山道で急激な高低差を登るため、180度近いカーブ、通称「ヘアピンカーブ」が連続し、ジグザグになっている道路。栃木県日光の「いろは坂」などが有名ですが、それに匹敵、あるいはカーブの数で上回る道路が全国各地にあります。

急激な標高差に対応する原始的な線形

 主に峠道などで、進行方向を約180度反転させる急カーブがあり、その形状から「ヘアピンカーブ」と呼ばれています。

 等高線に沿って山肌を縫うように右へ左へヘアピンカーブを繰り返すのは、標高差に対して距離を長くとることで勾配を緩やかにする工夫です。自転車で急坂を登る時、無意識にジグザグ走行することがあると思いますが、原理はそれと同じです。このヘアピンカーブが何度も連続する道路、日本各地に存在します。

国道120号「いろは坂」(栃木県日光市)

 ヘアピンカーブが連続する道路で最も有名なもののひとつが、日光の「いろは坂」でしょう。日光市街から、華厳の滝や中禅寺湖がある奥日光へ向かう道中の難所で、観光シーズンはマイカーやバスで大混雑します。

「いろは坂」の名前の由来は、上下線のカーブの合計が48個あることにちなみます。下り坂の「第一いろは坂」は1954(昭和29)年に開通、上り坂の「第二いろは坂」は1965(昭和40)年に開通し、前者は20、後者は28のカーブがあります。どちらも道路が折りたたまれたかのように、左右に曲がりくねりながら山の斜面を登り下りしています。なお、1984(昭和59)年までは通行料が徴収されていました。

 第二いろは坂の麓から順に、各カーブは「い」「ろ」「は」「に」…と順に名付けられ、それぞれ看板が立てられています。第一いろは坂は「な」から始まります。


中禅寺湖畔・奥日光地域に通じる第二いろは坂(Fabio Formaggio/123RF)。

国道158号「安房峠」(長野県松本市)

 岐阜県と長野県の県境に位置する安房峠の東側、上高地の入口付近に連続ヘアピンカーブがあります。

 こちらも急な斜面上を道路が這い進みます。幅も狭く、大型車は切り返しが必要なほど。なお冬季は通行止めになります。

 とはいえ、ここは「旧道」なので、自動車もバスも通常ここを通ることはないでしょう。1997(平成9)年に急峻な峠道をトンネルでショートカットする有料の「安房峠道路」が開通、雪の影響を受けることもなくなり、高山〜松本間の所要時間は大きく短縮されました。

「日本一」を通る連続ヘアピン道路

 中部地方にはほかにも、ヘアピンカーブの名所が存在します。

富士山スカイライン(静岡市富士宮市)

 富士登山の拠点のひとつである富士宮口五合目まで続く静岡県道の通称です。高低差にして約700m、直線距離にして2kmほどのところを、約10kmかけて連続ヘアピンカーブで登っていきます。

 なお、冬季通行止めおよびマイカー規制が行われており、マイカーが通行できるのは例年4月中旬から7月中旬、および9月中旬から11月中旬のみです。また2020年は富士山の開山が見送られたため、9月現在、富士山スカイラインも通行止めが継続しています。

田口峠(長野県佐久市)

 佐久市と群馬県下仁田町を結ぶ県道93号にある峠です。峠全体を通して1.5車線の幅しかなく、峠の東側では斜面を這うようにヘアピンカーブが連続。上から見た道路のちぢれ具合は、まるで茹で上がる前のインスタント麺のようでもあります。


田口峠の連続ヘアピンカーブ(画像:国土地理院)。

 田口峠は信州と上州をつなぐルートとして古くから存在し、その記録は9世紀にさかのぼります。このほか、北側には碓氷峠や入山峠、内山峠といった国道の峠があり、特に国道18号旧道の碓氷峠は約200か所ものカーブが連続する難所となっています。

 なお、田口峠の近くの山中には、「日本で海岸線から一番遠い地点」の標柱と案内板が設置されています(自動車やバイクで到達することはできません)。

連続ヘアピンカーブの王様は本州最北端に

 最後に、連続するヘアピンカーブの数としてはおそらく日本最大となる道路を紹介します。

津軽岩木スカイライン(青森県弘前市)

 1965(昭和40)年に青森県で初めて開通した有料道路です。弘前市の西北西に位置する単独峰、岩木山の八合目まで、ヘアピンカーブを駆使して一気に登って行きます。その数なんと、69か所。一般的な峠道とも異なり、まっすぐ頂上を目指して連続ヘアピンカーブの道路が尾根を駆け上がっていく様子は、航空写真などで見ると異様です。

 なお、通行料金は普通車で往復1830円(2020年9月現在)。八合目から頂上までは、展望リフトおよび登山道が整備されています。

ヘアピンカーブはもう生まれない?


安房峠の連続ヘアピンカーブ(画像:国土地理院)。

 今回紹介した道路は、いずれも1970年(昭和45)に道路構造令が定められる以前に開通したものです。この法令で新規に作られる道路の曲線半径や勾配には基準が設けられ、現在、ヘアピンカーブのような急カーブが計画されることは通常ありません。山越えにはトンネルが採用され、どうしても急激な高低差に対応するためには、「ループ橋」が各地で設置されています。

 なお、ヘアピンカーブや周辺の急勾配の山道を通行する際は、細心の注意を払い、無理のない運転に努めましょう。