水素エンジン搭載カローラ、鈴鹿大会ではオーストラリア産の水素も使用。水素を「はこぶ」で挑戦

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■水素は運べるのがメリット

トヨタは9月18日、カーボンニュートラルなモビリティ社会実現に向け開発中の「水素エンジン」を搭載したカローラを、9月18日、19日に行われるスーパー耐久第5戦・鈴鹿大会に投入する。

第3戦の富士スピードウェイでは水素を「つかう」、そして第4戦のオートポリスでは「つくる」領域で選択肢を広げることに挑戦。今回の鈴鹿でのレースでは、「はこぶ」がテーマだ。

具体的には、川崎重工業、岩谷産業、電源開発(J-POWER)の3社が連携して運ぶオーストラリア産の褐炭由来の水素を水素エンジン搭載カローラで使用。加えて、バイオ燃料トラックやFC小型トラックにより、国内で水素を運ぶ際に発生するCO2低減に取り組む。車両については、アジャイルな開発でさらに改良を進めるとともに、開発現場には新たにコネクティッドシステムも導入、車両開発に活用するという。

今回の挑戦、水素を「はこぶ」でトヨタに協力する川崎重工業は、30年以上前にロケット燃料用水素貯蔵タンクを建造して以来、水素に関連する技術を磨いてきた。2016年には岩谷産業やJ-POWERなどと技術研究組合、HySTRAを設立、採掘量が多く安価に取得できるオーストラリアの褐炭から経済的に水素を作り、日本に運ぶ取り組みを計画している。

2021年度中には、川崎重工の水素関連技術と造船技術を組み合わせて建造した世界初の液化水素運搬船「すいそふろんてぃあ」でオーストラリアから日本に水素を運ぶ実証も行う。この実証は、「はこぶ」だけでなく水素を液体にして「ためる」チャレンジでもある。また、2020年代半ばには一度に1万トンの水素を運べる大型の液化水素運搬船の建造を予定。2030年には本格的な商用サプライヤーチェーンとして22万5000トンの水素を海外から運ぶ。

日本は、2030年には約300万トン、2050年には約2000トンの水素導入を目指しており、導入量の拡大に伴い国内だけなく海外から大規模な水素調達を進めていく必要がある。

鈴鹿大会では、海外からの水素調達の第一歩として、川崎重工、岩谷産業、J-POWERが試験的にオーストラリアから空輸で運んだ水素の一部を水素エンジン車両に供給。3社とトヨタは、この水素を実際にレースに使うことで「はこぶ」と「つかう」の具体期な将来図を現場での取り組みを通じて共有。さらに2022年のスーパー耐久では、「すいそふろんてぃあ」で運んだ水素の使用を検討しているという。2025年半ばには、大型の液化水素運搬船が運ぶ水素の使用も予定されている。

そして海外から持ち込まれた水素をどうやって国内で「はこぶ」か。今回はオーストラリア産の水素と、福島県浪江町(FH2R)で製造されたグリーン水素の2種類を水素エンジン車両に使う。オーストラリア産の水素は「Commercial Japan Partnership Technologies」(以下、CJPT)が取り組む小型FCトラックで、そしてFH2Rの水素は、トヨタ輸送のバイオ燃料トラックで、それぞれ鈴鹿サーキットまで運搬。海外から「はこぶ」に加え、国内で「はこぶ」領域でも選択肢を広げ、クリーンな水素社会への実現に貢献する。


■水素エンジンも改良を続けている
水素エンジン車両の改良について。第3戦の富士、第4戦のオートポリスと改良を積み重ねてきたが、そこから約1カ月半で出力はガソリンエンジンと同等レベルまで向上。つまりベースとなっているGRヤリス1.6Lターボの272馬力まで引き上げられた。充填時間については、車両の両サイドから充填できるように改良、オートポリスでの約3分から約2分と作業時間の短縮を実現した。

また、開発現場ではコネクティッドシステムを導入し、より高精度のデータを大量に、高速で収集できるようになった。これは、コネクティッド技術で開発を加速させるだけでなく、モータースポーツの厳しい環境下でコネクティッド技術を鍛え、得られた学びを今後のクルマづくりやサービス開発に生かしていきたいとの考えから投入された。

トヨタは今後もカーボンニュートラルに向けた水素社会実現を達成するために、「一緒にやろう」という意思のもと情熱をもつ仲間が業界を越えて集まり、ともにさまざまチャレンジを行えるよう、この水素エンジン搭載カローラでの挑戦を続けていくとしている。

〈文=ドライバーWeb編集部〉