多くのエリートを輩出している名門男子校。

卒業生と聞いてあなたはどんなイメージを持つだろうか。

実は、思春期を"男だらけ"の環境で過ごしてきた彼らは、女を見る目がないとも言われている。

高校時代の恋愛経験が、大人になってからも影響するのか、しないのか…。

▶前回:「えっ、あの子が…?」“清楚系女子”に恋した早稲高卒男が陥る罠




<今週の男子校男子>

名前:薫(27)
学歴:海陽学園(中学・高校)→Central Saint Martins(ロンドン芸術大学)
職業:学生
住所:ロンドン・南青山
彼女:モデル(28)

あれは、1年前の夏のことだった。

相模湾と一体になったインフィニティプールは夏の照りつける日差しを浴びて、まばゆく光り輝いている。

「何度来てもここは日本って感じしないね」

「親父がエーゲ海の風景を切り取るって意気込んで作ったんだ」

ミナはサンローランのサングラスを掛けなおすと、ワイングラスに口をつける。

自称モデルの彼女とは帰国の度に会う程度の関係だ。

僕は付き合っているつもりはないし、友達との場にやたら顔を出したがるところがうざったくもあった。



僕が卒業した高校は“海陽学園”だ。

愛知県に日本の名だたる有名企業が出資して設立した全寮制の学校で、寮費を含めた学費は日本一高いと噂されている。

実際同級生は、地方のオーナー企業や大企業役員、士族や教授の息子が多い。

厳しい規律に勉強に部活。同級生とは毎日起きてから寝るまでずっと顔を突き合わせてきた。

卒業式で男性シンガーソングライターの有名な曲を全員で歌ったときは、普段絶対に泣かない僕も自然と涙が頬をつたったことを覚えている。

高校を卒業し、それぞれの進路を歩んでも結束力は変わらなかった。

卒業後、僕は親のお金でアメリカやカナダを数年間語学留学と称してふらふらして、今はロンドンでアートマネジメントを勉強している。

今後の予定は未定。ただ1つ言えることは親の会社に入るつもりはないってことだけだ。


まるで海外セレブのパーティー!海陽生の集まりの実態とは


僕は帰国する度、親の別荘に野球部の仲間たちとそれぞれの彼女や遊び相手を呼んでパーティーをしている。

1代で大手飲食チェーンを築き上げた父親が所有する、リゾートホテルのような鎌倉の別荘だ。

「薫!久しぶりだな」

ベンツやポルシェのスポーツカーに乗って続々と同級生たちが集まってきた。




いつも彼女や遊び相手やらを連れてくるが、女子の顔ぶれはいつも異なっている。途中から名前を覚えることもしなくなった。

「今年もありがとうな。相変わらず元気そうでよかった」

健人は高校時代食堂で毎日ご飯3合を掻き込んでいたザ・部活少年だったが、今ではすっかり爽やかな商社マンが板についている。

「俺、来年からヨハネスブルグに駐在に行くことになったんだ」

「おめでとう、カッコいいな」

ゴルフで焼けたと言う浅黒い肌に白い歯が光る。

−総合商社って一体何している会社なのか未だによくわからない。

再会に喜ぶ僕らの横で、ミナはいそいそとバーベキューの準備をしている。

「そんなに気を遣わなくていいのに」

「久しぶりに集まったでしょ?喜んでもらいたいの」

そう言って僕に手作りのピンチョスを食べさせてくれた。

「A5ランク霜降り肉のステーキ焼くぞ!」

健人が山形牛を鉄板で焼くと、女子たちが歓声をあげた。実家が輸入商の同級生は、親のツテで仕入れたサマートリュフを豪快にパスタに削っている。

「連休なのに明日は出勤だよ…社畜は辛いわ」

「俺も先月は休みなくて残業代が月給超えそうになった」

仕事の話になると、途端に居心地が悪くなる。

「薫は来年卒業だろ。何するか決まってるのか?」

ふらふらしている自分とは対象的に、社会に揉まれながら地道に努力しているみんなが眩しかった。

「何だろうな、ずっとワクワクしてたい」

セミの鳴き声が、日差しとともに降り注ぐ。

−27歳にもなってふらふらしているの、俺だけだな…。

話の輪に入れなくなった僕は、プールサイドのデッキチェアに横になった。

「やべ、肉焦がした!」

高校時代のようにはしゃいでるみんなを眺める。そこに誰かの彼女が、肉が盛られた皿を運んできた。

「薫くんってまさに自由人って感じだよね。髪の毛長いしピアスいっぱい付けてるし…」

「ああ…ありがとう?」

−自由人か…。僕はただ親のスネをかじって生きてるだけだ…。

僕が大学近くのパブで酔っ払って、将来の不安を「彼女」にこぼした時に言われた言葉を思い出す。

“That’s a first world problem.(贅沢な悩みだね)”

彼女のルイーズは、オックスフォードの院で政治学を専攻している明るく活発な才女だ。

外交官の父に連れられて世界中を見てきた彼女は、同い年とは思えないくらい達観している。

−僕は結局何者にもなれないのかな。

正直な話アートの世界で、腕一本で食っていけるほど才能がないことは自覚している。


日本での遊び相手、自称モデル・ミナの恐ろしい本性とは?


「また来年も集まろうな!」

みんなが帰った後の別荘は急にしんと静まりかえっている。夕日がガラス張りのリビングを優しく照らす。

キッチンで洗い物をしているミナの腰に手を回す。引き締まった細い腰にすらっと伸びた形のいい脚。

「薫くん」

ミナは手を止めて、キスをせがんできた。

−僕は、ルイーズのような賢くて自立した女性とは釣り合わない。

得体のしれない女だが、ミナは僕のちっぽけなプライドを一時的に満たすにはちょうどいい存在なのかもしれない。

空はオレンジと紫が混じり合い、昼間の照りつける暑さが嘘のように風が吹き抜けていった。



ミナの正体


−絶対薫と結婚して、セレブ妻になってやる。

真っ白な石張りのシャワールームで、汗を流しながらミナはそう思った。

この鎌倉の別荘も、広大な庭がある名古屋の実家も、南青山の高級レジデンスもいずれ薫の物になる。

シャワーから上がると、ベランダで誰かと話している薫の声が漏れ聞こえてくる。

“Miss you bae, I love you.(会いたい、愛しているよ)”

英語は出来ないけど、SATCもゴシップガールも全部字幕版で観たからそれくらいの意味は分かる。

−私が英語なんて分からないって馬鹿にしているんでしょ。

イギリスに彼女がいるのは知っている。

Instagramでよく一緒にタグ付けされる意思の強そうな眼差しをしたフランス人。

それに比べて私は埼玉の田舎出身で、小さい頃から男子に「ブス」って言われてきた。

だけどスタイルだけは、流行りのアイドルなんかよりよっぽど恵まれていた。

海外ドラマやセレブのゴシップ好きの私は、ずっと玉の輿に憧れて育ってきた。

私の人生が変わったのは、21歳の時に参加した六本木のホームパーティーで親よりも歳上な開業医と付き合った時。

「顔がコンプレックスで、自分に自信が持てないの」

私がそう言うと、彼は私の誕生日に二重整形の施術をプレゼントしてくれた。

−もっと綺麗になって、ドラマみたいにイケメン御曹司と華やかな暮らしがしたい!

私は彼におねだりして整形を繰り返した。元彼は自分の手の中で、私を育てている感覚が楽しかったようで、何でも要望に答えてくれた。

私は自分の顔に満足がいくと、もう用がなくなった開業医と別れた。今は小さなモデル事務所に所属してパーティー三昧の暮らしをしている。



ガラス張りの扉に映る、すっとした顎の輪郭。肌触りのいいバスローブをまとい、念入りに顔と体の手入れをする。

ベランダから薫が戻ると、ベッドのシーツをぴんと張り直した。

「寮のマスターがベッドメイキングに煩くてさ、未だに綺麗にする癖が抜けないな」

実家が地方のお金持ちの男は令和になった今でも「男は外、女は内」と考えている人が多い気がする。

イギリスの大学院で勉強している賢い女性には、いずれ見切りをつけられると思う。

−まあ、私は悠々自適に暮らせたら何でもいいんだけどね。

「ねえ、『バスティーズ』にランチに行きたいな」

「ミナの好きなところならどこでもいいよ」

私は薫の長い髪を丁寧に優しくなでた。湘南の海辺でランボルギーニのオープンカーの助手席にいる自分の姿を想像すると、自然と頬が緩んだ。

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