北海道コンサドーレ札幌
FW鈴木武蔵インタビュー(前編)

 ボールが出た瞬間にスピードのスイッチが入る。走りながら相手の動きを見て、ゴール前では落ち着いて自分のイメージどおりのシュートを撃つ。躍動する背番号「9」――北海道コンサドーレ札幌のFW鈴木武蔵の”脅威”が日に日に増している。

 昨シーズンは、V・ファーレン長崎に所属し、カウンターとサイドアタックのクロスなどからリーグ戦で11得点をマークした。そして今シーズン、鈴木は移籍した札幌でもレギュラーポジションの座をしっかりと確保。ミハイロ・ペトロヴィッチ監督からの信頼をがっちりとつかんでいる。

 現在、リーグ戦出場22試合で7ゴール。長崎時代よりもゴールパターンが増え、守備など数字には表われない貢献度も高く、3月には初めて日本代表にも選出された。鈴木は今、ペトロヴィッチ監督のもとで、どう進化してきているのだろうか――。

「万能型のストライカーになりたいです」

 鈴木は、自身の目標をきっぱりと語った。札幌への移籍も、そうなっていくための手段のひとつだった。

「自分のように、身長(高さ)があってスピードもある、という日本人はなかなかいないと思うんですよ。そこを存分に生かして、スピードでもヘディングでも勝負できるところに加え、動きの質や技術といったところを、ミシャさん(ペトロヴィッチ監督)のところで向上させたいと思って、札幌に来ました」

――札幌に来て、ストライカーとしての成長が感じられたゴールはありますか?

「J1第2節の浦和レッズ戦の1点目と、第3節の清水エスパルス戦でのゴールは、ミシャさんのもとでサッカーをやっていなかったら、(ラストパスに反応して)動き出せていなかった。そういう意味では、成長の跡が見えたゴールでした」

 ともに動きの質の高さが光るゴールだった。浦和戦でのゴールは、左サイドの菅大輝にボールがわたった時点で、鈴木はその後の展開を予測。菅が中央へパスを入れた瞬間には、アンデルソン・ロペスからのラストパスを受ける裏のスペースへとフェイクを入れて動き出し、最後はフリーでボールを受けて難なく左足で流し込んだ。

 清水戦でのゴールも、GKからのビルドアップに始まり、宮澤裕樹からの縦パスが入る前に前線のスペースへと反応。パスを受けると右足に軽く当ててボールを前に出し、マークにつくファン・ソッコをちぎって左足で決めた。

 長崎在籍時には、カウンターから前線のスペースに抜け出していく鈴木に、「あとはおまかせ」といったパターンか、サイドから中央にクロスを入れて、そこで待ち構える鈴木のヘディングという形が多かった。

 それが今季は、3人目の動きでチャンスを作ったり、縦パスに対して効果的に反応したり、絶妙な動き出しからゴールに直結するようなプレーを再三見せている。こうした動きについては、キャンプ中からペトロヴィッチ監督に指導されてきたという。

「一番言われたのは(相手との)駆け引きのところ、ですね。どのタイミングで(動き出して)、どこで(パスを)受ければ、相手のプレッシャーを受けずに済むのか、あるいは(相手のマークを)外せるのか。それを、キャンプの時からずっと言われました。

 今は周囲を見て、たとえば(中盤の)ヒロキくん(宮澤)から(最終ラインの)フクちゃん(福森晃斗)にボールが入った瞬間、マークをはがすように動き出しますし、次にどこにボールが来るのか予測して、プレーできるようになりました。前は、自分の感覚だけだったんですけどね」

――ペトロヴィッチ監督からは、ボールの受け方も指導されたと聞いています。

「サイドからのボールの場合、普通はボールに寄るんですけど、(まずは)相手から離れたところでボールを受けるように言われています。裏でボールを受ける時も(中央から)コーナーフラッグに向かって斜めに走っていく選手が多いんですが、それよりもプル&アウェイで(そのまま縦に抜けて)ボールをもらったほうがゴールに直結できるので、『常に自分がゴールに向かえるポジションを取るように』と。

 ただ、『あまり前で動きすぎるな』とも言われます。札幌に来た当初は『動きすぎだ』って、結構叱られました。ボールが出てこないことに焦(じ)れてしまうと、自分のプレーがうまくいかないので、『我慢して、ワンチャンスを決めろ』と言われます」

――ペトロヴィッチ監督からは、シュートシーンにおける指示もされますか。

「シュートを打つ時、『常に(いくつかの)選択肢を持たないとダメだ』と言われています。シュートシーンを迎えて、すぐ隣にいる選手がフリーで、その選手がシュートを打ったほうが入る確率が高ければ、その選手に任せるとか。そうやって、いくつか選択肢を持つことで、ゴール前でだいぶ落ち着いてシュートを打てるようになりました」

 今季、その”落ち着き”が見られたシーンもあった。J1第16節のサガン鳥栖戦、カウンターからの攻撃で、チャナティップからボールを受けた鈴木は、右足で打つと見せかけて切り返し、そのまま左足で鮮やかなシュートを決めた。これは、周囲がよく見えており、落ち着いていたからこそ、できたプレーだろう。


札幌に来てからの、自らの成長について語る鈴木武蔵

 こうしたファインゴールもあれば、いくらシュートを打っても入らない時もある。J1第20節の湘南ベルマーレ戦では、鈴木は8本ものシュートを打ちながら、ノーゴールに終わった。

――シュートを外したあと、すぐに気持ちを切り替えることができますか。

「できるだけ、そうしています。以前は、シュートを外すと気にして、気持ちが少し落ちたりしたんですよ。でも昨季、長崎で高木(琢也)監督に『(シュートを)外しても次! 何本でも打っていいから』と言われたんです。高木監督に言われると、すごく説得力があって。

 もちろん(シュートを)外すと悔しいけど、その瞬間にすぎたことになっているじゃないですか。(シュートを外しても)いかに気にしないか、ミスを気にしないかっていうのが、とても大事だと思っています」

――シュートで意識していることはありますか。

「タイミングとコースですね。よくYouTubeでゴールシーンを見るんですが、それを見て、自分でもいろいろとイメージしています。たとえば、GKが前に出てくる可能性が高ければ『ループだな』とか、このタイミングで打てば『GKの反応が遅れそうだな』とか。この状況なら『この選択肢がベストでしょ』とか、そういうのをいつも考えています。

 あと、これも高木監督から言われたんですが、『慌てたら、絶対にゴールを獲れない。練習でゴールを決められたら、試合でもゴールを決められるから』と言われていて、練習の時からどこに打ったらゴールを決められるのかを意識していますね」

――シュートが決まるか、外れるか、その差はどこにあると思いますか。

「心に雑音がない時は、結構入るんですよ。でも、『あっ、これはチャンスだ。ゴールを決めないといけない』とか、『これを決めたい』とか、そういう気持ちが出てくると、思うようなシュートを打てないし、入らない。めちゃくちゃゴールを決めたい、という気持ちをどれだけ押し殺して、練習の時と同じように平常心でシュートを打てるか。それが、僕にとって一番点が入るパターンです」

 鈴木にとって、ゴールを決めるためには、練習どおりにシュートを打つことと一緒に、得意なシュートパターンを磨くことも重要だという。ガンバ大阪からフランスのボルドーに移籍したファン・ウィジョは、右にボールをさらして巻いてシュートを打つのが得意だった。ストライカーは、そういう自分の”型”を持っている。

 鈴木は今、左足が好調だ。リーグ戦7ゴール中、4点を左足で決めており、より自信を深めている。

――利き足は右ですが、今季は左足でのゴールが多いですね。

「左足は蹴れる球種が少ないんで、自然に蹴れるんですよ(笑)。(第2節の)浦和戦の2点目は、チャナ(チャナティップ)からのスルーパスを決めたんですけど、右斜め後ろから来たボールなんです。このボールを右足で(シュートを)打とうとすると、GKと1対1になって、左右どちらのコースに打ってもGKに当たってしまうんです。でも、左足だと体が開いているので、GKからすると(左右の)どっちに打つかわからない。やっぱり、両足で蹴れるのが理想ですよね。シュート練習は右ばっかりなんですけど(苦笑)」

――札幌では、1トップか、左右の2シャドーのどちらかでの出場です。ポジションへのこだわりはありますか。

「う〜ん、正直、どちらでもいいです。高校の時、左のサイドハーフをやっていたので、サイドからドリブルで仕掛けるとか、わりと得意なんですよ。1トップって、前でどっしり構えてポストプレーといった感じですけど、僕はサイドハーフをやっていたこともあって、(1トップを任されても)積極的に仕掛けていきたいと思っています。そこは、普通の1トップとタイプが違うかなと思いますし、そうやって自分のカラーを出せれば、どちらでもいいですね」

――現在、リーグ戦では22試合出場で7ゴール。この成績について、率直にどう思っていますか。

「もっと(ゴールを)取れましたね。10点は取れたと思います。(第20節の)湘南戦も、8本シュートを打ったけど、決められなくて……。チャナがすごくいいボールを出してくれるんですよ。『どこに出せば、武蔵に合うか』というのをわかってくれているので、チャナのパスに反応して、もっと点を取りたいですね。まだ、僕が点を取っている時は負けていないので、もっと点を取って、チームの勝利数も伸ばしたい」

――リーグ戦もいよいよ後半戦。自らのゴール数、チームとしての目標はありますか。

「チームは、上位3チームに食い込める力があると思うんです。でも、これまでは調子に波がある感じだったので、その波をできるだけ少なくしていきたい。ゴール数の目標は、トータル15点。そのくらい取らないと、3位以内も難しいので、絶対に取りたいです」

 鈴木は力を込めてそう言った。

 点を取ることはもちろん、力があるチームと対戦する場合は、ジェイに代わって1トップに入って、守備でも貢献している。「万能型のFW」として日々成長しており、ペトロヴィッチ監督からの信頼も増している。だからこそ、日本代表の森保一監督も、そのプレーを高く評価している。

 3月、初めての日本代表入りは、鈴木にとってうれしい招集だった。

(つづく)