コロナ禍で多くの小売り店が苦戦する中、ワークマンはむしろ自信を深めている(撮影:尾形文繁)

建設作業員などのプロ客から一般客にまで顧客を広げ、破竹の勢いで成長を続ける作業服チェーンのワークマン

コロナ禍においても、その勢いは衰えない。新型コロナウイルスの感染が全国的に広まった今年2月以降も既存店売上高は前年超えを維持し、5月は前年同月比19%増もの伸びを見せた。

【2020年6月24日10時00分追記】初出時、5月の既存店売上高の増加率が誤っていました。お詫びして訂正いたします。

とはいえ、外出自粛ムードが長期化する中で小売企業を取り巻く環境は激変している。今後は消費者の「リアル店舗離れ」も懸念される。

その影響はワークマンにとっても同じなのか。同社創業者・土屋嘉雄氏の縁戚に当たり、ここ数年の快進撃の立役者である土屋哲雄専務を直撃した。(インタビューは6月12日にオンラインで実施)

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重要なことはライフスタイルの変化

――コロナ禍でもワークマンの既存店売上高は絶好調です。これは、予想通りなのでしょうか。

いやいや、想定外ですね。

4月は「開店休業」状態になってもよいくらいに思っていた。全店舗のうち8割の店が時短営業か臨時休業(土日のみ休業など)を実施したので、特に5月の既存店売上高が前年同月比で120%近くとなったのは驚きだった。

自動車産業が盛んな愛知や静岡の店舗では、作業系商品の売り上げが落ちた。工場が止まるとプロ客は作業服を買わなくなるから、如実に店舗の数字として出る。その落ち込みを一般客向けの増加で補った形だった。

一般客が伸びたのはすべて「自社の力」と言えればよいが、ショッピングセンター(SC)が一時休業した影響が大きい。ユニクロなどの店舗も一時閉まっていたので、「じゃあ、ワークマンでいいや」といって、うちの路面店に顧客が流れてきた。

――緊急事態宣言は解除されましたが、国内経済はどう回復していくとみていますか。


コロナ後の「新常態」とどのように向き合っていくべきなのか。「週刊東洋経済プラス」では、経営者やスペシャリストのインタビューを連載中です。(画像をクリックすると一覧ページにジャンプします)

V字回復はまず無理だろう。内需は財政出動の規模が足りないし、政府の対応も遅いので、消費マインドがどうしても冷えてしまう。ワークマンでも購買単価が低くなるなど、足元ですでにバリュー志向が表れている。

ただ、企業にとっては、経済動向よりもライフスタイルの変化のほうが大きなインパクトになってくるだろう。

人が密集する場所にあまり行かず、リモートワークも定着すると、「ハレの日のための服よりは普段着でよい」という風潮が強まる。となると、これまでの都心部を中心としたいわゆるアーバンライフから、どちらかというと「森の中に住みたい」というような郊外型、田舎暮らしを志向するスタイルが重要視されてくるのではないか。

――外出自粛ムードが高まった3月、ワークマンでもアウトドア用品がよく売れたと聞きました。

それが意外にも、緊急事態宣言明けの5月後半以降に売れたのは、アウトドア用品ではなくてスポーツウェアだった。スポーツ志向が非常に強くなっている。

――確かに、ジョギングや散歩などで着用する衣類の需要が高まっているように見えます。

当社では「ワークマン○○」という新業態を構想中だったが、今はその中でも「ワークマンスポーツ」を優先すべきかなと思っている。レギンス、短パン、Tシャツといった商品は、すでに山ほどあるから。あと考えているのは「ワークマンレディース」や「ワークマンシューズ」あたりだ。


2020年3月、営業時間帯によって看板が切り替わる新業態「W'sコンセプトストア」を、さいたま市に開業した(撮影:尾形文繁)

靴は作業靴だと100種類以上、一般向けだとおよそ30種類を展開しており、毎年売り上げが2倍の伸びを見せている。最近話題になったナイキの厚底シューズのような高反発機能を持つスニーカーを1900円で売り出したら、大人気商品になった。

ワークマンの店舗は従来、100坪程度の広さだったので、それぞれの商品に十分な売り場面積を割けなかった。だから作業着と靴、作業着と女性商品、作業着とスポーツウェアと、フォーマットを変えて出店していけないかと構想している。

店舗数は1000店舗を目指す予定だったのを(現状約870店舗)、新しいフォーマットを作れば2000店舗までいけるのではと思っている。

モールからの出店依頼が急増

――ワークマンはリアル店舗のうち9割超が路面店です。今後も路面店中心の出店になるのでしょうか?

既存の店舗は今、来店客が増えて駐車場がいっぱいになっているので、「店舗の広さが100坪」+「10台分のスペースがある駐車場」という従来のフォーマットから、「120坪で20台」、あるいは「150坪で50台」と店舗フォーマットの拡張を検討している。

大型店化、大型駐車場化を進めていき、あとはショッピングモール・SCで条件が折り合うところにどんどん出ていくつもりだ。モールで路面店と同じような採算が確保できるのならば、積極的に出ようと考えている。

路面店の売り上げに対する家賃負担率は、償却費などを含めて3%が目標。うちは粗利益率が35%で、そのうち4割を加盟店に配分するから、その分、固定費を低く抑えることが重要になる。

だから、モールも売り上げに対して3%の家賃という条件に合えば出る。

――そんな好条件、モールで可能ですか?

それが、ありうるんですよ。

確かに普通のアパレルだと、家賃は売り上げの10%近くかかるテナントも多い。だからこちらが「3%を切る家賃で」と条件を出すと、今まではモール側もあきれて話を持ってこなかった。ところがコロナの後、声がかかるようになった。


つちや・てつお●1952年生まれ。東京大学経済学部卒業後、1975年に三井物産入社。1988年三井物産デジタル社長、2006年三井情報取締役執行役員などを経て、2012年4月にワークマン常勤顧問に就任。2012年6月常務取締役、2019年6月から現職(撮影:尾形文繁)

今、モールからのオファーがすごいんですよ。それで昨日と今日は5カ所くらいモールを見てきた。やはり(コロナの影響もあり)テナントが撤退して売り場が空くと困るのだろう。

――しかし、3密を回避する向きもあり、モール自体の集客力の低下も懸念されます。モールへの出店はリスクになりませんか。

うちは全部自分たちの力で集客するから、モールの集客力は必要ない。何を買うか決めてモールに来る人は減っているけど、ワークマンに来る人はほとんどが目的買い。

「ららぽーと立川立飛」(東京都立川市)にワークマンプラスの1号店を出店したときも、うちの店でららぽーとのカードを使った人はすごく少なかった。これまでららぽーとに来なかったお客さんをうちが引き込んだ、と見ている。

ワークマンの路面店は店が汚れているところもあるけれど、モールはきれいですよね。モールに出るのは売り上げなんかよりも、「きれいな店をお客さんに見せたい」という目的が大きい。

路面店から一般客を吸い上げたい

――広告塔のような役割ですね。

それを路面店と同じ採算でやる。(モールの店舗はフランチャイズではなく)直営店になるけど、当社にモールの店舗の運営ノウハウは(社内に蓄積する)必要はないから、委託会社に任せる。

あと、モールに出ることで路面店から一般客を吸い上げたい。路面店では、プロ客の駐車は10分ぐらいだが、一般客は(滞在時間が長くて)30分駐車する。そうすると駐車場が混んでしまい、プロ客が逃げてしまうこともあった。そうならないために、一般客を路面店から吸い上げる目的もモール出店にはある。

――現在、モールへの出店は10店程度ですが、例えばモール店が店舗全体の半分くらいになるまで増やすのですか?

そこまでやったら危険。今回みたいなこと(外的要因で休業や大幅な客数減を余儀なくされること)になる可能性もある。せいぜい全体の10%までとか、そういう制限は付けようと思う。

「週刊東洋経済プラス」のインタビューでは、「コロナ前後で変わった仕事のやり方」「ネット通販に対する考え」「コロナ後の商品戦略や課題」「ユニクロとワークマンの違い」についても詳細に語っている。