ネット企業がM&Aで活用していた独禁法のグレーゾーンに対し、中国当局が監督強化に踏み出した(写真:財新網)

中国独占禁止法の執行機関である国家市場監督管理総局(市場監管総局)は12月14日、ネットサービス大手の阿里巴巴集団(アリババ)、同じく騰訊(テンセント)、物流大手の順豊集団のそれぞれの子会社が独禁法に違反したとして、3社に対して50万元(約794万円)の罰金を科したと発表した。

処罰の決定書によれば、3社は過去に同業他社のM&A(合併・買収)を実行した際、独禁法が定める事業者集中に関する事前の届け出をしていなかった。市場監管総局が調査を行った結果、問題のM&Aは市場競争を過度に制限する事業者集中には該当しないと判断されたが、自主的な届け出を怠ったこと対して罰金処分が下された。

アリババなど3社は今回の処罰について、「市場監管総局からの通知を受け取った後、当局の指導と要求に従って主体的に是正している」という趣旨のコメントを異口同音に発した。

2008年8月に施行された中国の独禁法は、M&Aに伴う事業者集中の審査の事前届け出を最初から明記している。だが、ネット業界では多数のM&Aが行われてきたにもかかわらず、今回処罰された3社を含めて事前届け出を行った事例はない。また、それを理由に市場監管総局が調査を行い、処罰を公表したのはこれが初めてだ。

VIEスキームの“暗黙の約束”を認めず

その背景には、ネット企業がM&Aで多用してきたVIE(変動持分事業体)と呼ばれる特殊なスキームがある。通常のM&Aでは対象企業に出資することで支配権を得るが、VIEスキームは出資の代わりに一連の契約を通じて対象企業を実質支配する。それは独禁法の監督のグレーゾーンであり、中国のネット業界では事前届け出をしないのが“暗黙の約束”になっていた。

だが11月10日、市場監管総局はネット企業の独占的行為を規制する新たなガイドラインの草案を発表。そのなかで、VIEスキームを通じた事業者集中が独禁法の監督対象に含まれることを明確にした。アリババなど3社の処罰に踏み切ったのは、それを広く知らしめるのが目的だ。


本記事は「財新」の提供記事です

「これら3社は業界内での影響力が大きく、M&Aの件数が多く、法務の専門家チームを擁している。事業者集中の事前届け出制度を熟知していたはずだ。にもかかわらず主体的に届け出なかったのは悪質であり、ネット業界の規律を正す狙いで法に基づく処罰を決めた」

市場監管総局の関係者は、メディアへのブリーフィングでそう語った。

(財新記者:銭童)
※原文の配信は12月14日