オンラインで、キラキラした私生活を垣間見せる女たち。

豪華なインテリアや、恋人との親密な関係性、メイクや服装。

だけど画面越しに見せている姿は、本当の自分とかけ離れているのだ。

先週は“勝ち組な新妻”自慢が止められない女が登場した。さて、今回は…?




Vol.2 オンラインデートの盲点


名前:桜田加奈子
年齢:32歳
世帯:1人暮らし(彼氏ナシ)

「えっ加奈子さん、彼氏いないんですか?意外だなあ」

梨沙は広尾にあるエステサロンで小顔矯正の施術を受けながら、オーナーの加奈子に向かって言った。

「ふふ。そうかしら?」

そう言って笑う彼女の横顔は「美人だから、気が向けばいつでも男が寄ってくるわよ」とでも言いたげだ。

梨沙は元々、加奈子が在籍していた表参道の有名サロンに通っていた。しかし彼女が独立開業したため、最近はこちらの店舗に来ているのだ。

彼女は誰が見ても美人で、男にも困っていないように見える。

しかしオイルを手に取り施術を始めたとき、不意にポツリとつぶやいた。

「そろそろ、いい出会いがあればなとは思ってるんだけどね…」

―こういう仕事だと、意外と出会いが少ないのかな。

そんなことをぼんやりと思っていた梨沙は、ふいにあることを思いつき、口を開いた。


梨沙が唐突に思いついたこととは?


「じゃあ、マッチングアプリとかやってみたらどうですか?」

「アプリか…。今までやってみたことないなあ」

「オススメのアプリあるんでダウンロードしてみてくださいよ〜」

そう言ってスマホの画面を見せた瞬間、加奈子の表情がワクワクしだしたのを梨沙は見逃さなかった。



桜田加奈子のオフライン「仕事がうまくいかないときに、支えて欲しい」


「やっぱり、去年より客足が減ってるなあ…」

加奈子は、タブレットで開いていた予約管理表を眺めながらため息をついた。

通常なら一般の客やモデル達も通い詰め、当面は予約がいっぱいになることも多いが、コロナウイルスの影響で最近は予約に穴が開きがちだ。

こんな風に自分の仕事がうまくいかないとき、支えてくれる人が欲しい。最近はそう思うことが増えた。

そんなことを考えながらSNSを開いた瞬間、ある広告が流れてきたのだ。

“運命の相手は、きっとここにいる”

―あ!今日、梨沙ちゃんが言ってたアプリだ。

いつもならスルーしてしまうところだが、なんだか気になってしまう。加奈子はその広告をタップしてみた。

「安全そうだし、試しにやってみようかなあ…」

そして気付くと、プロフィールや画像の登録を完了させていたのだった。




その翌日。

「えっ、ウソ…。こんなに?」

あまり期待をせずにアプリを開いたら、予想を遥かに上回る数の男性から“いいね”や“メッセージ”が届いていたのだ。

加奈子は、一覧に表示された彼らのプロフィールを流し見る。

―でもコレだけじゃ、どんな人か分からないんだよなあ。

とは言え、休みも不定期で遅い時間に予約が入る日もあるから、食事デートを詰め込む訳にもいかない。

とりあえず数人には、直近で予約が空いている時間にオンラインデートを提案してみることにした。

「よし、今週だけで5アポか」

さっそく詰め込んだオンラインデートに、加奈子は浮き足立つのだった。



―悪くはないけど、なかなか次に進まないな。

そうして詰め込んだオンラインデートを実際にしてみたが、なかなかうまく進まない。

最初は社交辞令のような会話を交わし、次第にお互いの仕事やプライベートなど踏み込んだ内容について話す。そこで「美容サロン経営者」ということを伝えると、あからさまに敬遠する人もいた。

見込みのない人とダラダラと話すのも、時間の無駄。そう思った加奈子は「違うな」と思ったら、即座にオンライン通話を切り上げることにしている。

―誰か、私の肩書に萎縮しなさそうな人はいないかしら。

欲しいのは暇つぶしの相手じゃなくて、真剣に結婚を考えられる人。

向こうが良ければ、加奈子は0日婚でもしたいくらいだった。

そんなことを考えながら男性のプロフィール一覧をスクロールしていたとき、ある人物の写真に目が留まった。

『恭平 IT企業経営・36歳/帰国子女/年収1,500〜2,000万円/自立した女性と出会いたいです』

登録画像は3枚ほどあり、1枚目は仕事のプロフィール用と思しき写真。そのほかはキャンプやフットサルといった、趣味を匂わせる写真だ。

―スペックも高いし、プライベートもアクティブで充実してそうね。

さっそく、加奈子はその男性にメッセージを送った。

『プロフィールを拝見して、ぜひ一度お話ししてみたいと思いました。よろしくお願いします』


気になる彼からの返信は…?


するとすぐさま、彼から返信があった。

『サロン経営をされてるんですね。自分のやりたいことを頑張っている女性、素敵だと思います。僕も経営者なので、ぜひお話ししましょう』

そのメッセージに、思わずガッツポーズをする。

それからすぐに恭平とLINEを交換し、3〜4日ほどメッセージのやり取りや電話をした。彼はやはり加奈子の理想に近い男性で、仕事の忙しさや結婚観・相手に求める要素も一致している。

―コレは一回、会ってみるしかないな。

そう感じ、勇気を出して食事デートの誘いを仕掛けてみることにした。

『恭平さんと一度お会いしてみたいです。良かったら空いている日に、食事に行きませんか?』

そう送ると、すぐにLINEが返ってきた。

『ぜひ。ただ今週がちょっと空いてなくて、来週の土曜日はいかがでしょうか?』

―やった♡うまく行くときはトントン進むって聞くし、コレはいい流れかも。

それからデートまでの10日間余り、加奈子は会えない時間の中で恭平への妄想を大きく膨らませたのだった。




そうして迎えた、デート当日。恭平と麻布十番のビストロで待ち合わせをした。

彼の服装は、ジャケットに細身のパンツを合わせたスタイル。

―デキる男の、OFFスタイルって感じ。

期待をそのまま映し出したような彼の姿に、ますますテンションが上がった。

「初めまして、加奈子です」

「ああ、どうも。写真の通り、お綺麗ですね」

経営者と言う割には腰も低く、少しシャイな彼。食事をしながら他愛もない会話を交わすうちに、意外にも2人の共通点が多いことが分かった。

3人兄弟の真ん中で、中高は男子校に通っていたこと。そして1年以内の結婚を前提に、交際相手を探しているということ。

―かなりいい感じ。次のデートで付き合って、1年以内にクロージングして…。

そんなことを考えていると、恭平が照れたように言った。

「加奈子さん、このあと時間ありますか?良かったら家で飲み直しません?」

その言葉に黙ってうなずくと、2人は店を出て、大通りからタクシーに乗り込んだ。…加奈子の胸は、すでに高鳴っている。

「僕、最初に見た時からタイプだなって思っていて…」

車内で彼はそう言うと、こちらに顔を近づけてきた。

その瞬間。

―うわ。この人の匂い、めちゃくちゃ苦手なタイプ…!

先ほどまでは距離のあるテーブル席に座っていたため気付かなかったが、彼の体臭がどうしても受け入れられない匂いだったのだ。

オンラインデートでは、相手の匂いまで確認しようがない。だけど「相性は体臭でわかる」というくらい、重要なものだと思う。

加奈子はガックリと肩を落としつつ、あくまでもさりげない様子を装って彼から距離を取った。

―どうしよう。このあと、どうやって帰ろう…。

先ほどまでは運命の相手だ!と舞い上がり、早くも恭平と結婚するまでの妄想を膨らませていた。

しかし今の加奈子は「どうやって言い訳して帰ろうか」ということだけで、頭がいっぱいなのだった。

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