プライバシーに敏感なユーザーに好まれるメッセージアプリ「テレグラム(Telegram)」。ブルームバーグニュース(Bloomberg News)は、このテレグラムを活用して、新規の購読者を呼び込み、米国外のオーディエンスの獲得を試みている。たとえば、イランの政府機関によると、通信内容が暗号化されるこのアプリが、イランでは月間2億回近く使われるという。

ブルームバーグがテレグラムに開設している公式アカウント(テレグラムではチャンネルと呼ぶ)には、2万7000人を超えるフォロワーが登録しており、同社は毎日1件もしくは2件のメッセージをこの人々に送っている。ブルームバーグニュースの編集者たちは、単なる記事の見出しとリンクの一覧ではなく、ときに絵文字をちりばめながら、短めのニュースレターのようなメッセージを作成している。ブルームバーグのデジタル部門を担当するケイティ・ボイス編集長によると、日々メッセージを更新する編集者たちには、より親しみやすい会話調の文体を用い、各記事のリンクに文脈を持たせることを奨励している。「プッシュ通知よりは長く、通常のニュースレターよりは短い」メッセージを心がけているという。

テレグラムのメッセージで引用する記事は、ビジネスニュースの速報から、主要なテクノロジー会社を深掘りした特集記事まで幅広く、さらには、未来の韓流スターの養成所ともなっているソウル市内のある界隈を取り上げるなど、カルチャー系の記事も扱っている。インスタントビュー(Instant View)という機能を活用すれば、ブルームバーグのペイウォールを迂回して、アプリ内で特定の記事を読むことができる。それでも、記事にはリンクが記載されているため、ブルームバーグニュースへの会員登録を促すことは可能だ。

ブルームバーグは昨年の12月からテレグラムのアカウントを活用している。背景にはWhatsApp(ワッツアップ)が大量のメッセージの一括自動送信を禁止したことがあり、そのせいでブルームバーグは数千人におよぶ同社のWhatsAppフォロワーにメッセージを送ることができなくなった。編集長のボイス氏によると、WhatsAppの使用はすでにやめているが、このアプリで学んだノウハウはテレグラムでの活動に活きているという。

WhatsApp運用で得たもの



ボイス氏によると、ブルームバーグがWhatsAppを使いはじめたのは2018年半ばのことで、海外のユーザー、主にアジア太平洋地域の人々にリーチするための取り組みだった。2019年12月までに、同社のWhatsAppのオーディエンスは9万3000人にまで膨らんだ。

「我々にとって、最大のメリットはこのような人々との間に1対1の関係を築けたことだ」と、ボイス氏は話す。「現在、メディア会社はこのような関係構築にニュースレターを活用しているが、ユーザーの受信箱に届く不要な情報は昔よりも増えている」。また、同氏の指摘によると、ブルームバーグの読者は主にダークソーシャル(チャットアプリなどのクローズドなコミュニケーションツール)を使って、友人や家族とコンテンツを共有している。「我々はそこで彼らと出会い、もっとダイレクトな関係を構築したいと考えた。これを実現するために、毎日、アルゴリズムに頼らない、編集者が自ら書いた親しみのあるメッセージを送っている」。

ボイス氏によると、WhatsAppユーザーからブルームバーグに送られてくるニュース速報に関するフィードバックは常に思慮深く、更新の戦略にも組み込まれたという。「とても親密で、積極的だった」とボイス氏は振り返る。「フィードバックをくれるほど友好的で、関わりの深いオーディエンスを構築できたと思う」。ユーザーのサブグループには、たとえば中東問題など、特定のテーマでターゲティングしたメッセージを送った。また、ボットを活用することにより、ユーザーがハッシュタグを使ってWhatsApp内の記事を検索できるようにもした。「ユーザーの評判は上々だった」という。

人気が高まるテレグラム



ブルームバーグがWhatsAppで集めたオーディエンスは、国籍が多様で、関与度が高く、ロイヤルな人々だったとボイス氏は言う。WhatsAppユーザーに販売したサブスクリプションの件数こそ正確に追跡できなかったが、「オーディエンスのサブスク化に必要な土台」は整った。そして現在、ブルームバーグはテレグラムでも同じことをやりたいと考えている。

最近、WhatsAppの人気に陰りが見える反面、テレグラムの人気は上昇している。米調査会社のセンサータワー(Sensor Tower)の報告では、テレグラムアプリのユニークダウンロード数は、2018年の9000万件から、2019年には35%増の1億3900万件に増えている。対照的に、WhatsAppのユニークインストール数は減少傾向にあり、2017年の9億8300万件から、2018年には9億3500万件へ、さらに2019年には8億7000万件まで下落した。

WhatsAppと異なり、テレグラムはチャンネル(アカウント)上のフォロワー(サブスクライバー)数に上限を設けていない。そして、米国の大手メディアがいまだテレグラムに公式チャンネル(アカウント)を開設していない一方、たとえばウクライナのような国のジャーナリストたちが、読者とのコミュニケーションにテレグラムを使っていたりする。2016年のスペインの選挙戦では、テレグラムのプラットフォーム上で、各種のボットがニュースの配信にひと役買った。また最近は、招待者限定のチャットグループ機能が使えることから、暗号通貨のヘビーユーザーにとっての安全地帯ともなっている。さらに、昨年香港で勃発した抗議デモの際にも、デモ隊の主要なコミュニケーションツールとして大きな役割を演じた。シグナル(Signal)も秘匿性の高いメッセージアプリとして知られるが、シグナルにしてもテレグラムにしても、中国とロシアから度々サイバー攻撃を受けているという報告にもかかわらず、セキュリティの高さには定評がある。

不正アカウントと他社の動向



テレグラムは多くのパブリッシャーから注目されているわけではない。米DIGIDAYが接触した8社のパブリッシャーのうち、公式アカウントを開設しているのはブルームバーグ1社のみだ。ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)、ロイター(Reuters)、ウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)については、ボットが操作する不正アカウントが少なくともひとつずつあり、各社ともこの事実を確認している。

たとえば、テレグラムでニューヨーク・タイムズのフェイクアカウントをフォローしているユーザー(彼らの言葉で言う「サブスクライバー」)は1万6000人いる。ロイターの成りすましアカウントをフォローしているユーザーは1万2000人、ウォールストリートジャーナルの非公式アカウントをフォローしているユーザーは1000人程度という。米DIGIDAYはこの件に関して、テレグラムに確認を求めたが、本稿の投稿までに返答はなかった。

ある一時期、ブルームバーグの名前で作られた不正アカウントも存在していたが、ブルームバーグはこの件をテレグラムに報告し、その後に有効なアカウントを取得した。

「テレグラムの前途は洋々」



ボイス氏は、テレグラムを活用したブルームバーグニュースの取り組みについて、その効果を測定するのは時期尚早だと語る。その一方、これまでの経過を見る限り、前途は明るいとも述べていた。

「テレグラムのようなメッセージアプリの活用は、我々のようなグローバルなメディアブランドの事業にたいへん効果的だ」とボイス氏。「ブルームバーグニュースのオーディエンスとサブスクリプションを増やすには、この種のオーディエンスへの訴求や到達が欠かせない」。

Deanna Ting(原文 / 訳:英じゅんこ)