オリンパスは6月にデジタルカメラ事業から撤退すると発表した。今後は、JIPのもとで「オリンパス」ブランドは当面維持される予定で、販売済み製品のメンテナンスも続行される(撮影:尾形文繁)

赤字が続いていたデジタルカメラを含む映像事業から撤退するオリンパス。その事業を買収するのが企業再生を手がける投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)だ。買収額は未定だが、9月末までに最終契約を結び、年内に買収を完了する。

「苦境にあるデジカメ市場、なかでも赤字に苦しむオリンパスの映像事業をなぜ買収するのか」。業界内のこうした疑問の声とは裏腹に、今回の買収の責任者を務めるJIPの稲垣伸一マネージングディレクターは、オリンパスのデジカメ再生に自信を見せる。

稲垣氏は「過去30件投資をする中で破綻したケースはない。業界ではなぜ苦境にある映像事業に投資するのかという声はあるかもしれない。しかし、世の中がそう思っているからこそ、気がついていない強みがあると思う」と断言する。

VAIOの経験を生かす

この自信はかつてソニーから買収したパソコン「VAIO」事業での成功に裏打ちされている。JIPのもと不採算事業であったVAIOは「VAIO株式会社」として2014年7月に再出発。2016年5月期には黒字転換を果たし、その後も毎期増益を達成。ロボットなどのEMS(製造受託)事業も開始し、事業の核を増やしている。

稲垣氏はVAIO株式会社に投資責任者として参加。成功のカギは「独自の特徴、技術に焦点を絞ることだ」(稲垣氏)と言う。VAIOの場合はソニーという大企業の中では個別事業にまでリソースが十分に割かれないという状況があった。

そこでVAIOを単体事業として外に出すことで、事業の特徴を把握。これまでの民生向け中心から転換し、その特徴が最大限生きるビジネス向け市場に販路と事業規模を絞り、黒字転換を達成した。オリンパスのデジカメ再生もこの経験を生かす方針だ。「オリンパス」ブランドは当面維持し、販売済み製品のメンテナンスも続行する。

稲垣氏はオリンパスのデジカメもVAIOの事例と同様に「個別事業に十分なリソースが割けなかったのが問題」と分析する。オリンパスではこれまで内視鏡など医療機器事業を本業にして注力しようという方針があったため、デジカメを含む映像事業には戦略的な投資が十分に行われてこなかった。

そのため、稲垣氏は「オリンパス社内では見えていなかった映像事業の特徴を精査し、どの市場で特徴が生きるか見極める」としたうえで、「その市場に合う規模や体制に作り変え、身軽に挑戦できるようになれば、縮小するデジカメ市場のなかでも強みが生きてくると経験的にも感じている」と自信を示す。

では、オリンパスのデジカメの特徴は何か。稲垣氏は「小型・軽量、手ブレ補正の性能の高さなど多々あるが、その裏側にある技術はマイクロフォーサーズというセンサーだ」と語る。

マイクロフォーサーズとはオリンパスとパナソニックによって策定されたミラーレスカメラの目に当たるセンサーの中でも中型サイズのもの。一般的にフルサイズという大型センサーがプロ・ハイアマ向けに使用されることが多いが、サイズが小さいことを生かし小型・軽量モデルに採用されてきた。

JIPはこのマイクロフォーサーズの特徴が評価される市場が国内外に一定規模あり、こういったコアユーザーがいる市場を深掘りすることでしっかりとした事業基盤ができると期待している。

持続可能な黒字化を目指す

一方、今後はこうした強い技術を生かせる有望な新規市場を見出すことも欠かせない。中長期的視点では、動画に特化したコンシューマー商品や、監視カメラなどビジネス向けまで多様な市場も視野に入れている。現状のオリンパスカメララインナップを超えて挑戦を繰り返すことで、最適な市場を見つける必要があるという。

販路や生産も模索している。ただ「VAIO」のように海外市場から一度撤退するという考えはなく、今後も主力市場である欧州など海外販売は続ける方針だ。工場など生産体制も議論中だが、ベトナムの主力工場を残すなど、「ファブレスにする予定はない」(稲垣氏)。

中堅企業の規模にあった構造改革は行っても、単にリストラや工場の売却を行うのではなく、持続可能な黒字化を目指し、初年度には事業の黒字化を達成できればという。その後も外部企業などへ売却するのではなく、JIPのもとで再生復活への道を探る。

オリンパスがJIPに事業売却をするのは今回が初めてではない。2012年には携帯電話販売代理店「ITX」を売却している。このときからほかの事業に関しても定期的に議論を重ねてきた背景がある。その中で映像事業を「外に出すべきか、否か」というテーマが上るようになり、今年の年明け頃から本格的に売却の検討が始まった。

「独自の特徴・技術力があることはもちろん、オリンパスの竹内康雄社長らトップが事業を継続できる形で送り出したいという意思があり、また現場の人たちも技術について熱意を持っていることがわかった。だからこそ買収を決めた」(稲垣氏)

今後のカギを握る人材確保

デジカメを含む映像事業に所属するオリンパスの中堅社員も親会社が変わることに一筋の希望を抱いている。「カーブアウト後はJIPのもと十分なリソースを割いてもらえるようになるのではないか」という期待だ。一方で、映像事業の人材がすべて移行するかは決まっていない。

「映像事業の技術が主力の内視鏡技術に生かせる」(オリンパスの笹宏行前社長)など、社内では映像事業が医療機器事業にシナジーを生むという意見が強かった。実際、オリンパスでは数年前に映像事業の人員を本社管理部門など他部門に移管したとされている。その狙いは、映像事業の赤字体質を改善するためだけでなく、映像事業のノウハウを医療機器事業などに移管するためでもあったとみられる。

オリンパスの医療機器事業にとっても映像事業の人材は重要ということだ。実際、JIPも買収とともに優秀な人材獲得ができないことを懸念しており、「大企業からのカーブアウトで課題になるのは、カーブアウト先に研究開発人材がついてこないこと。この件に関してはオリンパスと交渉中だ」と稲垣氏はいう。

一方、今回のカーブアウトについてデジカメ業界に詳しいあるアナリストは懐疑的な意見を寄せる。「VAIOのように売上高200億円、営業利益7億〜8億円程度ならJPIでなくともコスト削減さえ行えば達成できる」としたうえで、「問題は事業拡大や新規分野への参入だ。デジカメ市場はプロ・ハイアマ向け製品しか生き残れなくなっている。その中で、マイクロフォーサーズをプロ・ハイアマが積極的に購入するとは考えにくい。また、VAIO並みの業績がでるようコスト削減をすれば監視カメラなどビジネス向けを製造する規模を保てない」と厳しい。

実際、マイクロフォーサーズを採用するパナソニックもスマートフォンとの差別化を打ち出せず、フルサイズを採用するカメラを主力としはじめたという見方もある。大企業のしがらみを断ち切るとはいえ、オリンパスの映像事業をVAIOのように事業の核を増やせる、毎年増益を達成できる事業として成長させるのは至難の業だ。

JIPによるオリンパスの映像事業のカーブアウトはVAIOの成功に続けるのか。それとも柳の下の泥鰌となるのか。JIPの手腕に注目が集まる。