寝台特急「サンライズ」。さらなる乗車率向上の方策はあるか(写真:萬むつみや / PIXTA)

2021年3月にJR各社のダイヤ改正が行われる。興味深いのは東京発22時00分に特急「湘南」が設定されていること。つまり1998年よりずっと東京発22時00分であった寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」の時刻が変更されるということだ。

サンライズがどのような新時刻になるのかは発表されていないが、サンライズの現状はどのようなものなのだろうか。

平日の乗車率はどの程度?

各種報道ではサンライズの平均乗車率は7割と伝えられる。高松駅行きの瀬戸が6割、出雲市行の出雲が8割ともいわれているが、直近ではどうだろうか。

筆者は2020年9月15日木曜日東京発のサンライズに乗車し、翌朝最初の停車駅となる姫路駅の前で、乗車率を確認した。

1人用A個室寝台「シングルデラックス」と2人用B個室寝台「サンライズツイン」は、側廊下式の個室寝台で、入り口は階段の先だから、通路から利用状況を知ることはできない。しかし、瀬戸・出雲ともに満席なのは承知していた。インターネットで寝台券の予約が可能となったことで、空き状況を確認できるようになったからだ。

筆者は2人旅だったため、サンライズツインのキャンセルを狙っていた。サンライズのほかの設備は、1人用B個室寝台「シングル」「ソロ」と、1〜2人用B個室寝台「シングルツイン」、寝台料金不要で安価だが、横になれる普通車指定席「ノビノビ座席」である。

出雲の空席はシングル26室、ソロ7室、ノビノビ座席14席であり、2人でも使えるシングルツインは満席だった。2人利用されている場合は乗車111人であり、列車定員158人だから、7割ほどの乗車率である。喫煙のシングルが11室も空いていたので、喫煙車の需要が低いことがわかる。ノビノビ座席は乗車率5割ほどだが、新型コロナの時期だから、開放形の設備は避けられているのだろう。

だが、併結する瀬戸のB個室寝台は乗車率5割ほどであった。ノビノビ座席の利用者は8人なので、乗車率は3割という寂しさである。瀬戸は最も利用が多い金曜日に乗車した際にも(琴平駅直通が行われていた多客期だが)、乗車率8割くらい(出雲はほぼ満席)だったので、土日祝を含めて瀬戸は6割、出雲は8割という報道はあながち外れていないように感じる。


雪の中を疾走するサンライズ(写真:くまちゃん/PIXTA)

筆者は、瀬戸の平日乗車率が心配となった。欧州では環境負荷やコロナ対策の観点からも、夜行列車見直しの機運が高まっているが、このままだと日本では285系電車の車両寿命とともに、寝台特急が絶滅しかねない。

環境負荷が低く、便利な移動手段が失われるのは、残念な話である。しかし「寝台特急は列車単体では赤字で、往復として新幹線利用も見込めるからトータルでは維持されている」乗り物であり、高いコストのかかる活性化策は難しい。存続させる何かいい方法はないものか。

寝台特急が儲かりにくい理由

1987年4月1日の国鉄の分割民営化の際に取り決められた「運賃・料金収入の区分及び清算に関する協定」によると、JR各社間を直通する寝台特急の収益配分は、得られた収入を運行距離で分割して、決められている。

例えば、東京―高松駅間の瀬戸は、JR各社を以下の割合で走行している。 

JR東日本 東京―熱海 104.6km(13.0%)
JR東 海 熱海―米原 341.3km(42.4%)
JR西日本 米原―児島 314.8km(39.1%)
JR四 国 児島―高松  44.0km(5.5%)

東京―高松間でB個室シングル利用の場合、運賃1万2210円、特急料金3300円、寝台料金7700円で、合計2万2540円である。つまり、乗客1人当たりの収入は以下の通り。

JR東日本 2930円(13.0%)
JR東 海 9557円(42.4%)
JR西日本 8813円(39.1%)
JR四 国 1240円(5.5%)

運賃は遠距離逓減なので、例えば東京―熱海間でJR東日本は運賃分で1587円を受け取っていることになる。同区間は正規運賃だと1980円なので、かなり目減りしている。特急料金は429円、寝台料金は1001円しか受け取れないので、自社管内で完結する特急と比較すると儲からない。

ちなみにJR東日本の特急「踊り子」で、東京―熱海間を移動した場合、運賃1980円、指定席特急料金1890円で、合計3870円である。JR東日本は瀬戸、出雲から踊り子の3870円を下回る2930円しか得られていないことになる。

この収入分割システムで、瀬戸の乗車率が悪いということは「JR四国に直通する利益が少ない」ということだ。米原以西、終着駅までJR西日本区間を走る出雲は、JR四国に支払う5.5%が発生しないうえに、乗車率も高いので瀬戸より儲かる列車のはずだ。

JR四国に直通するなら、瀬戸の乗車率を今よりも向上させる必要がある。かつて瀬戸は臨時で松山駅に直通していた。その際のダイヤは東京22時00分発、松山10時59分着。航空機は羽田空港7時30分発、松山空港9時00分着であり、松山空港は市街地とあまり離れておらず、これでは勝負にならないので、2009年を最後に延長運転はなくなった。

瀬戸が遅い理由は「高松駅に到着した後、24分停車し、来た道を折り返す」ことで1時間はロスしたからである。高松駅に寄らず、最初から松山駅を目指せば1時間短縮できるということだ。高松駅に寄らないことは、もう一つ利点がある。それは「東京発を早められる」ことである。東京20時50分発なら松山には8時53分頃に到着する。新居浜7時24分、今治8時05分着と途中の主要駅もほどよい到着時間である(出雲の松江、出雲市着も8時台となり、競争力が増すと思われる)。

沿線人口でも坂出市+高松市47万人に対して、丸亀市+三豊市+四国中央市+新居浜市+西条市+今治市+松山市は合計116万人と、松山方面の方がパイは大きい。

坂出、高松駅の乗車人員は合計1万8320人だが、臨時瀬戸が停車していた丸亀―松山駅の乗車人員は2万4873人であり、乗車人員でも松山方面のほうがパイは大きい。

乗車率が向上したならJR四国の収入も増えるし、JR西日本や東海としても、乗客が増えた分の増収は見込めるので、そう悪くない話だろう。対高松は児島駅で「マリンライナー」と接続してもいい。

四国乗り入れをやめた場合

より収益性を追求するなら、思い切って四国乗り入れを中止する方策も考えられる。285系の保有会社はJR西日本が3編成、JR東海が2編成であり、四国に直通する必然性はないからだ。

かつて285系は臨時寝台特急「サンライズゆめ」として、東京22時10分発、広島10時09分着のダイヤで走っていた。「のぞみ1号」が東京6時00分発、広島8時50分着、「JAL253便」は羽田空港6時55分発、広島空港8時20分着(バスに乗り換えて広島駅9時35分着)なのだから勝負になるはずがなく、山陽本線への延長は2008年で中止された。
 
これは臨時列車で定期列車を縫う形になり、所要時間がかかるためである。最初から広島方面の利便性を考えたダイヤを設定したら、もっと速くできるはずだ。 
 
サンライズゆめが停車していた福山、尾道、広島駅は空港アクセスが不便である。また、宮島口駅は厳島神社への観光客を獲得できるし、岩国駅は新幹線も航空機も不便だ。徳山、新山口駅も空港から離れており条件は悪くない。

かつての在来線特急「しおじ」並みのダイヤを組んだ場合は、東京発を21時00分としたら、福山6時25分、尾道6時40分、広島7時46分、宮島口8時01分、岩国8時20分、徳山9時10分、新山口9時43分着といったところだ。

新幹線は「のぞみ109号」が東京19時51分発、広島23時52分着、航空機は羽田空港20時30分発、広島空港22時00分着なので、到着時刻が遅く広島からの移動が難しいことを考えれば、寝台列車を使うメリットはある。新山口でも、「のぞみ3号」は東京6時15分発、新山口10時34分着、「のぞみ189号」が東京18時12分発、新山口22時39分着なので同じである。

福山―新山口駅間の沿線人口は227万人で、児島地区+坂出+高松市は54万人なので、4倍以上の人口がある。乗車人員の合計で見ても、福山―新山口駅で13万458人、児島+坂出+高松駅の合計が2万3167人なので、5倍以上の差がある。山陽新幹線と並行するが、これだけの差があれば、山陽本線方面でも乗車率は向上できるかもしれない。

なにより、山陽新幹線の駅を目的地とすれば「片道は新幹線」という収益モデルも成立しやすいだろう。

お金をあまりかけない方策

ダイヤとしては上記のように考えるが、ほかにも改善点はあるのではないか。冒頭のとおり、2人用個室はほぼ満席だが、1人用個室には空きがある予約状況が多く、顧客の取りこぼしが見られる。1人用個室シングルには、天井高さ2.1mの平屋室が1編成に6室ある。ここに折り畳み式の上段寝台を追加し、2人利用を可能にすれば、定員も増え、取りこぼしが防げるのではないか。

また、A個室寝台の利用が好調なことから、2人用A個室寝台を設定してはどうか。サンライズは5編成あるので、寝台特急「カシオペア」のE26系客車の内、5両を285系に改造し、付随車のサハネ285形と入れ替えるのである。

E26系客車は現在12両編成で「カシオペア紀行」として運行されているが、編成が長すぎて入線できる路線が少ない。ツアーの募集要項から見るに階下室は販売されていないように見えるので、5両減らして7両編成とすれば、走行コストも低減でき、運用の柔軟性が増す利点があると思える。

電車の付随車は本質的には客車と同じであり、ブレーキシステムを変更すれば、それほどお金をかけずに285系に連結できるのではないか。285系と製造時期が近いE26系は、車両寿命も近く、その意味でも無駄が少ないだろう。固定ファンも多いサンライズの乗車率が向上し、新車が投入されて存続することを願ってやまない。