自分にとって価値あるオンラインセミナーの見極め方を、企画者視点でお伝えします(写真:yongshan/PIXTA)

新型コロナ感染拡大につれて「オンラインセミナー」は激増し、半年ほどですでに玉石混淆の状態となっています。勉強のためにと参加してみたら単なる営業セミナーで、時間をムダにした経験がある人も少なくないのではないでしょうか。

早稲田大学で社会人講座を企画する高橋龍征氏が著書『オンライン・セミナーのうまいやりかた』をもとに、企画者視点によるオンラインセミナーの見極め方をお伝えします。

企画者視点に立つと「裏」が見える

SNSでオンラインイベントの案内を目にする機会が増えた方も多いのではないでしょうか。イベントの管理・運営サポートサービスのPeatix(ピーティックス)の調査によると実際、イベント数はコロナ前より多くなっています。(外部配信先では図表を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)


オンラインイベントの公開数(出所:「2020年 オンラインイベントに関する調査」Peatix)

会場の制約や調整が不要で気軽に実施しやすいなど、理由はいろいろとあるでしょう。気軽にできれば数は増え、質にばらつきが出ます。

私は社会人セミナーの企画を仕事としており、コロナ前は2年間で300件、コロナ後はオンラインで100件ほど形にしてきました。自身で主催するセミナー、他者が主催するセミナーへの登壇など、さまざまな立場で関わってきた企画者視点でオンラインセミナー案内文の「裏側」を読めば、そのセミナーに行く価値があるかどうかは、大体わかります。

そこで、自分にとって価値あるセミナーかどうかを見極めるための、以下4つのポイントについてお伝えしたいと思います。

1. ターゲットを把握する
2. 略歴を深読みする
3. 構成を見る
4. 講師・主催者の動機を知る

ポイント1:ターゲットがわかれば、自分にとって価値があるかわかる

セミナーには必ず目的があります。例えば、コンサルティングファームの製造業担当部門が中堅企業向けセミナーを企画していたなら、見込み顧客の新規開拓が目的なので、ターゲット以外の人にはあまり役に立たない話になるでしょう。

主催者が誰向けにどんなビジネスを提供しているのかを把握すると、セミナーに来てほしいターゲットと期待するアクションが見えてきます。また、案内文を読んだ人が「このセミナーは自分に役立つものか」を自己判断できるよう「このセミナーが役に立つ方」や「参加資格」などでターゲットを明記しているはずなので判断は容易です。

著名な講演者によるリベラルアーツの話なら、幅広い人に認知してもらうことが狙いなので、知的好奇心を満たすのには役立ちますが、ビジネスの課題解決には役に立たないでしょう。

このような観点で、自身の得たいものが得られそうか見極めるといいでしょう。

セミナー講師の略歴を注意深く読む

ポイント2:略歴に「書いていないこと」が講師の力量のヒント

略歴には意図的に強調することとあえて書かないことがあります。講師の力量を推測するには、略歴などの言い回しをちょっと注意深く読み、重要な点を検索してみるといいでしょう。

例えば、社内に「MVP制度」がある会社の出身者の場合。年間1人しかいない「全社MVP」の場合はそのように明記するでしょうが、MVPを量産する会社の出身者なら、事業部の月間MVP程度であれば単に「MVPを受賞」とするのが一般的です。また、学位をとっていれば「○○大学院修了」と端的に明記しますが、誰でも行ける公開講座を受けただけの人なら「○○で学んだ方法論を元に」といった書き方になるでしょう。

事業を立ち上げた、起業してエグジットした、コンサルティング会社、外資系金融などの記載はあるが具体名がない場合も、講師名で検索すれば記事など、具体名入りのものが出てくるはずです。簡潔にまとめるためにあえて情報を省略する場合もありますが、どこを調べても具体名が出てこない場合、意図して伏せていると疑われます。

学歴や社歴が実力を示すとは限りませんが、客観的で裏取り可能な実績があるなら、曖昧にする必要はありません。「このコンテンツを話すに値する講師であることを、裏付ける事実は何か」を意識し、略歴に書かれた修飾的な言い回しを削っていけば、本来の講師の力量が浮かび上がってきます。

ポイント3:構成からセミナー内容の厚みを読み取る

90分のセミナーがあったとして、冒頭10分が主催者の会社紹介で、後半30分がその会社の商材説明なら、お目当てのコンテンツは最大50分です。冒頭の導入5分、質疑応答10分を引けば実質30分ほどしかありません。時間が長ければ中身があるとは限りませんが、30分しかなければどこでも聞けるような内容になってしまうと考えていいでしょう。

なお、営業やマーケティング目的のセミナーが必ずしも悪いわけではありません。例えば私が参加したTwitter Japan社の「Twitterビジネス活用セミナー」などは、法人のSNSマーケティング担当者に広告運用ノウハウを教えるもので、参加者と主催者の相互に利益がある構造になっていました。目的とターゲットが明示してあり、公正かつ効果的に行っているマーケティング目的のセミナーもあります。気をつけたいのは、構成や目的を明示せず、主催者側が一方的に利益を得ようとしているセミナーや、ターゲットではない人まで呼び込もうとしているセミナーです。

ポイント4:同じ講師の過去セミナーから動機と内容を予測する

講師の知見を伝えるだけのレクチャーなら、だいたいどこでも同じような話になります。人はそんなに多くのコンテンツを持てないので、それ自体は仕方のないことです。同じ内容のセミナーを受講する場合、「復習のために聞く」と割り切るのもいいでしょう。

登壇者側も同じ内容では受講者に満足してもらえないことはわかっているので、ワークや全体ディスカッションを取り入れたり、対談やパネルディスカッションにしたりして、同じ人が続けて参加しても違う学びがあるようにするものです。


もしくは、その時々によって登壇する理由が異なっている場合もあります。登壇者が本を出した、主催者である企業が新しい事業を立ち上げたなど、意識的に露出を高めている時期だったり、ターゲットとの直接対話の機会が欲しいと考えているときだったり。過去のセミナーの開催時期がどういったときか、SNSやメディアへの露出を調べると大抵理由は推測できるでしょう。「こういうターゲット向けに新しい事業を立ち上げたところだから、今回のセミナーはそのターゲットに刺さるテーマにするはずだ」と推察できれば、今回のセミナーでどのような話が聞けるかも予測できます。

内容が予想できれば自分に役立つか判断もできますし、予習して備え、より多くの学びを得ることもできます。

「誰にとっても価値のあるオンラインセミナー」はない

オンラインセミナーの企画者は目的とターゲットを定め、そのターゲットの課題解決となるようなコンテンツを提供しようと考えています。ターゲットの課題解決が、企画者にとっての目的達成にもつながるからです。裏を返せば、自分がターゲットに該当するなら自分の課題解決に役立つが、そうでない場合は役に立たない可能性が高い、ということです。

もちろん、オンラインセミナーに参加する動機はさまざまでしょう。具体的な課題解決を目的とした人もいれば、有名人が登壇するからという理由もありますし、知的好奇心によるものもあるでしょう。あまたあるオンラインセミナーのなかで、よい学びの機会に出合える可能性を高めるには、企画者視点に加え、自分が何を得たいと考え、どのようなセミナーを探しているのか、一度頭の中で整理しておくことも必要です。