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 近年のJ1は関東勢が優勢だ。

 関東勢以外の優勝となると、最も新しいのは2015年のサンフレッチェ広島。昨季は優勝した横浜F・マリノス以下、FC東京、鹿島アントラーズ、川崎フロンターレと続き、4位までを関東勢が独占した。

 もちろん、そもそも絶対数が多いのだから、必ずしもフェアな比較とは言えない。今季はJ2から柏レイソル、横浜FCが昇格し、全18クラブ中8クラブが関東勢。確率からいって、優勢に見えて当然だ。

 しかしながら、今季J1は少しばかり異なる様相を呈している。首位を独走する川崎は横に置いておく必要があるが、2位以下に目を向ければ、東海以西のクラブが上位争いに加わっているのだ。

 そのひとつが、ガンバ大阪である。


宮本恒靖監督のもと、安定した戦いを見せているガンバ大阪

 各クラブの消化試合数に違いがあるなか、G大阪は順位のうえでは7位にとどまるものの、2位から8位までの7クラブが勝ち点4差のなかでひしめく、混戦の2位集団にしっかりとつけている(8月26日開催分終了時)。

 今季開幕戦で昨季王者の横浜FMをアウェーで下し、好スタートを切ったG大阪は、長期中断明けの2試合こそ1分け1敗と勝ち切れない試合が続いたが、その後の4連勝で一気に勝ち点を伸ばした。

 GK東口順昭、DF三浦弦太、MF矢島慎也、MF井手口陽介、FW宇佐美貴史というセンターラインをほぼ固定し、それ以外のメンバーは対戦相手や選手のコンディションによって入れ替える。短い間隔で試合が続く厳しい日程のなかでも、うまく選手起用のローテションが行なわれているのも、今季好調の理由だろう。

 特に目立つのは、タレント豊富なFW陣だ。宇佐美をはじめ、アデミウソン、パトリックは、いずれも単独で局面を打開できる力があり、誰をどう組み合わせても、相手にとっては脅威となる。

 これまで全試合先発出場の宇佐美を軸に、ふたりのブラジル人選手の他、小野裕二、渡邉千真と、多彩な面々が有効に使い分けられている。FWの駒の豊富さ、個人能力の高さでは、J1屈指だろう。

 とはいえ、話が少々矛盾するようだが、G大阪の戦いのベースはディフェンスにある。

 バランスよく守備ブロックを作りながらも、ここぞというタイミングでピッチ上の全員が連動してプレスに出る。一気にボールサイドに寄せ、相手の逃げ道を遮断する守備はかなりの迫力がある。

 相手ボールを囲い込み、奪ったボールを素早く前線につないで、強力FW陣がチャンスに結びつける。それこそが、G大阪の必勝パターンだと言っていい。実際、勝利した6試合はすべて1失点以下。失点を1点以下に抑えながらも勝ち点を取れなかったのは、川崎に0−1で敗れた1試合だけだ。

 個人能力に長けたFW陣が前線に居並ぶことで、対戦相手にしてみれば、安易に攻めには出られない。下手に前がかりになってバランスを崩せば、たちまちカウンターの餌食になってしまうからだ。つまりは、個性派ぞろいのFW陣も、結果として守備強化にひと役買っているわけである。

 今季新加入のDF昌子源がケガから復帰し、第9節から戦線に加わったことも大きい。昌子、三浦、DFキム・ヨングォンと、日韓代表クラスが並ぶDFラインは、個々の守備能力が高いというだけでなく、攻撃の起点になれるという点でも心強い。まずは守備から入って、堅守を攻撃につなげる戦い方が、さらに確かなものになっていくだろう。

 本来的には、もっと自分たちがボールを保持する時間を作りたいという狙いもあるようだが、過密日程で行なわれる今季は、すべての試合で常に完成度の高いサッカーを展開するのは難しい。とりわけ現在のような酷暑のなかでは、不可能と言ってもいい。だとすれば、少々粗削りであろうとも、攻守両面で選手個々の質が高く、いい意味で"それなりのレベル"を常に保てるほうが、今季のような異例のシーズンには向いていると言えるかもしれない。

 直近の第12節では鹿島アントラーズと対戦し、1−1の引き分けに終わった。開始6分にしてMF小野瀬康介のゴールで先制しながら、その後は圧倒的な守勢を強いられた結果である。

「90分間(ゲームを)マネジメントするなかで、どちらに転ぶかわからないような厳しい試合が続くという想定だったが、それに反して早い時間に点が取れた」

 宮本恒靖監督がそう振り返ったように、思わぬ先制点が、逆にG大阪の選手から積極性を奪ってしまった格好だ。

 しかしサッカーにおいて、こうした展開、すなわち、本来の力関係とは別に、リードした側が猛攻にさらされることは珍しくない。ボールを奪ってもつなぐことができず、パトリックへ向けて大きく蹴り出すことが多くなったのは確かだが、それができるのは、前線に怪物FWを擁すればこそ。言い換えれば、G大阪の強みでもある。

 指揮官も、「後半に入って守備をする時間が長くなり、そこはある程度仕方がないというか、割り切ったなかで試合を終わらせるプランに移っていった」と振り返る。

 後半ロスタイムに痛恨の同点ゴールを許し、土壇場で勝ち点2を失ったことはもったいなかった。「(守備を固めて)割り切った戦い方をするならば、引き分けと勝ちでは全然感情が違うし、最後の結果は残念」と、昌子が語っているとおりだ。

 とはいえ、ほとんどの時間で自陣に閉じ込められた後半にしても、53分には宇佐美が相手DFとの競り合いを制してロングフィードを拾い、74分にはパトリックが左サイドに流れてタメを作り、いずれも決定的な得点機を作り出している。

 劣勢に見える試合でも、随所に"らしさ"は見せていた。

 バランスの取れた守備と、決め手を持った強力FW。過密日程の今季、2度のJ1優勝経験を持つ古参は、ライバルたちにとっては厄介な存在になりそうだ。