世界に一枚のアナログレコードからダンボール製レコードプレーヤーまで! デジタル時代にアナログで挑戦する「CUT&REC」

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ミレニアル世代を中心に、アナログレコードの需要が高まっている。
2016年までの過去10年間のレコード販売数は世界全体で1225%増と驚異的な伸びをみせている。

こうした背景を追い風として、アメリカやヨーロッパでは、1枚だけの特別なレコードを製作する「ダブプレート」のカルチャーが市場や消費者の間でも根付きつつある。

合同会社サウンドロープも、世界に一枚だけのオリジナル・レコードをオーダーメイドできるオンラインサービス「CUT&REC」を提供している会社だ。

今回、合同会社サウンドロープ代表諸富栄治氏にお話をうかがった。


■オリジナルのレコードを注文してみよう
「CUT&REC」はアナログレコードを作ることができるサービスだ。
・音源
・画像
さえ用意すれば、誰でも1枚からジャケット付きのアナログレコードを作ることができる。

同社のWebサイトで、オリジナル音源や画像をアップロードすれば、3Dアニメーションでレコードの完成イメージがプレビュー表示され、スムーズにオリジナルのレコードを注文することができる。
オリジナルのレコードは、注文後、約10営業日で完成し、世界中に届けられる。
ただし、著作権及び著作隣接権、原盤権、肖像権などの権利侵害にあたる音源や画像ファイルは使用できない。

実際に、オリジナル・レコードを作る手順をみてみよう
「CUT&REC」のサイトにアクセスし、「レコードを作ってみる」ボタンを押す。




レコードのサイズを選択する。
選択できるのは、3種だ。
・ 7インチ盤(45/33回転)・10インチ盤(45/33回転)
・12インチ盤(45/33回転)




レコードのタイトルを入力し、音源(音楽データ)をアップロードする。
対応する音楽データのファイル形式は
・WAV
・MP3
・M4A





ディスプタイプを選ぶ
・ブラック
・クリア
・ピクチャー
上記の中から選択して、A面とB面をデザインする。




ジャケットをデザインする。
ジャケットの写真の画層は、JPEG形式でOKだ。




すべて完了すると、レコードの完成イメージが表示される。
表面や裏面、背表紙を確認する。




音源確認では、アップロードした音楽データの音をチェックすることができる。




あとは、画面の指示にしたがって、届け先、支払いを済ませれば完了だ。


音楽試聴は、今やネットストリーミングが主流だ。
このデジタル時代にあえてアナログレコードでのビジネスを展開しているのは、なぜか?
サウンドロープ代表兼プロデュサー諸富栄治氏にうかがった。



合同会社サウンドロープ代表兼プロデュサー諸富栄治氏



●アナログレコードは、実はデジタルよりも息の長いメディア?
記者:「CUT&REC」のサービスについて教えていただけますか?
諸富代表:アナログレコードを1枚から作るサービスです。
一般的にアナログレコードというと、ミュージシャンですと、少なくても100枚以上でないとオーダーができませんし、工場とやり取りするかたちになります。もともとレコードはメディアとして面白いなというのがありました。

レコードはジャケットが大きいので、写真としても映えます。そういったところで個人の方に思い出となる1枚のレコードを作るサービスが、どこかにないかと自分でも1度さがしたことがあるんです。
でも、その時は見つからなかったので、なかなかないものだなと思いました。

もともとITのウェブの制作、ブログを会社としてやっていまして、その中で新たな事業としてレコードを1枚から制作するサービスというものを考えて、やってみようかと始めたものになります。


記者:サービスを開始されたのは、いつからでしょうか?
諸富代表:昨年の10月に本格的に開始しました。それまでは試験的にやっていましたが、そこからが本格的なサービスの開始となります。半年ぐらい前ですかね。


記者:ゼロから始めるのは大変ではなかったですか? 
諸富代表:「レコードを1枚から作れるマシンが売られている」という情報があったので、それを購入しました。ジャケットは紙なので、そこまで難しくはなく、業者さんにお願いすればできるかなと思っていました。
でも、1枚からのオーダーとなると、なかなかできなくて、自分たちでやることになったんです。

レコードは当初、外注を考えていました。
しかし業者さんが少ないということで、こちらも自分たちで製作することになりました。

トライ&エラーで何度も失敗を重ねました。
その中でレコードに関しても、ジャケットに関しても、一般的な市販のクオリティーまでになったということですね。実際にスタートさせるまでは、試験期間を含めて2年半くらいかかっています。


記者:アナログレコードの方が、音がいいというオーディオファンも多いですよね。
諸富代表:CDは記録できる周波数帯域が限られています。レコードは、そうした制限がありません。私も実際、レコードを聴いてみて、音がいいと体感的には感じております。音の立体感がだいぶ違うと思います。
CDにはCDの良さがあると思いますが、それ以上の良さがアナログレコードにはありますね。
音のやわらかさとか、丸みとか。

私が聞いていて思うのは。音は振動だということ。本当に音は振動であるのだなというのを感じます。
CDの場合は音域の中の人の可聴範囲外の振動部分がカットされているのが、アナログレコードとの音質の違いになっているのだと思います。



記者:CDなどのディスクより、アナログレコードのほうが長く保存されているという意見もありますね。
社長:やはりアナログの強さですね。物としてちゃんと保管できれば、それなりに音も変わらないので。
「CUT&REC」サービスは、個人の作品や思い出を残せるサービスなので、アナログが一番長く残せて、時代に影響されません。

今のところ100年以上前のレコードもあるので、そういう意味ではメディアとしても実は優れていて、息が長く、今後も残っていくメディアだと思います。


●友人の結婚式でプレゼントしたい! サービス開始へのきっかけに

合同会社サウンドロープディレクター兼カッティングエンジニア橋本洋氏


記者:「CUT&REC」のサービスを始めようとした直接的なきっかけはあったのですか?
諸富代表:もう10年以上前に集めていたCDを全部携帯電話に移して、携帯電話で聞くようになったんです。便利なんですけど。レコード屋さんに行ったら、「物の存在感」を、まざまざと見せつけられまして、やっぱり、物っていいなと思いました。

そのとき友人の結婚式があって、レコードやジャケットを作ってプレゼントしたら喜びそうだなと思ったのが、最初のきっかけです。

そこから調べて、そうしたサービスがあまりなかったので、橋本と一緒に「やってみたら面白いかな」ということになりました。橋本は、もともと音のプロで、自分はウェブの設計ができるので、一緒にできるという感じで始めました。


記者:サービスを始めて、まわりの反応はどうでしたか?
諸富代表:レコードに興味がある人の反応は物凄くありました。
それとは逆に
「何で、今、レコードなの?」
という、レコードにあまり興味がない人もいました。
「今はCD-RもDVDもあるのに、なぜ、レコードなのか?」というわけです。

反応は真っ二つですね。若干ニッチなものなので、レコードが好きな方からすると「凄く面白い。」と言っていただけますが、その良さがわからない方も、もちろんいます。

最初のアイデアを話していたときは、まだストリーミングも日本では普及していない時期でした。
海外ではストリーミングが普及しだし、その影響でレコードが売れだしている状況でした。
多くの人がCDを聞かなくなってきているので、逆にレコードのような物への欲求が出てきたのかなと思います。

結局、ストリーミングはちょっと聞きたい。もしくは、音楽が凄く好きで聴き放題でたくさん聞きたいという人が、聞いている状況になるわけです。こだわりや甲乙などをつけずに、単純にライブラリーを共有して音楽を再生するという感じです。

そうすると、お気に入りを自分の「物」として持っていたくなる。
それが「レコード」になるのだと思います。


記者:先ほどの結婚式の話が出てきましたが、需要は多いのでしょうか?
諸富代表:うちも注文の3割ぐらいは結婚式です。ミュージシャンからの注文が大半ではあるのですけど、あとは誕生日が1割ぐらいです。

結婚式も誕生日も特別なものですし、特別な1枚を提供できたらと。


結婚式のために作られたアナログレコード


このレコードは、
結婚式のあとに結婚式のビデオを撮っていて、中身は結婚式の余興で旦那さんが奥さんにメッセージを言いながら歌を歌うみたいな前撮りの写真をジャケットにされています。透明盤もあります。
ドイツから輸入しているレコード盤で、この素材であると、安定した音になります。


●サービスを開始するまでの長い道のり
記者:サービスを開始するために、どんな試行錯誤がありましたか?
諸富代表:試行錯誤は多かったですね。大きく分けると、3つ。

・制作でレコードをカットする
・ジャケットやレーベルを印刷する
・入稿するシステム

この3つを開発する必要があったので、ほとんどトライアル&エラーでした。
ジャケットとかも印刷工場を参考にしてみましたが、けっこう独自のやり方になったと思います。

記者:インターフェイスを拝見すると、ビジュアルで非常にわかりやすく作られていますね。
諸富代表:そうですね。実は、まだスマホでできていなくて。スマホアプリを開発しなくちゃというところなんですけど。デスクトップは問題ありませんが。

記者:サイトをスマホ対応にするとか?
諸富代表:どうせなら、アプリに対応させてしまって。両方できるようにすれば、工数的にも予算的にも、両方一緒に実現できるかなというのがあって、そうやってみたいと思っています。

記者:価格ですが、私から見たら安いと思うのですが。
諸富代表:そうですね。ただ若い方からしたら、なかなか手が出せないかなと。
でも、人件費もけっこうかかってしまうので、これくらいになってしまいます。

インターフェイスはデジタルなんですが、ここからデータを受け取って、こちらが作る作業はアナログの領域が多いのです。アナログな制作では時間が凄くかかってしまうので。

記者:1枚でも、10枚でも、クオリティー的には、同じものが出せるんですか?
諸富代表:そうですね。音とか、クオリティー的なものに関しては、同じものが出せます。
うちは30枚までしかやっていないんですけど。工場のようにプレスで作るのと異なり、うちは1枚ずつ判を作るような作業で制作しています。


レコード盤を削るカッティングマシン



ドイツ製のカッティングマシン【CUT&REC】- YouTube動画

●試行錯誤の末のサービスイン、さらなる夢へ
諸富代表:最初は、システムをうちで作って、あとは外注しようと思っていたんです。
それができないとわかったときに、自分たちでやろうと。ただ始めたら、非常に難しかった。

レコードの場合は、レコードをカッティングされている方がいらっしゃって、その方のご協力がありました。
ジャケットに関しては、印刷会社で働いたことがある知り合いや、パッケージデザインをしている方などと協力しながら独自のかたちを作っていった感じです。

諸富代表:最初にサービスを始めるにあたって、橋本と
「夫婦で旅行へ行ったときに、旅先の場所での音とか、プライベートなレコードにして提供」
できたら、けっこう面白いね、という話をしていたんですけど、そういう注文が本当に最初に入ったときに、手ごたえを感じました。

記者:とくに力を入れているところはどこでしょうか?
諸富代表:橋本の領域ですが、レコードの音の部分は特にこだわっているところです。

記者:思い出深いことは?
諸富代表:カッティングも、レコードのジャケットも、最初の頃は失敗だらけでした。
ジャケットでいうと、ここは折り曲げるときに割れるということが何度もあったので、そのあたりのクオリティを高めるというのが難しかったです。そこの力具合とか。ラミネートしたあとのカットとか。
あとはカッティングの部分が一番大きいですね。橋本がメインになるんですけれども。針先の針圧だったりとか。


記者:メディアとかの反応はどうですか?
諸富代表:今回は海外向けの発表だったのですけど。最初、去年の10月はいろんなところにとりあげられていただきました。あとはラジオにも出させていただきました。
まだまだプロモーションが足りてないところもあるんですが、今、日本でもレコードが少し盛り上がってきているところがあって、注目していただいています。

昔から自分の音楽をレコードにしたいという人が反応してくれて注文をいただいたりとか、嬉しいですね。
けっこう若い人から年配の方もいらっしゃいます。

注文されているミュージシャンの方の話を聞くと、
・自分の楽曲なんだけど、この人のために
・お世話になった人のために
とか、個人のためやプレゼントとか、そういう使い方をされているのも、凄く嬉しいなと


記者:最後に、今後の展開をうかがいたいのですが。
諸富代表:まずはアプリ化です。今はまだスマホとか、タブレットから入稿できない状況なので、それをアプリからもできるようにしたいです。
できれば、
・スマホでメッセージを録音
・スマホで撮影
とかしたデータを音源やジャケットになるとか。
そういう機能を年内にどうにかやりたいです。

もうひとつは。レコードレーヤーがない方がけっこういます。
そこで「レコードプレーヤーがない人にも楽しめる「ダンボール製のレコードプレーヤー」を作っています。
まだ途中の段階なのですが、これも凄いアナログ感ですけど。


ダンボール製のレコードプレーヤー



ダンボール製のアナログレコードプレーヤー【CUT&REC】- YouTube動画

「CUT&REC」のサイト


ITライフハック 関口哲司