マツダは「アクセラ」を全面改良し、「MAZDA3(マツダ3)」として発売した(撮影:尾形文繁)

「すべての領域の質感を磨いた。お客様の期待にさらに高い次元でお応えできる商品だと自負している」


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マツダは国内向けの新型「MAZDA3(マツダ3)」を5月24日に発表した。丸本明社長は同日都内で開かれた発表会で新世代商品の第1弾となるマツダ3への期待を語った。かつて日本では「アクセラ」の車名で展開していた小型車は、5年半ぶりの全面刷新に合わせて、海外名の「MAZDA3」に統一。車名にブランド名を冠し、一層のブランド引き上げを狙う。

新型マツダ3にはセダンとハッチバックの2タイプを用意。価格は218万1000円〜362万1400円(税込み)。先代のアクセラは171万〜262万円だったが、先進安全装備の充実や新型エンジンの導入に伴い価格帯も引き上げた。

デザインから走行性能まで磨き上げる

2010年に導入した「魂動(こどう)デザイン」は消費者が一目見てマツダ車と分かるブランドづくりに貢献してきたが、「日本の美意識」に基づいてさらに深化。特にこだわったのはボディ側面の造形だ。見る角度や光の当たり方次第で車の印象が変わる滑らかで複雑な造形をデザイナー、エンジニア、生産部門が一丸となって作り上げた。

さらに「人間中心のクルマづくり」や「人馬一体の走り」といったマツダの開発哲学を追求し、車の基本性能の引き上げにもこだわった。
 
走行性能の要であるマツダ独自の「SKYACTIV」エンジンにはガソリンの1.5リットルと2.0リットル、ディーゼルの1.8リットルに加え、今回新たに「SKYACTIV X」と呼ばれる2.0リットルガソリンエンジンを追加する。

Xは低速域でも高いトルクが出るディーゼルエンジンと高速域で伸びがあるガソリンエンジンの長所を兼ね備える。燃費は現行のガソリンエンジンから最大3割改善。自社開発のマイルドハイブリッド(HV)技術を組み合わせることで、燃費の大幅改善を見込む。

実は、マツダは今回、SKYACTIV-Xの燃費を「未定」として発表した。搭載モデルは今年10月発売を計画する(7月予約受注開始)が、自動車メーカーが新車の商品性を大きく左右する燃費を新車発表時に未定とするのは極めて異例。丸本社長は「開発陣も最後の最後まで調整している。国土交通省に届け出次第、すみやかに発表する」と述べるにとどまった。


今回のマツダ3に合わせて投入された新世代エンジン「SKY ACTIV X」(編集部撮影)

Xは「SPCCI(火花点火制御圧縮着火)」というマツダ独自の技術で、他社も研究開発していたが量産化にメドをつけたのはマツダのみだ。平たく言うと、この技術では、ガソリンをディーゼルエンジンのように自己着火させることで、従来よりも少ないガソリン量で同じだけの出力を得られるため、パワーと環境性能の両立が可能になる。

マツダは開発の過程で自己着火が可能な温度範囲がわずか3度しかないことに行き当たる。そこで、火花を飛ばし点火するスパークプラグの制御に独自の調整をし、エンジン内部を高圧に保つことで、自己着火が可能な温度範囲を50度と飛躍的に広げることに成功したのだった。世界初の技術の量産化だけに他メーカーも高い関心を寄せるが、発売まで半年を切っても調整を続けるほど技術的難易度が高いということだろう。

車体の設計も抜本的に見直した。歩いているときに頭部の揺れを自然に抑える人間の高度な能力に着目。この能力が発揮できればドライバーの負荷が軽減できると考え、シートの構造だけでなく、ボディやシャシーの構造や剛性にまで踏み込んで改善を加えた。

SUV人気の中、セダンは売れるのか

マツダ3は今年1月に北米を皮切りに発売し、欧州やオーストラリアにも投入済み。今後は中国や東南アジアなどほかの市場にも順次投入する。年間販売目標は世界で35万台、日本では2万4000台。世界的にはSUV(スポーツ用多目的車)が人気で、近年はマツダでも「CX-5」を筆頭に「CX-3」や「CX-9」といったSUVが販売を牽引する。マツダの世界販売に占めるCX系の比率は2019年3月期には49%とこの5年で20ポイント以上増えている。果たしてセダン系のマツダ3に勝算はあるのか。

2018年のアクセラの国内販売台数は約1万8000台。デミオ(4万8000台)、CX-5(3万8000台)、CX-8(3万台)に次ぐ。しかし、世界販売に目線を移すと景色は大きく変わる。首位はCX-5の約47万台だが、マツダ3が約38万8000台で2位に入り、24%を占めた。マツダは2020年3月期に世界販売台数を161.8万台と見込み、年間販売35万台を計画するマツダ3が2割以上を占める計算だ。

「世界ではSUV化が進んでいるが、多くの国で初めて車を買う人が選ぶ車がCセグメントカー」と丸本社長は話し、Cセグメントに属するマツダ3を販売戦略上の基幹車種と位置付ける。最初に買う車にマツダ3を選んでもらい、マツダファンになってもらえれば、次の乗り換えでもマツダ車を買ってもらえる可能性が高まるからだ。日本でもマツダ3がエントリー層を取り込む役割を担い続ける。

実際、「(価格帯が低い)1.5リットルのガソリンタイプを設定したのは若年層をカバーするため」とマツダ3のマーケティングを担当する国内営業本部の齊藤圭介主幹は話す。

アクセラは「ファミリア」の後継車種として2003年に初代が登場。2009年発売の2代目、2013年発売の3代目とフルモデルチェンジごとに乗り継いでいるコアなファンも多い。国内保有台数(新車登録時のみ、中古車は除く)は約15万台もあり、マツダ3への一定の乗り換え需要は見込めそうだ。

ただ、Cセグメントの市場規模は国内では2012年に40万台あったが、2016年度には30万台と4分の3に縮小している。従来のアクセラと同じような売り方では販売台数を伸ばせないことは想像に難くない。

そこでマツダはセダンを買う消費者がセグメント(車両の大きさ)をまたいで車種を選んでいることに着目。価格帯をCDやDといった上位のセグメントにも広げることで、市場規模を自ら広げることにした。ハッチバックはこれまで低・中価格帯をカバーしてきたが、これを高価格帯にまで拡大することで市場規模を4割増やす。セダンは従来の低・中価格帯から中・高価格帯に価格帯をスライドすることで市場規模を5割増やす。

欧州系と同じ土俵で戦う

Cセグメントの中高価格帯には欧州メーカーの有力車種がひしめき合う。独フォルクスワーゲンの「ゴルフ」やBMWの「1シリーズ」、メルセデス・ベンツの「Aクラス」、アウディの「A3」など。最近では輸入車各社が価格帯を下に広げていることもあり、競合は激化している。国内営業担当の福原和幸常務執行役員は「新型マツダ3には輸入車ユーザーからの問い合わせも多い。これだけのデザインと装備でこの価格は安いと話す方も多い」と明かす。
 
マツダは2012年のCX-5を皮切りに投入した商品がヒットを連発し、輸入車ユーザーからの買い替えや買い増しを獲得できるようになってきた。革新的なSKYACTIVエンジンや魂動デザインの導入でブランド力が引き上がったことが大きい。マツダは今のブランド力があれば、マツダ3を輸入車と競合する価格帯に投入したとしても勝算があると見る。


新型マツダ3について発表する丸本明社長(写真:尾形文繁)

メインターゲットは、ハッチバックが個性的な車を求める40代半ばの男性、セダンは走行性能に車の価値を置く50代男性だという。いずれも車に一定のお金を払える余裕のある層で、既存の輸入車ユーザーとも重なる。

価格帯が上がれば、商品性やブランド力がより重視されるのは言うまでもない。量販価格帯に比べて、他社とのインセンティブ(販売奨励金)競争に巻き込まれるリスクは減るが、ニューカマーが割って入るのはそう容易ではない。マツダの足元の世界シェアは約2%。台数成長には慎重な姿勢を取り、商品力、ブランド力の向上による収益性の改善に力点を置く。

丸本社長は「次の100年に向けて、規模が大きくはないマツダが存続し続けるために最も重要なことはマツダの独自性だ」と語る。現時点で持ちうる最新の独自技術やデザインを詰め込んだ新型マツダ3。その成否がマツダの今後の成長性を占うことになりそうだ。