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皇族の結婚はなぜ難しい?

眞子さまのご結婚問題が長引いている。2018年2月に、2020年まで婚約・結婚の儀式を延期すると発表された。令和になっても、見通しがはっきりしない。

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皇族の結婚は、なぜむずかしいのだろう。それは、皇室典範があるからではないか。

憲法と皇室典範の関係を、考えてみよう。

皇室典範には、かつての帝国憲法時代の旧皇室典範と、新憲法下での現行皇室典範と、二種類がある。どちらも皇室についての定めだが、憲法との関係が異なる。

旧憲法(帝国憲法)と旧皇室典範は対等(同格)で、言わばどちらも<憲法>だった。帝国憲法は、天皇は主権をもつ、と定める。皇室典範は、皇室について定める。議会は、皇室典範に口を出すことができない。

《第六十二條 將来此ノ典範ノ條項ヲ改正シ又ハ増補スヘキノ必要アルニ當テハ皇族會議及樞密顧問ニ諮詢シテ之ヲ勅定スヘシ》。さらに帝国憲法には、《第七十四條 皇室典範ノ改正ハ帝国議會ノ議ヲ經ルヲ要セス》、とある通りだ。

さて、旧皇室典範のもとで、皇族は自由に結婚できなかった。《第三十九條 皇族ノ婚嫁ハ同族又ハ勅旨ニ由リ特ニ認可セラレタル華族ニ限ル》、《第四十條 皇族ノ婚嫁ハ勅許ニ由ル》、とある通りだ。皇族の結婚は、天皇が許可するものだった。

結婚だけでなく、そのほかの自由も制限された。《第三十五條 皇族ハ天皇之ヲ監督ス》、とある通りだ。

もっとも、皇族だけに自由がなかったわけではない。旧民法のもとでは、一般国民(帝国憲法にいう、臣民)も、家長である戸主の同意なしに、結婚できなかった。皇族は皇統譜に記載され、天皇に従い、一般国民は戸籍に記載され、戸主に従った。

憲法と皇室典範は、どちらも似たような規定だったわけである。

日本国憲法が上で、皇室典範が下

これに対して、新憲法(日本国憲法)は、主権を日本国民がもつ、と定める。日本国民の基本的な権利も掲げている。そして皇室典範は戦後、立法機関である国会が定めた、数ある法律のひとつにすぎなくなった。

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このように、日本国憲法が上で、皇室典範が下。それなら皇室典範は、日本国憲法と整合していなければならない。

憲法は国民の権利を保証する。結婚についてはこうある。《第24条 婚姻は,両性の合意のみに基いて成立》する。成人男女が結婚すると決めれば、第三者はだれも、親であっても、妨げることはできないのである。

では皇室典範には、どう書いてあるか。

第十条 立后及び皇族男子の婚姻は、皇室会議の議を経ることを要する。
第十一条 年齢十五年以上の内親王、王及び女王は、その意思に基き、皇室会議の議により、皇族の身分を離れる。
○2 親王(皇太子及び皇太孫を除く。)、内親王、王及び女王は、前項の場合の外、やむを得ない特別の事由があるときは、皇室会議の議により、皇族の身分を離れる。
第十二条 皇族女子は、天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れる。

男性皇族が結婚する場合は、皇室会議の承認が必要。いっぽう、女性皇族が一般国民と結婚する場合、承認は必要ない。が、結婚によって自動的に、皇族でなくなる。

これとは別に、皇族が自分の意思で皇族をやめる場合には、皇室会議の承認が必要である。

この、皇室会議とはどういうものか。皇室典範にこうある。

第二十八条 皇室会議は、議員十人でこれを組織する。
○2 議員は、皇族二人、衆議院及び参議院の議長及び副議長、内閣総理大臣、宮内庁の長並びに最高裁判所の長たる裁判官及びその他の裁判官一人を以て、これに充てる。
○3 議員となる皇族及び最高裁判所の長たる裁判官以外の裁判官は、各々成年に達した皇族又は最高裁判所の長たる裁判官以外の裁判官の互選による。
第二十九条 内閣総理大臣たる議員は、皇室会議の議長となる。

要するに、三権トップのおじさんたちの会議だ。

皇室会議は、首相が議長をつとめるので、政府の力が強い。皇族も二名加わるが、議決は多数決か三分の二なので、多勢に無勢である。

「皇族」は「国民」なのか否か

皇室会議を、旧皇室典範の「皇族会議」と混同してはならない。

皇族会議は《成年以上ノ皇族男子ヲ以テ組織シ内大臣樞密院議長宮内大臣司法大臣大審院長ヲ以テ參列セシム》とあって、皇族の合議機関。天皇が主導した。政府は、オブザーバーにすぎなかった。

皇室をめぐる重大事案は、《皇族會議及樞密顧問ニ諮詢》することになっていた。ともかく、皇族の意思が優先する。戦後の皇室典範の「皇室会議」が、政府主導なのと、正反対の組織だったことがわかる。

さて、こうして、日本国憲法と皇室典範を読み比べると、疑問が浮かぶ。

疑問の第一。皇族は、国民なのか、それとも、国民でないのか。皇族は、憲法がすべての国民に約束する、基本的人権を保証されるのか。

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国民は、戸籍に身分が記載されている。結婚は届け出制である。書類が整っていれば、届け出によって戸籍に結婚の事実が記載され、効力をもつ。

皇族は、皇統譜に身分が記載されている。皇室典範の第十条にあるように、男性皇族の結婚は、皇室会議の承認が必要だ。皇室会議のおじさんたちがウンと言わないと、結婚できない。

国民と皇族は別々(皇族は国民でない)なら、これでよいのかもしれない。

けれども、憲法は、皇室典範より上位の法規範である。憲法に、皇族は国民でない、とは書いてない。それどころか、《第98条 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。》とまで書いてある。

これに照らせば、皇族も国民と同様、と考えるべきだ。その皇族に対して、国民すべてに保証されている結婚の権利を制限すれば、問題だと考えられる。

それに対して、皇族は特別な人びとで、特権もある。国民とまったく同等と考えなくてもいいのでは、という声もあろう。

そうかもしれない。そうだとしても、日本国憲法は、皇族に関しても尊重されるべきだろう。法律が、皇族の人権を損なってよいということにはならない。皇室会議は、皇族の人権を、最大限尊重する義務がある。

眞子様が、区役所に婚姻届を提出した場合…

疑問の第二。女性皇族の結婚は、皇室会議の議を経ないのなら、どういう手続きによるのだろうか。

皇室典範には、その規定がない。結婚したらそのあと皇籍を離脱する、と定めているだけである。おそらく、まず区役所に婚姻届を出し、それが受け付けられてから、皇統譜から除くのであろう。

皇室には、婚約にあたる「納采の儀」など、伝統のしきたりがある。けれどもこれは、法律でない。これ抜きでも、結婚は成立する。それは、一般の国民がいざとなれば、周囲の反対などで結婚式を挙げなくても、駆け落ちしたりして、婚姻届を出すのと同じだ。

眞子さまと一般の男性が、区役所に婚姻届けを掲出したとする。書式が整っている。でも、区役所が保留にして、宮内庁に問い合わせたりするかもしれない。そうなれば、日本国憲法にとって、残念なことだ。

婚姻届が確実に受理されるのは、眞子さまがまず皇籍を離脱し、一般の国民となってから婚姻届けを提出する場合である。けれども皇籍を離脱するには、皇室会議の承認が必要である。なおハードルが高いかもしれない。

いずれにせよ、つぎのことを考えてみるべきだろう。

女性皇族の結婚は、政府が関わらない「私事」

そもそもなぜ、男性皇族の結婚には、皇室会議の承認が必要なのに、女性皇族の結婚には、皇室会議の承認が必要ないのか。それは、男性皇族の配偶者が皇室に加わり皇族となるのに対して、女性皇族の配偶者は皇族とならず、女性皇族自身も皇籍を離脱するからだろう。

結婚まで女性皇族はたしかに、「公」の立場にある。でもそれは、彼女の人生の一時期にすぎない。残りの人生を、人間として、幸福に生きていく権利がある。皇室典範はそのことも配慮している。

よって、女性皇族の結婚は、政府が関わらない「私事」なのである。

「私事」とは、どういうことか。

いまの皇室典範には、天皇が皇族を「監督」する規定もなければ、皇族会議の規定もない。皇室会議は、女性皇族の結婚に関与しない。つまりそれは、当人と家族の問題だ、ということである。

一般の国民の場合、結婚をめぐって、当人と周囲の意思が食い違った場合、当人の意思が優先する。日本国憲法は、そう定めている。皇族の場合も、私事であるのだから、日本国憲法の原則に従って、当人の意思の通りにするのが、正しいであろう。

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