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日本大学アメリカンフットボール部のラフ・プレー問題が急展開を見せている。内田正人監督の辞任に続いて、当事者である日大の選手が5月22日に記者会見し、「監督やコーチの指示により反則行為を行った」と明言。問題が拡大した理由は何か。橋下徹氏は、危機管理における初動の失敗を指摘する。プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(5月22日配信)より、抜粋記事をお届けします――。

■日大の「責任者雲隠れ+疑惑全否定」は最悪の初動対応だ

日本大学のアメリカンフットボール部が大騒ぎになっている。関西学院大学との伝統の定期戦で、日本大学のある選手がとんでもないラフ・プレーを行なった。そしてこのラフ・プレーが内田正人前監督の指示に基づいていたのではないかとの疑惑が浮上した。

このラフ・プレーの動画がネットで流れ、瞬く間に大手メディアを通じて日本中での大騒ぎになったけど、当事者である内田前監督はいったん雲隠れして説明から逃げ回り、日本大学も明確な説明を行わなかった。そして最初に公に出した声明は、「ラフ・プレーを監督が指示したことはない」との全否定。

説明不足、謝罪不足、調査不十分のままでの疑惑全否定という、もう最悪の初動危機管理対応の典型例だよね。森友・加計学園問題での安倍政権の対応や、福田淳一元財務事務次官のセクハラ問題での財務省の初動対応とそっくり。

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では、日本大学が最初にとるべきだった対応とはどんなものか。

まず即座の責任者会見の設定。メディアの状況から日本中で大騒ぎになることを素早く察知して、大学のトップである学長とアメフト部監督の共同記者会見の設定は最初に絶対に必要だよね。アメフト部の問題にとどまらず、大学全体の問題だと認識して学長が乗り出すことが必要な事案。ここに気付かなければ、危機管理の指揮官として失格。このようなことは危機管理学部の授業では「リスクコミュニケーション」として授業が行われる分野かな。でも大学では小難しい抽象論ばかりやっているから、いざ実践では役立たないんだよ。簡単に言えば、メディアの状況を見て、どれだけの騒ぎになるかを察知する能力。日本大学にはこの能力が欠けていたね。

僕も大阪府知事、大阪市長のときに、役所の職員が不祥事をやった際、メディアの報道状況をみてこれは役所全体の問題になるなと感じれば、担当部署の幹部に任せっきりにせずに、知事・市長自ら会見の前面に立ったね。

ラフ・プレーの映像を観る限り、日本大学・アメフト部としては、自分たちの行動を正当化する要素は全くない。対外的に死ぬほど謝らなければならない事案であることは明らかである。そうであれば、とにかくまず公に被害相手に謝る必要がある。そして謝る時には、中途半端な形は最悪で、ここまで謝るか! というくらい、最初にしっかりと謝らなければならない。後から小出しに謝ることは全く効果なし。

日本大学の最初の躓きは、第一次責任者である内田前監督とそして組織トップである学長がすぐに会見を開かなかったことだけど、さらに最悪の初動対応は、自分たちの責任を小さくしようと考え、調査不十分なまま事実関係の安易な全否定から入ったことだ。

あのラフ・プレーは、どのような言い訳もできないもの。ところが報道では、内田前監督の指示に基づいていたものかどうかが騒がれていた。日本大学とアメフト部は、少しでも自分たちの責任が軽くなるようにと考えたのか、最初の公の声明において「監督の指示という事実はない」と全否定から入った。ほんとこの対応が、その後の危機管理がうまくいくか、最悪のものになるかを決める超重要ポイントで、たったこの1つの初動危機管理対応のミスが、速やかなダメージ回復を完全に阻害した。逆に、ここでうまく対応すれば、ダメージ回復はスムースに進んだと思う。

監督がラフ・プレーを指示したか指示していなかったかは、後からきっちりと調査して確定すればいい事実で、最初の段階で全否定する必要は全くない。まず認めなければならないことは、今回のラフ・プレーはあってはならない反則行為であり、これは内田前監督の指示に基づいたものであったかどうかに関係なく、チームの最高責任者である内田前監督の責任であるということだ。

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■日大や安倍政権と対照的! TOKIOと山中さんが危機管理に成功した理由

まとめると危機管理指揮官としての危機管理マネジメントのポイントは次の通り。

(1)事案の概要を見て、責任を認めるべきかどうかを判断。道義的責任があるのであれば、後の法的賠償責任のことは考えず、全面的に責任を認めて、真摯に徹底して謝罪する。加害当事者(加害学生)の社会的制裁を緩和するためにも、加害当事者の反省・謝罪の意を直ちに公表する。

(2)報道の状況などを見て、組織の最高レベルのトップ(学長)が出るべきかどうかを判断する。第一次的な責任者(監督)は必ず前面に出る。

(3)責任を認めて謝罪をした上で、細かな事実関係については、第三者調査チームで徹底調査することを宣言する。いつまでに公に報告をするか納期を設定する。原則は1カ月後。1カ月以上の調査が必要な場合には、まずは1カ月後に中間報告することを約束する。

(4)メディアの報道に踊らされて、事実確認をしなければならないポイントを見誤らないこと。言い訳のための安易な事実否定は厳禁。事実調査は責任を認める姿勢でやるのが原則。仮に言い訳し得る事情・責任を減じる主張がありそうでも、それは慎重に主張する。

(5)責任を認めるにあたって、同種他事例や同業他社(者)の状況も調べる。自分たちが特殊なのかどうかを確認し、特殊でなければ、反省・謝罪を徹底した上で全体の改善のためにその旨も主張する。

このように言われてみれば簡単で当たり前なことだけど、事前にしっかりと勉強しておかないと、いざその場では思いつかない。現に危機管理学部を擁する日本大学はこれらのことが全くできていないからね。日本大学も、僕を危機管理学部長にした方がいいんじゃないの? ただ報酬もしっかり頂くよ。安い値段では良い人材は来ないよ!

ちなみに最近の事例で、危機管理のお手本はTOKIO、ちょっと前では京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥教授(所長)だろう。

TOKIOはメンバーである山口達也さんの未成年者に対する強制わいせつ事件で、山中さんはiPS細胞研究所のメンバーである山水(やまみず)康平・特定拠点助教による論文不正事件で、危機管理対応することになった。TOKIOも山中さんも、危機管理としてあのような対応をしていたわけじゃないと言われるかもしれないけど、本人たちの意図はどうであれ、客観的にはパーフェクトな危機管理対応だった。実際、もうTOKIOにも山中さんにも批判の声は続いていない。逆にTOKIOや山中さんに同情の声が上がったほどだ。

TOKIOは、メンバーの一人である国分太一さんが朝の情報番組の司会をやっていることもあり、番組でもたっぷりと時間を割いていた。TOKIOのメンバーは徹底した謝罪を繰り返した。山中さんも同じく徹底した謝罪と事実解明を実施した。TOKIOは芸能事務所社長のジャニー喜多川さんが文書で謝罪の意を伝えたものの、トップによる公の記者会見は開いていない。トップがやらなければならない役割をTOKIOメンバーが一手に引き受けた。

ちょうど今、加害学生が記者会見を終えた。立派な記者会見だった。監督からラフ・プレーの指示があったとしても、それを断らなかった自分に責任がある、と。しっかり謝罪と反省の意も伝わった。初動の危機管理対応としてはパーフェクトだ。是非、被害学生と和解して、再びアメフトの世界に戻ってきて欲しい。

初動対応をしっかりとやれば、無用な批判を沸き上がらせることはないし、批判は沈静化する。真逆の拙い初動対応が、安倍政権や日本大学(アメフト部)。初動危機管理対応の巧拙が面白いぐらい比較できる事例だね。

(ここまでリード文を除き約3000字、メールマガジン全文は約1万8500字です)

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.104(5月22日配信)を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【危機管理の授業】TOKIO、山中教授とは正反対! 日大アメフト問題はなぜ深刻化したか?》特集です!

(前大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 写真=iStock.com)