<トランプはISは壊滅させた、もう心配はないと言ってきたが、そのトランプ自身の失策によってISは再び野に放たれた>

ドナルド・トランプ米大統領はこれまでに何度も、過激派組織IS「自称イスラム国」は米軍が掃討したので心配はいらないと述べてきた。しかしこのほど、シリア北東部にある収容所から、IS戦闘員と関係者数百人が脱走したことを地元当局が明らかにした。

英紙ガーディアンの報道によれば、シリア北部ラッカのアインイッサにある収容所で暴動が起き、女性と子どもを含むIS傘下の少なくとも750人が脱走した。この暴動は、トルコ軍がシリアに侵攻した後に起きた。トランプは10月7日、トルコ大統領レジェップ・タイイップ・エルドアンがシリアを攻撃するのを黙認し、シリアからの米軍撤退を指示していた。

トランプの撤退決定は大きな論議を呼び、共和党と民主党の大物議員たちは激しく非難した。米軍が撤退すれば、ISが復活する可能性があるほか、シリア情勢に関与しているイランやロシアなど、アメリカと敵対する大国がシリアで勢力を伸ばしかねないという。

クルド人主体の武装勢力「シリア民主軍(SDF)」によれば、10月12日頃には、シリア北東部の都市カーミシュリーにある別の収容所からも、ISの戦闘員5人が脱走した模様だ。

ISは壊滅させた、とトランプ

米軍はこれまで、IS掃討作戦にあたってSDFに武器を与え訓練するなど支援してきた。しかし、トランプは10月6日、トルコによるシリアへの軍事作戦にアメリカは関与せず、同地からアメリカ軍を撤退させるという驚きの発表を行った。トルコとクルド人勢力は、長年にわたって対立関係にある。そして、トランプの今回の決断によって、アメリカは重要な同盟相手を見捨てたと、アメリカの議員ならびにクルド人指導者たちの多くから非難の声が上がっている。

IS捕虜の収容所はアメリカとの合意によりクルド人勢力が管理してきた。米軍が撤退すれば、クルド人が手を引くことは予想されていた。

これに対しトランプは10月10日、ISはすでに壊滅しており、アメリカは同地での紛争にこれ以上関わるべきではないと力説した。

トランプは報道陣にこう言った。「私たちは勝利した。ISISを撃破し、徹底的に打ち負かした。もう私たちの兵士はいらない。何千何万もの米兵を送り込むのは2度とごめんだ」

トランプは何カ月も前から、ISはすでに退治したと主張しているが、アナリストや共和党議員の見方は違う。

トランプを支持してきた共和党の重鎮議員でさえ異を唱える。サウスカロライナ州選出の共和党上院議員リンゼー・グラムは、今回トランプを繰り返し批判。アメリカ軍撤退に対する反対論をリードしている。

<参考資料>エルドアンに「言いくるめられた」トランプ、米軍シリア撤退ならISが甦る
<参考資料>クルド女性戦闘員「遺体侮辱」映像の衝撃──「殉教者」がクルド人とシリアにもたらすもの

ジェイソン・レモン