴に決まっているのにいちおう書類送検ってこともあるそうだ。そのへんはブログ記事「津田大介さん、香山リカさんらの書類送検、たぶん世間が知らない話」(http://ko-tu-ihan.cocolog-nifty.com/blog/2021/09/post-59daa4.html)にちらっと書きました。

だが、書類送検はすべて軽いってわけじゃない。というか、そもそも多くの事件は書類送検なのである。法務省の統計によると、2020年に全国の検察庁が処理した28万1343人のうち、身柄送検は9万7683人、身柄を拘束しなかったか、拘束しても警察のほうで釈放したかで書類送検だったのは16万6077人だ。


■木下都議が「不起訴にはならない」と考える理由

さあ、そんなこと踏まえて、木下都議である。木下都議は「無免許過失運転傷害」の罪名で書類送検された。聞き慣れない罪名かもしれない。説明しておこう。2014年5月20日、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」が誕生した。交通事故専門の新法だ。第6条に「無免許運転による加重」というのが設けられた。第4項はこうだ。

「前条の罪を犯した者が、その罪を犯した時に無免許運転をしたものであるときは、十年以下の懲役に処する。」

前条とは第5条。普通の交通事故は「7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金」に処する、という規定だ。つまり、普通の交通事故を起こしたとき無免許だと、罰金はもちろん禁錮の選択肢もなくなり、懲役のみ、それも7年以下から10年以下へとアップされるんである! 

木下都議の場合、不起訴は無理だろうと思われる。以下の3つのヤバイ要素が重なっているからだ。

1、たった1回、初めての違反ではなく、無免許運転をくり返すなかで本件犯行に至った。
2、相手のケガは軽微とはいえ、無免許運転の危険性を顕在化させた。
3、事故は過失だからしょうがないが、措置義務(救護、報告の義務)を怠って逃走した。

よって木下都議は、公判請求(正式な裁判への起訴)をされ、東京地裁の法廷へ被告人として出てくる可能性がきわめて高い。ちなみに、やはり法務省の統計によると、2020年に「無免許過失運転致傷」で公判請求されたのは全国で556人だ。なお、NHKニュースにある「無免許過失運転致傷など」の「など」は、「道路交通法違反」つまり措置義務違反だろう。