「JKビジネス」にからめとられる少女らの現状

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日本の公的支援はすべての面でJKビジネスや性風俗に負けている(写真:まちゃー / PIXTA)

かつて検察による冤罪事件に巻き込まれ、そののち厚生労働事務次官まで務めた村木厚子さん。その経験を踏まえて日本型組織の問題点を語った『日本型組織の病を考える』(角川新書)を上梓した村木さんが、新たに闘っているのが「JKビジネス」だという。拘置所の彼女が見た「日本の闇」とは何か? 孤立と孤独と困窮に立ちすくむ少女たちのため、大人ができることとは――。

孤独な少女たちを受け止めるJKビジネスの実態

2009年、私はいわゆる郵便不正事件で大阪地方検察庁特別捜査部に逮捕され、その約1年3カ月後に無罪判決を受け、復職しました。いかにして私が国家の暴走に巻き込まれ、そこでどう行動したかについては自著でも詳しく語っていますが、取り調べを受けていた時、次のような質問を検事にしました。

「あの女の子たちは何をしたんですか」

私が勾留されていた大阪拘置所には、未決囚だけでなく、刑務作業として食事や洗濯物などを運ぶ女性受刑者がいました。みんなかわいらしく、化粧をしていないすっぴん姿のせいか、とても幼く見えました。

「薬物が多いですね。売春もいます」

驚きました。目の前の彼女たちとそれらの犯罪とが、結び付かなかったからです。

無罪が確定して職場に復帰し、生活困窮者支援の仕事を担当した時に、拘置所で見た少女たちの姿が目に浮かびました。仕事を通じて、貧困、虐待、ネグレクト(育児放棄)、家庭内暴力など、家庭的に厳しい環境に置かれた少女たちがたくさんいるのを知りました。

お金がない、住むところがない、信頼できて相談できる人がいない……孤立と孤独と困窮に立ちすくむ少女たちを結果的に受け止めているものがあります。JK(女子高校生)ビジネスや性風俗、AV(アダルトビデオ)のスカウトなどです。

JKビジネスは、女子高校生くらいの年代の少女たちに接客などをさせるビジネスのこと。これらの性産業に取り込まれていく過程で、少女たちは薬物依存症の被害に遭ったり、摂食障害となったり、早すぎる妊娠や出産を経験したりします。そして事件に巻き込まれ、拘置所や刑務所に来ることになってしまうのです。


村木厚子さん(写真:KADOKAWA提供)

家庭にも、学校にも「居場所」を失ってしまった彼女たち。その少女たちを、結果的に受け止めているのが「夜の街」です。助けが必要な子ほど、出合ってはいけないものがそこにある。助けが必要な子ほど、支援に結び付いていないという実態がある。

家出した少女や薬物依存の女性たちを支援する団体の人に話を聞く中で、私が衝撃を受けたのは、「日本の公的支援はすべての面でJKビジネスや性風俗に負けている」という言葉でした。

実態がどのようなものか。支援者の人たちと夜、東京の繁華街に出かけました。教えてもらわないと気がつかないのですが、スカウトの黒服の男性たちが数メートルおきに立っています。

支援者の人たちによると、男性たちは、1人でいる少女を見つけては「ごはん食べた?」「今日寝るところある?」と声をかける。「食べてない」「寝るところがない」と言うと、すぐに食事に連れていってくれ、寝るところも用意してくれる。かゆいところに手が届くような対応です。しかも、役所や警察のようにあれこれ事情を聞いたりせずに、迅速に、その場でどんどん彼女たちが気がかりに思っていることを解決していくのです。

別の支援者の次の言葉も印象的でした。

「厳しい環境で育った子どもたちは、『安全のセンサー』が狂いがち。だから、おぼれている人に『わらをつかむな』と説教しても意味がない。ちゃんとブイを投げるべきだ」

困っていたら相談に来なさいと、でんと構えていたらスカウトのお兄さんがさっさとさらっていく。お説教している間に、少女たちは荒波にのみ込まれてしまう。「申し訳ないけど、ここで支援できるのは〇歳までなんです」なんて言っている間に、悪徳ビジネスにからめ取られてしまう。

何とかしなければ――。そう感じた大人たちが始めたのが、貧困、虐待、孤独など、生きづらさを抱えた少女たちに寄り添う「若草プロジェクト」の活動でした。

活動の柱は「つなぐ」「ひろめる」「まなぶ」

審議会の仕事などを通じて知り合った弁護士の大谷恭子さんが、作家の瀬戸内寂聴さんと引き会わせてくれて、この問題に一緒に取り組むことになりました。退官後の2016年、一般社団法人を設立し、「若草プロジェクト」と名付けた活動を始めたのです。

活動の柱は「つなぐ」「ひろめる」「まなぶ」の3つ。

「つなぐ」は、少女たちと支援者をつないだり、支援者同士をつないだりすることです。今の若者は無料通信アプリのLINEのほうが相談しやすいと聞き、LINE相談を始めました。そこで受けた相談を、専門家につなぐことをしています。

「ひろめる」は、少女たちの実情を社会に広める活動です。また、こうした支援があることを、少女たちに知らせる活動でもあります。

少女たちが家出したり、援助交際に走ったりしたというと、それは彼女たちが勝手にやっていることで自己責任だとか、家庭の問題だ、親の責任だという声が多く聞かれます。でも、自己責任というには若すぎる年齢の少女たちです。家庭内暴力や、学校での陰湿ないじめなど、本人だけの責任とはいえないところもあります。そこに性的なものが絡んでいれば、外に相談するのはなおさら難しくなる。そんな少女たちの実態を、シンポジウムや広報活動を通じて広めています。

「まなぶ」は、彼女たちの実態を学び、信頼される大人になるための活動です。研修会を連続して行っています。「若草プロジェクト支援マニュアル」も作っています。支援したい人向けのハンドブックで、少女たちの現状や現行の支援制度、支援の実例や解説などを載せています。彼女たちの心情はどのようなものか、どう理解を深めたらよいのかなどについて、児童養護や婦人保護の施設、警察、学校、生活困窮者支援に関わる人たちによる解説も載せています。

緊急避難先「若草ハウス」を都内に作った理由

既存の支援団体には、20代や30代くらいの若い支援者も多くいます。感心したのは、少女たちと年齢が近いせいか、少女たちへのアプローチの仕方がとても上手なこと。何に困っているのか、何に悩んでいるのかを巧みに聞き出して、悪徳商法や性風俗に利用されないように支援する。「ピアサポート」がうまくいっています。

少女たちから信頼され、声をかけられる大人をたくさん増やしたい。そう思って、始めた連続研修会はすでに7回を数えます。2017年度は相談受付件数が1000件を超え、直接会って支援が必要とされたケースも8件ありました。

「若草ハウス」を作る決断もしました。若草プロジェクトの活動実績から見て、ちょっと早すぎるかと思いましたが、手頃な土地が見つかり、建築できるチャンスがあったため、「背伸びしても始めてしまおう!」と、メンバーで決めたのです。場所は東京都内で、2階には少女たちが生活できる場所、1階には一時避難所のように一晩か二晩、彼女たちが安心して心も身体も休めることができる場所を作りました。


「若草プロジェクト」は大学とも連携していて、いくつかの大学とは研究・調査に関する情報交換などを行っています。企業とのコラボレーションにも力を入れています。自社製品を提供してくれる企業と少女たちの支援者をつなげることを始めました。まずユニクロを展開するファーストリテイリングと連携して、洋服や肌着の寄付を開始しています。

自信をなくして閉じこもっている少女たちや自立のために就職活動を始める子たちに向けて、洋服のコーディネートとメークアップをするファッションイベントも始まりました。「服の力」って大きい。自信なさげに参加していた子が、似合う服を選んでもらってお化粧してもらうと、みるみるうちに表情が変わって、自信を取り戻していく。服だけに限らず、企業がこの分野でできることはまだまだたくさんあるはずです。

少女たちを通して、社会のさまざまな歪みが見えてきます。薬物依存の背景を探っていくと、性暴力から逃げ込むための薬だったり、無理に依存症にさせられた結果の薬だったりします。犯罪者というよりも、「被害者」と呼んだほうがふさわしいのではないかと感じるときもあります。こうした現実に目を背けない大人でありたい。そう考えています。