タリバンがターゲットの旅行記録まで把握しているケースがあるという(写真:UPI/アフロ)

「カブール市内に住む裁判官の家が襲撃されたようだ。おそらくタリバン絡みの裁判に当たった裁判官だと思われる。タリバン兵らが自宅に突然侵入して、2万5000ドル(約274万円)を見つけ、金を奪ったうえ、裁判官を殴るなどの暴行を働いて逃走したようだ」

人権組織の代表として働くアフガニスタン人男性やジャーナリストらから、ここ数日の間でタリバン兵と見られる集団が働いている残虐な行為に関する報告が次々と入ってきている。冒頭の裁判官の自宅には、金品を強奪したタリバン兵らが再び30分後に戻ってきたとされ、今度は裁判官自身を誘拐して去っていったという。家族への聞き取りによると、家族も彼がどこに連れられていったかわからず、途方に暮れている状態だという。

さらに、「カブール市内に暮らしていた、アフガニスタンの情報機関、国家保安局(NDS)の職員だったアフガン男性の自宅をタリバン兵とみられる集団が襲撃したようだ。部屋に押し入るやいなや何も要求することなく無言で男性や妻、子どもたちを含む家族全員を撃ったとみられている」との一報も入った。

殺害されたというアフガン男性が働いていた国家保安局は、諜報活動やタリバン掃討などの対反乱作戦を行う機関で、アメリカの中央情報局など諸外国の情報機関と連携して活動を行っている。

この男性は、タリバンが標的とする“ブラックリスト”に掲載されていたとされており、「タリバンは今、アメリカ政府や北大西洋条約機構(NATO)などに協力していた反体制派の人物だけではなく、その家族などにも危害を加え始めている。メディアにはまだ出ていないこのような事例が今、次々に発生している」と、人権活動家らは証言する。

狙われるアメリカ軍協力者や政府関係者ら

アフガニスタンを実効支配したイスラム主義勢力タリバンによる、アメリカ軍などへの協力者狩りが徐々に明るみになっている。タリバンの掃討作戦を率いてきた外国軍部隊が事実上ほぼ撤収するなか、前政権での協力者を見つけるためタリバン兵らが住宅1軒1軒を回る調査を始めており、本人がいない場合は家族にも危害を与えるケースなどが報告されている。

CNNも24日、アメリカ軍の通訳として活動していた男性の兄弟に対し、タリバンが「アメリカに協力したり男性の身を保護したりしたとして、死刑を宣告した」ことが入手した一連の書簡から明らかになったと報じている。CNNが入手した書簡にはパシュトー語で、「あなたはアメリカを助けた罪に問われている」などと書かれており、書簡の印影は過去のタリバンの書簡のものと一致しているという。

空軍パイロット『アフガン超緊迫脱出』の一部始終」(8月20日配信)で報じたように、アメリカ空軍とともに治安維持に向けて数々の任務に当たってきたアフガニスタン空軍のサイードさん(仮名)も、「自分はタリバンの“ブラックリスト”に間違いなく載っている。カブールにいるのが発見されれば殺される」と身の危険を感じ、タリバン兵を装った服に変装して、妻とともにアフガニスタンから脱出した。

事実、空軍を持たないタリバンにとって、アフガニスタン空軍の存在は脅威であり、今月に入ってからもアフガニスタン空軍のパイロットが暗殺される事案が発生。勤務外のパイロットを狙ったタリバンの攻撃は激化してきていた。サイードさんと妻を乗せた車が空港に近づいた際に15発ほどの銃弾がすぐ目の前で乱射され続けたそうだ。

サイードさんが乗せられたアメリカ軍の輸送機には、同じアフガニスタンの空軍関係者を始め、政府関係者や通訳として国際機関などに貢献したアフガニスタン人家族らがすし詰め状態で乗せられていたと言い、さながら、国を支えてきた人々が次々にアフガニスタンを退避している状況といえる。だが、本人だけでなくその家族さえも標的に危害が加えられる事例が次々に報告されるなか、早急な国外退避はもはや予断を許さない。

タリバンのブラックリストとは─

今、次々に報告される、「ブラックリスト」に掲載されているとする元政府関係者やアメリカ軍協力者らへのタリバンからの攻撃。では、その「ブラックリスト」なるものとはいったい、どのようなものなのだろうか。

筆者が入手した、国連に情報提供を行うノルウェー国際分析センター(RHIPTO)の機密文書からは、タリバンが身柄拘束をする対象の人物らの名前を連ねた、その「ブラックリスト」の存在が浮かび上がってくる。タリバンは主要都市を制圧するに当たって事前に重要な個人のマッピングを行っていたとされ、作成したリストには、アフガン軍や情報機関でアメリカやNATOなどの協力のもとに働いていた重要人物らを標的として優先的に追跡できるよう、個人情報がまとめられていると報告されている。

具体的には、タリバンはイスラム教の礼拝所モスクや送金業者などに連絡を取って、アメリカ軍などに協力してきたと思われる人物の名前、電話番号、家族構成などのリスト化を進めているとみられ、さらに現在、タリバンに協力することを希望する新たな情報提供者を急速に募っており、諜報ネットワークを拡大しているとされる。

また、実際にこのリストに挙げられている対象人物の自宅に押しかけ、仮にこれらの人物の逃走を許してしまった場合は、家族を標的にして『シャリア(イスラム法)にのっとり』危害を加える可能性がある、と結論づけている。

報告書ではまた、欧米各国が空港での国外退避に力を入れている状況を利用して、タリバンが手薄になったカブール都市部での活動を活発化させ、捕虜とした人物への恐喝やモスクなど情報源に対する尋問を強める可能性が高いと指摘。最悪の場合は急速に増加している市内の情報提供者などを利用しながら、反タリバンとみなす人物やその家族を大量に逮捕して公開処刑するシナリオを想定している。 

この報告書をまとめた同センターのクリスチャン・ネルマン所長に取材を申し込むと、まず「タリバンの標的となっている人が相当数いるのは、火を見るより明らかです」としたうえで、次のように分析した。「とくに危険にさらされているのは、ブラックリストに掲載されている元軍や警察、捜査機関の中心的な立場にあったアフガニスタン人らです。タリバンは出頭を拒否する人物の家族をも標的として、“シャリア(イスラム法)にのっとり”処罰したりなどしています。彼らは、さらなる情報提供者を募って、新政権に向けての地盤を確固たるものにしようとしています」

また、タリバンが新たな情報提供者を水面下で市民から募っていることについては、「危害を加えず安全を保障する代わりに、内部情報提供者をリクルーティングして、“タリバン政権”への協力者を集めていっているとみられます」と話す。

入手した内部資料には「レター」も存在

また、同じく非公開を条件に提供された内部資料の中には、前政権でテロ対策に従事していたアフガニスタン人の男性幹部に対してタリバン軍事委員会への召喚を求めるレターも存在する。

パシュトー語で書かれたそのレターには、「あなたはアメリカ軍・イギリス軍と密接に協力してムジャヒディンを標的にしていました。あなたがイギリスに旅行していたという情報も入っています。これはあなたがアメリカ・イギリスと良好な関係を築いていたことを示しています。以上のことから、“アフガニスタン・イスラム首長国”の軍事委員会はあなたを重要人物とみなしています」と軍事委員会への出頭を命じる内容が記されていた。

さらにレターは「この召喚に応じない場合、あなたの代わりに家族が逮捕されることになります。あなたとあなたの家族はシャリア法に基づいて処罰されます」と結ばれている。

このレターが当てられた人物は、国際テロにも関わっているとされるタリバンの最強硬派「ハッカニ・ネットワーク」やイスラム国などによるテロ行為に関して、アメリカやイギリスと連携して調査活動に当たっていたとされており、タリバンはそれらの諜報活動に携わっていた重要人物を特に標的として、強く揺さぶりをかけているものとみられる。

国際機関と協力してきた人権活動家も標的に

国際機関と協力して活動してきた人権活動家のアブドゥルさん(仮名)も、初日に身の危険を感じて友人の家にかくまってもらったという。しかし、いよいよ身に迫る危険を感じるなか、ついに8月23日、ある先進国の援助で自宅まで車が手配され、家族を連れて空港へと文字どおり決死の脱出をしたという。

空港までの道中でこっそりと撮ったという唯一の写真には、囲いも屋根もない軽トラックのような車両の荷台に丸腰で乗っている妻と幼い子どもたちの姿が写っていた。数日前に国外退避のため空港まで向かった兄夫婦から、現地の危険な状況を耳にしていたことから、無事に空港内までたどり着くことができるのか不安を抱えていたのか、表情は固くこわばっているように見える。

アブドゥルさんも「私はタリバンの“ブラックリスト”に確実に記載されている」と言い、自宅にいると妻や子どもの身にまで危険が迫ることから、アフガニスタンの平和と安定を目指して活動してきた思いを道半ばで残し、祖国を後にすることになった。

ロイター通信は8月21日、タリバン高官が「野蛮な振る舞いがあることは把握しており、責任を持って対処する」と述べたと伝えている。アフガン全土掌握後、タリバンはアメリカへの協力者や政府職員らに対する「恩赦」を発表、融和的な姿勢を国内外に向け懸命に強調している。

しかし、あらゆる関係者らから明るみになってきている「ブラックリスト」の存在、そして重要人物やその家族の殺害などが事実であれば、恐怖政治が再来する。おびえる市民らのさらなる国外退避は免れず、事態はますます混迷を極めることになる。