株主総会シーズンを前に、多くの企業が震えている(デザイン:熊谷 直美)

4月18日、電子機器メーカー、サン電子の臨時株主総会で、現職取締役4人の解任を求める株主提案が可決した。株主提案をしていたのは、香港のオアシス・マネジメント。アクティビスト(物言う株主)ファンドとして知られるオアシスは、アルパインや人材サービスのパソナグループなどに対する株主提案を行ってきたが、日本で同社による株主提案が通ったのは初めてだ。

アクティビストファンドの日本企業に対する攻勢が強まっている。キリンホールディングス、ソフトバンクグループ、東芝機械(現・芝浦機械)、JSR――。大企業から中堅・中小企業までいつターゲットになるかわからない。

『週刊東洋経済』4月13日発売号は「牙むく株主」を特集。アクティビストの生態から企業の対処法、さらにアクティビスト以外の物言う株主の動きなどに迫っている。日本では経営者に敵対して、企業価値を破壊しようとする存在というイメージが強いが、本当にそうなのだろうか。日本における元祖アクティビスト・村上ファンド(通称・実働はM&AコンサルティングやMACアセットマネジメント)に狙われた会社のその後から、アクティビストの功罪に迫る。

日本勢同士で初の敵対的TOBの相手:昭栄

今から20年前。通商産業省(現・経済産業省。以下、省名や社名、肩書は当時)を辞めたばかりの村上世彰氏がアクティビストとしてのデビュー戦の相手に選んだのが、芙蓉系の不動産会社・昭栄だ。

PBR(株価純資産倍率)が0.5倍を下回るなど、昭栄の資産効率が日本の上場企業の中で著しく悪かった点に村上氏は目を付けた。総資産約500億円のうち4割がキヤノンの持ち合い株で占められていた。

村上氏は2000年に昭栄株のTOB(公開買い付け)を実施。昭栄が反対したことから、日本勢同士で初の敵対的TOBとなった。村上氏は昭栄の株主を訪問して回り、使う予定のない内部留保は株主に返すべきだと主張。芙蓉系各社の幹部から一定の理解を得られたものの応募は得られず。TOBは失敗に終わった。

勝利した昭栄は2012年に同じく芙蓉系・不動産会社で、昭栄より規模が大きかったヒューリックを吸収したうえで、社名を「ヒューリック」に変更。今、ヒューリックの業績は絶好調である。2019年12月期は純益588億円と過去最高益を連続で更新中だ。村上氏が問題視したPBRは1.5倍(2019年末時点)と目安の1倍を超えている。

大手アパレルメーカーの東京スタイルは国内初の本格的なプロクシー・ファイト(委任状獲得競争)を村上氏と繰り広げた。18年前のことである。


村上氏は当時「ファッションビルを建築するくらいなら潤沢な内部留保を株主に還元せよ」と主張。だが、東京スタイルの中興の祖・高野義雄社長は「会う必要はない。話したいことがあれば株主総会で言えばいい」と村上氏との面会を拒み続けた。高配当や自社株買いを迫る村上氏の株主提案は2002年、2003年の2度とも否決された。

その後の東京スタイルはどうなったか。2009年夏、社長就任から31年目に突入していた高野氏が急死した。75歳だった。後任の中島芳樹社長は2011年に同業大手のサンエー・インターナショナルとの経営統合を選択した。持ち株会社・TSIホールディングス(HD)では、持ち株会社社長と事業会社・東京スタイルの社長を中島氏が兼務した。

だが、船出からわずか9カ月後。東京スタイルの業績不振を理由に、中島氏は両社の社長職を追われた。2019年には東京スタイルの百貨店向けやEC向けのブランドすべてがサンエーに譲渡された。TSIHDという上場企業は存在しているが、東京スタイルは事実上、休眠状態にある。

逮捕・有罪。自身の資金運用で活動継続

2000〜2006年の村上氏は4444億円まで膨らんだ運用資金に物を言わせ、大手企業も標的にした。村上ファンドに46%超の株を押さえられた阪神電気鉄道は、阪急電気鉄道との経営統合を選択した。7%超を買われた東京放送(TBS)は持ち株会社化しTBSホールディングスになったが、現在でもアクティビストの標的となっている。10%弱を持たれた大阪証券取引所は東京証券取引所と経営統合した。

暴れ回っていた村上氏はニッポン放送株のインサイダー取引容疑で2006年に逮捕。2011年央には執行猶予付きの有罪が確定した。それでも村上氏が「物を言わなく」なることはなかった。現在は、投資家の資金を運用するファンドではなく、自己資金を元にオフィスサポート、レノ、南青山不動産などの系列会社を通じて、アクティビスト活動を継続している。

3年間の執行猶予期間が明けてまもない2015年、復帰第1戦の相手に選んだのがエレクトロニクス商社の黒田電気だった。エレクトロニクス商社の業界について「プレイヤーが多すぎる。業界再編が必要だ」を持論とする村上氏。「M&A(企業の合併・買収)戦略を進めるため」として、自身を含む4人の社外取締役を選任する株主提案を行った。

臨時株主総会でこの提案は退けられたが、2017年に村上氏側は1人の社外取締役を送り込むことに成功。その直後、投資会社のMBKパートナーズがTOBを実施。このTOBは成立し、黒田電気は2018年に上場を廃止した。今年4月、黒田電気は持ち株会社への移行を通じて海外子会社を切り離し、国内ビジネスに特化している。

実質的な解体に追い込まれたのはエレクトロニクス商社のエクセルだ。村上氏の系列会社が計4割弱を取得した後、現金対価による株式交換でいったん系列会社の完全子会社とした。その後にエクセルの事業用資産以外を村上氏側に現物配当させたうえで、事業については今年4月に同業大手の加賀電子に譲渡した。

アクティビストの圧力で業界再編は進展

村上氏に狙われた会社のその後は悲喜こもごもである。狙われた会社には、現金を溜め込んでいた、持ち合い株や有休不動産を多く抱えていた、業界再編が待ったなしだったなど、いくつかの共通点がある。一方、村上氏から逃れるためにライバルとの経営統合を選んだ企業は少なくない。アクティビストの圧力が、結果的に業界再編の導火線に火を付ける役割を担ってきたことは間違いない。その後、うまくいっているかどうかを分けた要素は、これといったものがないように見える。

アクティビストは村上ファンドだけではない。巨大な資金力、洗練された提案力を持つより豪腕の海外アクティビストも日本に次々と上陸している。さらに元経営陣、創業家、親会社なども経営陣に対して声を挙げ始めている。企業にはこうした株主との向き合い方が問われている。

『週刊東洋経済』4月18日号(4月13日発売)の特集は「牙むく株主」です。